8 土曜日の雨 【8-3】

「大丈夫か」

「大丈夫です、千紘君と2人行けば、なんとか」

「西森さん、これ着てください」

「あ、ほら、バスタオルも複数枚持っていって。濡れちゃうでしょう」

「はい」


千紘と壮太郎は店に置いてあるレインコートを着込むと、長靴を履き出発する。

どれくらいの状況なのか、手当が必要なのかは行ってみないとわからないからだ。

節子は、汚れて戻ってきた時のためにと、

千紘のジャージやシャツを2階から出してくると言いながら、階段を上がる。


「風もさらに強くなってきたな」


有森のつぶやきに、心も外を見た。





「よかったよ、あの時間に行けて」


それから1時間後、壮太郎と千紘は排水溝に溜まった枯れ葉を取り去り、戻ってきた。

水はそれなりに流れていき、最悪の状態は免れそうだとタオルで頭を拭き始める。


「あそこ、業者の掃除頼んでいたよね」

「まぁ、そうだけれど、落ち葉などは勝手に落ちてしまうものだし、
敷地から1歩出るとな……」


有森は『風邪を引くから』と壮太郎に声をかける。


「すみません」


壮太郎は、ワイシャツの濡れた部分を何度かタオルで拭く。


「西森さん、とりあえずこれ着なさいよ。千紘のシャツだけど洗ってあるものだから。
ほら、ジャージもあるし……」


節子は、帰りまでにアイロンをかけてあげるからと、スーツから着替えるように言う。


「すみません、ならお借りします」


そう言って、着替えて出てきた壮太郎を見た節子は、

『ごめんなさいね』と言いながらも、笑いをこらえきれなかった。

千紘は『ひどいよな』と言いながらも、同じように笑ってしまう。


「足、長いな西森さん。身長、俺とたいして変わらないでしょう」


千紘のジャージを着た壮太郎の足は、くるぶしが見えてしまう。

節子は、『私たちの息子だから仕方が無いよ』と、千紘を励ました。

千紘は、『さらに落ち込むわ』と言葉をつなげる。

すると、また電話が鳴り始めた。


「おいおい、今度は何だよ。また詰まったとか言わないでくれよ。
俺はもうもう出ないからな」


千紘はそう言いながら、受話器を上げる。


「はい、『有森不動産』です。はい……あ、少々お待ちください」


千紘は受話器を保留にする。


「西森さん、保育園」


電話の相手は『くれよん保育園』だった。

『くれよん保育園』からの電話と聞き、壮太郎はすぐに受話器を取る。


「はい、西森です」


壮太郎の耳に届いたのは、温が室内でボール遊びをしていて、友達とふざけていた時、

ひっくり返ってしまい、足をひねってしまったというものだった。

本人は大丈夫だと言い起き上がったが、腫れているのがわかるようになったため、

病院に今、連れて行っていると聞かされる。


「はい……」


とりあえず戻ってきてからもう一度連絡しますと言われ、受話器を置いた。

節子は『熱でも出たの?』と聞き返す。


「いや、なんだか足をひねったらしくて」

「あら……」

「病院に行くと言われました」

「お迎えに来いって?」


節子はこんな天気だし、別にいいのではないかと有森を見る。


「あぁ、もし心配ならそうしてあげた方がいいよ。子供だから、動くなと言っても、
友達が動いていたら、遊びたくなるだろうし」


壮太郎は少し考えたが、『そうですね』と迎えに行くことを選択する。

保育園に連絡をし、戻ってきたらすぐに迎えに行きますと言い、電話を切った。

節子がアイロンを必死にかけたおかげで、壮太郎のズボンとワイシャツは、

元通りではないが、とりあえず着られるまでに回復する。


「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ……」

「西森さん」

「はい」


有森は、案内用の車が2台あるため、

空いている会社の車に乗って行けばいいとそう提案した。

壮太郎は『それは……』と断ろうとする。


「温君、足をくじいたのだろう。この雨の中歩かせるのはかわいそうだ。
この天気じゃ、内見したいと人が来ないだろうし。いや、たとえ珍しい人が来ても、
2台の車が必要だとは思えないから。近くに駐車できるところはないのかい」


壮太郎は、『コインパーキング』があるような場所ではないなと思い、

タクシーを捕まえますからと、もう一度断りを入れる。


「千紘、それならあなたが運転してあげなさいよ。
高岡でしょ、車なら山越えして30分ちょいくらいなはずだもの」

「あ……うん、いいけど」


千紘はそういうと、俺が行きますよとさらに声をあげる。


「いや、でも……」

「いいから、いいから、ここでボーッとしていて、また詰まったと言われるより、
俺はドライブの方がいいのです」


千紘はそういうと、車の鍵を取り、クルリと回す。

有森や節子、千紘の中では壮太郎が温と一緒に家に戻るための流れが、

すでに出来てしまっているようで、受け入れざるを得なくなる。


「本当にすみません」


壮太郎は社内にいる全員に頭を下げ、なんとか乾いたスーツに着替え始めた。

心は、引き出しから折り紙を取り出すと、前に温と約束した『カエル』を作り出す。

『壮太郎の早退』のために、『有森不動産』全体が動き出す気がして、

そこに入り込めない長谷川だけが、顔を下に向けたまま、書類を読み続けた。

怪我をしてしまった温が、また落ち込んでいるのではないかと思った心は、

完成した折り紙を右手に乗せる。


「千紘君」

「はい」

「これ、温くんに渡して」

「……なんですか、これ。犬ですか?」

「緑色でしょう、カエルです、カエル」


心はそういうと『よろしく』と千紘に頭を下げる。

千紘は『了解です』と言った後、『本当はわかってましたよ』と笑った。


【8-4】



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