9 郵便の行方 【9-3】

「いらっしゃいませ、こちらにどうぞ」


心はすぐにカウンターに戻る。

男性は、駅から5分くらいの場所で、

インテリアデザインの事務所になりそうな物件を探していると話しだす。

心はカウンターの席に、『こちらにどうぞ』と男性を座らせ、

ファイルからそれなりのものを探していく。


「だいたいのご予算と、広さはどれくらいがご希望ですか」

「あ、えっと……」


男性は、予算と希望する広さを書いてきた紙を心に見せる。

ある程度、このあたりの事情を知っているのか、おかしな予算は出してこない。


「借りる時期はいつ頃からがよろしいですか」

「出来たら早いほうがいいですが、猶予は4ヶ月くらいあります。
なので、出て行く予定がある物件でも……」

「はい、それでは探してみますので、少々お待ちください」


『有森不動産』が管理しているもの、他のお店が管理しているものなど、

ファイルの用紙が色分けされている。PCに予算を入れ打ち込むと、

該当するものが色々と出てきた。しかし、『有森不動産』が管理している数軒は、

まだ契約中で、今のところ数ヶ月で出て行く予定は記されていない。

心は他店に情報を広げ、予算と広さを打ち込みながら、

新しいものが入っていないか、確認し始めた。



『TAKUMI』



データの中に、『宅見建設』が建設し管理をするものが見つかり、

心は印刷ボタンを押し、出てきた用紙を取り出して男性客に見せる。


「お客様、こういった物件はどうでしょうか」


用紙を見せられた男性は、広さや駅までの距離、

そして、窓の位置などを確認する。


「あ、うん、そうだな……これ、2階?」

「はい。1階は美容室になっていますね」

「美容室か……それならいいな、うるさくもなさそうだし」


男性客は、今のところは途中から下が寿司屋から居酒屋に変わり、

借りていた頃と雰囲気が変わって嫌になったのだと話し出す。


「あ、そうですか」

「商売だからね、文句は言えないけどさ……」


その男性は、用紙に細かく書かれている条件を指さし、さらに質問をしてきた。

心はメモを取り出し、それなりに希望を記入していくが、

自分が思っているよりも、相手が前向きであるのと同時に、

物件が『事務所』という普段扱う普通の部屋と違うこと、

さらに『TAKUIMI』の物件で、今ここにある用紙しか見たことがないため、

話をしている内容が、正しいものなのか気になり出す。


「あの……少々お待ちいただけますか」

「あ……はい」


心は用紙を持つと、壮太郎のところに向かった。


「西森さん、すみません」

「何?」


心は壮太郎に用紙を見せる。


「これ、『宅見建設』のものですよね。今、いらしているお客様に、
事務所になるような場所をと言われて、PCに出てきたので印刷したのですが」


心は男性客に聞こえないように、少し姿勢を低くする。


「結構、質問攻めで。もちろん前向きなのは助かりますが、
私の知識がないもので、だんだん答えるのが……これでいいのかなと」

「あ……わかりました。僕聞いてみますよ」

「すみません」


西森は用紙を持つと、カウンターに向かう。

男性客は対応する社員が変わったことに、一瞬驚いたが、

壮太郎がさらに説明を細かく入れてくれたことに、逆に安心感を増していく。


「あぁ……そういう意味ですか」

「はい。床材にも気を遣っていまして。衝撃の吸収がいいものなので、
足への負担が少なくなりますし、騒音も抑える素材です」

「ほぉ……」


心は接客をお願いしてよかったと思いながら、一歩下がったところで壮太郎を見る。

壮太郎は、受話器を上げると、『宅見建設』に連絡を入れた。


「はい、『有森不動産』です。『TAKUMI』の物件についてかけさせてもらいました。
番号は……よろしいですか?」


壮太郎は、管理物件番号を伝え、住所と状態を確認する。


「はい、出来ましたら、これから内見をと……」


電話の相手の返事に、壮太郎は軽く頷く。


「あ、はい、大丈夫ですか」


今は、今月いっぱいで出ることが決まっている業者が入っているが、

すでに業務は終えていて、荷物置き場のようになっているからと言われ、

壮太郎は男性客に『内見OKです』と話す。


「よかった」

「はい。まだ、前の方の荷物が少し残っているそうですが、許可はおりました。
雰囲気とか、今の説明を入れたところも、実際確認していただけますし」

「そうだな、そうするよ」


壮太郎は電話を切ると、営業車の鍵を取りに席に戻ってくる。


「桜沢さん、よかったら一緒に行きますか」

「エ……私がですか」

「はい。今、『宅見建設』の方に聞いたら、隣の部屋の方も10月に出ていく予定だそうで。
内装はどちらも同じものだそうです。一度外見であっても見ておくと、
次の時、説明しやすいのではないかと思うので」

「あ……はい」


心は壮太郎の言葉を受け入れ、内見希望の男性客と3人で、営業車に乗り込んだ。

運転手は壮太郎が引き受け、車は順調に物件へ向かう。

現場に到着した後も、男性客は壮太郎に質問を続け、納得するように頷きながら、

メモをあれこれ取っていた。

心は、少し後ろに下がり、そのやりとりを聞き続ける。

物件の入るビルは、『有森不動産』がある駅から2つ進んだ場所にあり、

1階はビルのオーナーが経営している美容室が入っているため、

鍵はその店で借りることが出来た。


【9-4】



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