9 郵便の行方 【9-2】

「あぁ……子供ってかわいいものよね」

「そうだな」


結局、1時間の予定が、壮太郎と温は2時間お店に滞在し、帰って行った。

心は絵を描いた後、温と作った折り紙の鶴やカエル、ウサギの作品をカウンターに置く。

温の行動、言葉にハラハラした顔をする、壮太郎の様子が思い出され、

思わず笑みを浮かべた。


「長谷川さん、マジでうまいっすね、絵」

「あ、そうそう、温君、嬉しそうにみんな持って帰ったじゃない」

「いや……」


心は『そうですよ、私と折り紙をする目的で来たのに……』と、笑いながら声をかけた。

長谷川は、また黙ったまま書類に印をつけ始める。


「これだけうまいのなら、物件ボードに、イラストでも貼り付けたらどうですか?
ペットOKって感じで、あのイラストがあったら、なんとなく和むし」


千紘はそういうと、長谷川を見る。


「駅前倉庫の引き渡し、明日なので、少し様子を見てきます」

「あ……あぁ……」


長谷川は、自分が話題の中心になっていることがくすぐったいのか、

逃げるように店を出て行ってしまう。

心は、横を通った長谷川の顔が、明るい色を見せていたので、

『いってらっしゃい』と、声をかけて送り出した。





「ワン! ワン!」


家に戻った温は、長谷川に描いてもらった犬の絵を見ながら、

自分でも真似をして絵を描き始めた。当然長谷川のようにはうまく描けないが、

色はそれなりのものを選ぶため、壮太郎はなんとなく理解出来る気がしてしまう。

壮太郎はテレビ台の上にまた折り紙が並び、

だんだんと混みあっていくのがおかしくなる。


「温……」

「何?」

「折り紙の動物たち、どこかに置くか。ここだとそろそろ落ちそうだ」

「ん? うーん……」


温はスケッチブックを取ると、そこにクレヨンで大きな輪を描いた。

用紙を破り、ここにみんなを入れておくと言いながら、部屋の隅に置く。


「はい……みんなのおうち」


温は紙の上に折り紙を置いたが、畳の上になるので、多少のでこぼこがあり、

安定しないため、折り紙はいくつか倒れてしまう。


「あ……倒れちゃうよ」

「そこじゃダメだろう」

「なんで?」

「パパや温が歩くと、折り紙は軽いから倒れちゃうんだ」

「だって……」

「ほら、貸してごらん」


壮太郎は温が輪を描いた画用紙を持ち、玄関の下駄箱の上に置いた。

テレビよりも幅があり、下も板のため、安定する。


「はい、ここでOK」


温に折り紙の動物たちを持ってくるように指示をし、温はすぐに従って動く。


「うわぁ……動物園みたいだね」

「おうちの動物園だな」

「うん」


温は嬉しそうに折り紙を移動させ、また犬の続きを描き始めた。


「犬だぞ、ワンワン……」



『ママのところに帰る』



昨日、温が泣きそうな声で言った時、壮太郎の頭は真っ白になった。

ここで暮らす最初の日こそ、壮太郎と一緒に眠ると言い、

少し寂しげな顔を見せた温だったが、日にちが重なっていくごとに、

壮太郎の頭からも、『環境の変化』というキーワードがどこかに忘れられていた。

自分と二人の生活を、すでに温も受け入れていると思っていたため、

いきなり『帰りたい』と言われた衝撃で、ご飯を残したことも怒ることが出来なかった。

壮太郎は、自分の感情の乱れを見抜かれたような気がしてしまう。

今朝、節子からの電話があり、どこか救いの手を求めたことも間違いなく、

壮太郎は、ぐずっていた温を、笑顔にしてくれた『有森不動産』のメンバーに、

心のそこからお礼を言いたい気分だった。





「はぁ……出来た」


仕事を終えた心は部屋に戻り、

2度失敗し、消し直した問題をやっとクリア出来たことにほっとし、

満足感から大きく息を吐いた。床に寝転び天井を見る。

同じ雑誌を買い、問題を解いているはずの壮太郎の顔を思い浮かべた。

心の左手がテーブルのに向かい、雑誌を手に取る。

寝転がったままプレゼントの一覧ページを開くと、

そこに『おもちゃ券』があるのを見つけた。

『おもちゃ券』は5千円分で、全国どこのお店でも使えると書かれている。


「おもちゃ券か……」


心の頭の中に、小さな手を一生懸命に動かし、折り紙を折っていた温の真剣な顔が浮かぶ。

心は起き上がりあらためて雑誌をテーブルに置いた。

『おもちゃ券』がもらえる問題はどんなものかと探してみると、

それほど難しそうでもなかったので、すぐにペンを持った。





「昨日は、本当にありがとうございました」


月曜日の朝、『有森不動産』は壮太郎の挨拶から始まった。

有森や節子は、『いい子ね』と温を褒める。


「いえ……まぁ、比較的色々と話をしてくれるので、助かることは多いです。
そこは、素直に感謝しないと……」


壮太郎は、さやかの名前は出さずに、そう話す。


「子育てなんてね、思い通りにはいかないものなの。親だって初めて親なのだもの。
来たいと言ったら、また連れてきたらいいわよ」

「ありがとうございます」


壮太郎は節子に頭を下げた。


「長谷川さん」


壮太郎の声に、長谷川の顔があがる。


「犬のイラスト、ありがとうございました。温がすごく気に入って。
今日、保育園で栃木の祖母に絵を描く見本として、持って行きました」

「見本?」

「はい……画用紙に犬の絵を描きたいそうで」


壮太郎は、『寝るときもずっと見ていました』と説明する。

長谷川は『そうですか』と一言言うと、カバンを持って立ち上がり、

見てきたい場所があると、お店を出て行ってしまう。

壮太郎は、少しずつ長谷川の性格がわかってきた気がして、そのまま席に座る。


「長谷川さん、温君と絵を描いている時、すごく明るい顔でしたよ」


心は、壮太郎宛に届いた封筒をデスクの上に置く。


「はい。僕もそう思って見ていました。
最初は仕事の邪魔を連れてきたと、嫌な顔されるかなと考えていましたが、
長谷川さん、子供嫌いじゃ無いんだろうなと」


心は『そうですね』と頷く。

すると、店の扉が開き、一人の男性が入ってきた。


【9-3】



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