4 折り紙の鶴 【4-5】

右の三つ編みを指に絡めながら、心の顔をじっと見る。

心はその場で腰を下ろし、女の子と同じ視線を作った。


「こんばんは」

「うん……」

「私は桜沢心です。温君のお父さんと、同じお店で働いているの」

「お店?」

「そう……」


担任の先生は、『花音ちゃん……帰りのお支度して』と、その女の子を部屋に戻す。

心はこちらを向いて小さな手を振った花音ちゃんに、同じように手を振り返した。


「『かのんちゃん』って言われてましたね、今の女の子」

「そうですね」


二人の視線の先で、花音は帽子をかぶり、通園バッグを肩にかける。


「今の子供って、おしゃれな名前が多い」

「あぁ……そうですね。
温の友達にも、たしか『宇宙』と書いて『コスモ』君って子がいますし」

「コスモ?」


心は、そうですかと頷く。

すると温が、とも先生と一緒にこちらへ走ってきた。

走ってくる温を見ながら、心は自分が前にいるのはおかしいと思い、

壮太郎の斜め後ろに立つ。


「パパ!」

「温……」


温は笑顔で壮太郎を見た後、すぐに心を見た。

心は、花音ちゃんの時と同じように少し姿勢を低くする。


「こんばんは、温君」

「こんばんは」


温は、姿勢を低くし、しっかりと視線を合わせられたことが恥ずかしかったのか、

壮太郎の足をつかみ、隠れるようにする。


「あら……恥ずかしがり屋だ」

「誰ですか」


温はそういうと、笑顔で心を見る。


「こら、温」

「いいんです、そうだよね、誰だかわからないよね」


心は『桜沢心です』と自己紹介をする。


「こころ?」

「そう、心」

「パパが今日から働いている『有森不動産』の桜沢さん。
普段はパパがちゃんと迎えに来るけれど、
たとえば、車が混んでしまって保育園が閉まる時間になっちゃうよって時に、
心さんが迎えに来てくれることが、あるかもしれないから、先生にご挨拶をしたんだ」

「エ……」


壮太郎の話を聞いた温は、すぐに不安そうな顔をした。

心は、温のそんな表情の変化に気づく。

大人なら、文字に示されたことを当然だと納得出来るが、

まだ5歳の温は、もしかしたらとかたとえばなんて話を、すぐには受け入れられない。

心は、温の表情を見たため、ポケットから小さな鶴を取り出し手の中に入れた。

それを温の目の前で広げてみせる。


「はい、温君。鶴さんです」


少し羽を持ち広げてみると、鶴は羽ばたくような形になる。


「あ……」

「大丈夫だよ、パパがちゃんと温君のお迎えに来てくれるから。
でも、心さんが来た時は、パパが忙しい時だから、
お店で一緒に鶴さん折って待っていよう」

「……うん」


温は心の手の平にあった鶴を取る。

その鶴を、『チョンチョン』と言いながら、心の肩や腕の上で動かした。


「ほら、温……」


壮太郎は温の腕を引き、その行為を辞めさせる。


「大丈夫ですよ、西森さん」

「いえ……」


心は、目の前にいる温よりも、壮太郎の方が緊張していることに気付き、

どこかおかしくなる。


「温君、心さんはカエルさんも折れるよ」

「カエル?」

「そう、実は折り紙得意なんだ。今度作ってあげるね」

「うん……」


温の顔は、折り紙と心の笑顔で、すっかり『晴れ』に変わっていた。





「温、洗濯するものはカゴに入れて」

「はぁ~い」


電車に乗り部屋に戻った壮太郎は、

タイマーでセットしたご飯が炊けていることを確認した後、

すぐにおかず作りにとりかかった。

温は言われた通り、袋から汚れたものを取り出し、洗濯機の横にあるカゴに入れる。



『鶴さんです……』



心が温にくれた鶴は、テーブルの上にちょこんと乗っている。

温は帰りの電車や歩きの道でも、嬉しそうに鶴を持ったままだった。

自分と保育園に向かうことになった心が、

温を和ませようと、あらかじめ作ってくれたのだと考える。

壮太郎は、心の顔を思い浮かべながら、

『ありがとうございます』と気持ちの中でつぶやいた。


「ねぇ、パパ……カレー食べようよ」

「ん? カレー?」

「うん……カレー」


温は『食べたいよね、鶴さんも』と言いながら、折り鶴を持ちテレビをつける。


「鶴さんは、何を見ますか?」


温は折り鶴にそう言った後、それをテレビの上に置く。


「温……」

「何?」

「今日はもう決まっているから、カレーは無理だよ」


温はすぐに振り返る。


「ダメ?」

「ごめん、これからだと時間がかかるだろ。
温はこれからお風呂にも入らないとならないし。きっと寝ちゃうぞ。だから明日」

「明日? わかった。明日はカレーだよ」

「おぉ……」


壮太郎は仕事の帰りに、スーパーでレトルトを買おうと思いながら、

フライパンに材料を入れた。


【5-1】



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