8 土曜日の雨 【8-4】

千紘の運転する『有森不動産』の車は、『くれよん保育園』の脇に停まった。

壮太郎は後部座席を出て、すぐに走ると温を迎えに行く。


「すみません、西森さん。お仕事大丈夫ですか」

「はい。今日はこんな天気ですし、予報も厳しそうですから。
早退していいと言うことになりまして」

「そうですか」


主任を務める保育士は、『少しいいですか』と壮太郎に話し始めた。


「月曜日の遠足ですが、温君の足の怪我ですと、少し難しいなと思いまして」

「はい」

「折れているわけではないですが、今回は、結構歩くコースになっていたので。
こちらの目が届かず、誠に申し訳ありません」

「いえいえ、とんでもないです」


子供のことですからと、壮太郎は話す。


「だとすると……休みに」


壮太郎の頭の中に、一瞬『仕事』がよぎる。


「いえ、同学年の子供達が遠足に出ますが、上と下の学年は園におりますので。
月曜は園に残ってもらおうかと……」

「あぁ……」


壮太郎は、『休んで欲しい』という話では無いことに、少しほっとした。

温の足は全治5日と診察され、痛みと腫れが引くまで、飲み薬と貼り薬が出された。

担任のとも先生におぶわれて、温が壮太郎の前に来る。


「パパ……」

「大丈夫か、温」

「うん」


とも先生がしゃがんだので、温はその背中から降りた。

温は足をぴょこぴょこしながら、壮太郎の前に来る。


「温……足が治るまで、お外で遊んじゃダメだぞ」

「うん……」


温は少し寂しそうな顔をしたが、小さく頷いた。


「月曜日は保育園でお絵かきしたり、本を読むこと」


壮太郎は、『ありがとうございました』と担任のとも先生に頭を下げる。


「違うよ、僕……だって、遠足だもん」


温はそういうと、壮太郎を見る。


「エ……遠足……行かないの?」


温は壮太郎から、とも先生に視線を動かす。

とも先生は姿勢を低くして、温の両手を握った。


「温君の足、今無理をしてしまうと、長く湿布したりしないといけないんだって。
夏休みもずっと、お薬飲むようになったら困るでしょう。だから……」

「嫌だ! 行きたい!」


温の中で『遠足に行かない』という選択肢はなかったために、悔しそうな顔をする。

壮太郎は『大丈夫です』ととも先生に話し、荷物を持つと温に背中を出した。


「ほら、行くぞ、温」

「やだ、僕、遠足行く」


温は、今壮太郎の指示に従うと、『遠足に行けない』と思っているため、

壮太郎の背中から少しでも離れようと動き、

その場所から『遠足に行く』と必死に抵抗した。


「温。そんな足で行ったら、みんなに迷惑がかかるんだ。たくさん歩けないだろう。
今回はお留守番をしなさい」

「お留守番……お留守番、嫌だよぉ……」


温はグズグズ言いながら、悔しそうな顔をする。


「温、わがままを言わない」

「行きたいよぉ……みんなと遠足……」


温は、壮太郎につかまれそうになったので、それをはらうように腕を動かした。


「やだもん、やだ……」

「温君……」


とも先生は『次もあるから』と温に声をかけ、

壮太郎は温の視線に合わせるため、姿勢を低くする。


「温。栃木のおじいちゃんとおばあちゃんに、絵を描いてあげたらいいよ。
二人とも、温がどんなふうに保育園で遊んでいるのか、きっと知りたいから」


壮太郎は『それに、今日は車が待っているぞ』とさらに話す。


「車?」


泣きべその温の顔が、少し変化を見せ、園庭の向こうに何かがあるのかと視線を向ける。


「そう。パパのお仕事の仲間が、温が足を怪我してしまったから、
車でおうちに送ってくれることになったんだ。今、待ってくれているから、
ここでグズグズしていると、待ちくたびれて帰っちゃうぞ」

「あ……う……うん」


温は壮太郎の背中に体を乗せ、首に手を回した。

壮太郎はなんとか収まったと思い、ほっとする。


「すみませんでした、それでは月曜日、よろしくお願いします」

「いえ、こちらこそ申し訳ありませんでした」


担任のとも先生と、主任の保育士が揃って見送ってくれる。

車まで傘を差しましょうかと言ってくれたが、降りが弱くなっていたので、

大丈夫ですと断ると、壮太郎はダッシュし始めた。


「あ……うわぁ……危ないよ、パパ」

「大丈夫だ、ほら、ちゃんと捕まっていろ」


危ないよを繰り返しながらも、温の声は嬉しそうに弾んでいる。

園の門の横に千紘の乗っている車があり、後部座席を開くと、先に温を下ろした。


「よぉ!」


運転席に座る千紘の挨拶に、温は小さく頭を下げる。


「あれ? ノリが悪いな」


千紘はそういうと、心から渡されていた『折り紙のカエル』を渡した。


「あ……心さんだ」

「お……お前、心さん知っているのか」

「うん。保育園に来たことがある」


壮太郎は温の横に座る。


「僕が来た最初の日に」

「あぁ、そうか、お袋が提案したあれね」


千紘はエンジンをかけ、出発する。


「よろしくお願いします」


壮太郎の言葉に、千紘は『了解です』と笑いながら敬礼した。



千紘の運転する車は、しばらく順調に走っていたが、途中で渋滞に巻き込まれる。

予定では30分ずつの往復だと考えていたが、

到着するだけで1時間近くかかりそうだった。

壮太郎は怪我をして、病院に行ったりしていた温が、

疲れて寝てしまっていることに気づく。


「申し訳ないな、混んでしまって」

「仕方が無いですよ、天気がこうだから」


千紘はバックミラーを見た後、『寝ちゃいましたね』と笑う。


「うん……」


壮太郎は、眠っている温の頭から、帽子を取った。

髪の毛が汗に濡れていたため、温のバッグの中からタオルを出し拭いていく。

温は、少し動いたが、起きることはない。

壮太郎は、タオルをバッグに戻した。


【8-5】



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こんばんは!

ナイショコメントさん、こんばんは
すみません、コメントに気付くのが遅れました。

>温君が、孫のように見えてきます

ありがとうございます。
私も息子が小さかった頃のことを思い出しながら、
書いたつもりですが。
いや、全然、温の方がかわいいかも(笑)

これからもお気楽に、楽しんでくださいね。