6 感情のすれ違い 【6-2】

「温、今日は何にしようか」


温と暮らすことになり、最初こそ初めてのことだらけでバタバタしていたが、

壮太郎はメイン惣菜を一つ買い、なるべく夕食作りに負担がかからないように、

工夫をし始めた。素人に近い自分が、あれこれやろうとすると、

手際もそれほどよくないため、とにかく時間がかかる。

その間に遊び疲れた温は眠くなってしまい、無理矢理起こしてから食べさせるのは

かえってかわいそうな気がしていた。


「唐揚げ!」

「唐揚げ……」

「うん」

「よし、そうしよう」


壮太郎は電車に乗り、最寄り駅まで戻ると、近所のスーパーへ入った。

『唐揚げ』のリクエストを受けていたので、売り場の前に立つ。


「温、どれがいい」


惣菜コーナーには、美味しそうな唐揚げが並んでいた。

10個入りくらいのを買えばいいかなと思い、手を出そうとしたが、

温は納得がいかないのか、不満そうな表情を浮かべている。


「どうした」

「……違う」

「違う?」

「こういうのじゃない」


温はそういうと、『クルクルのがない』と寂しそうな顔をした。


「クルクル?」

「うん……」


壮太郎はどういうことだろうと考えながら、唐揚げ売り場のまわりを見る。

そばにエビフライがあり、上にタルタルソースがかかっていた。

『クルクル』とは『タルタル』の言い違いだろうと考える。


「温、こういうのがないってこと?」


壮太郎はエビフライを持ち、ソースを指さした。


「違う」

「違うの?」


『クルクル』は『タルタル』ではなかったようで、温は何度も首を振った。

壮太郎は、他にどうすればいいかと考えてみるが、時間がどんどん過ぎてしまう。

壮太郎はそばにあった唐揚げの10個入りを取る。


「温、今日はこれにしよう。このお店にはないんだよ」


温はそれ以上主張せず、黙ったまま壮太郎についてくる。

他にもパンや牛乳をカゴに入れ、2人はレジに並んだ。





『クルクル』



この言葉の意味を、さやかならすぐにわかるのかもしれないと思い、

壮太郎はラインを開いた。温はお風呂に入り、食事にも文句を言わないまま、

しっかり食べて布団に入っている。

しかし、文章を打ち込もうとして、その指が止まった。

こんな自分の苦悩を、新しい相手といるさやかには知られたくないという

妙なプライドが顔を出し、素直に出られなくなる。

壮太郎は携帯をテーブルに置いて立ち上がると、新聞の下にある雑誌を手に取った。

それは心が解いているパズル雑誌と、同じものになる。

ペラペラとめくってみると、まだ数問しか答えが出ていない。

いつもなら、購入した時間を考えると、半分以上は終わっているはずだった。

心が苦手だと話した問題を広げ、解いてみようかと思うものの、

頭は休憩を望んでいて、気づくと目を閉じてしまい、考える方へは動かない。

壮太郎は、洗濯物を干したままだったと気付き、すぐにベランダへ向かう。

中に入れて、それをハンガーから取り外すと、温のものを畳み始めた。





「いってきます」

「うん……」


今朝も温を『くれよん保育園』に預け、壮太郎は『有森不動産』に向かった。

歩きながらも、頭の中には昨日の『クルクル』が回る。

今朝、起きてパンを食べながら、『クルクル』の意味をあらためて温に聞いたが、

『白いよ』という、さらに混乱するようなヒントしか与えてもらえなかった。

扉を開けて、最初に顔を合わせたのは、心だったため、

壮太郎は女性ならわかるかもと思い、『おはようございます』の後に、

『お聞きしてもいいですか』を付け加えた。


「はい……」


心は、壮太郎がいきなり問いかけてきたので、何かあったのかと考えたが、

昨日、パズル雑誌の話をしたこともあり、

何か答えがわからないのかなと思い始める。


「昨日、唐揚げを買おうとしたんです。息子が食べたいと言って」

「エ……唐揚げ?」


心は、全く方向が違ったため、驚くような声を出してしまった。

壮太郎は、まずいことを言っただろうかと思いながら心を見る。


「すみません、くだらないような話で」

「いえいえ、ごめんなさい。私てっきり昨日の今日なので、
話をしていたパズル雑誌のことかと……」


心は『結構頑張って解いているので、胸を張ってしまいそうになりました』と笑う。


「あ……あ、そうか、いや……すみません」


壮太郎も、そういえば……と昨日の会話を思い出し、

確かに勘違いするかもしれないなと考えた。


「すみません、それで、唐揚げが何か?」

「はい。昨日、仕事の帰りに温と惣菜売り場に向かったら、
スーパーに並ぶものが違うと言われて」

「違う」

「はい。『クルクルがない』と言うものですから。
唐揚げにクルクルがないという表現が、どういう意味なのか……」


壮太郎は首を傾げながら、『タルタルではなかったです』と昨日の状況を話す。


「クルクルって、味のことですか?」

「いや、わからないです。今朝聞いたら、白いとかなんとか」

「白?」


心の頭の中も、疑問符がいっぱい広がりだした。


【6-3】



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