10 シングルファーザー 【10-1】

朝食を終えて、温が朝の子供番組を熱心に見ている時間を使い、

壮太郎はさやかにラインを送った。

今までも仕事の途中で文章を打ち、どうしようか迷いながら、

結局、送ることはなく何度も削除したが、温の落ち込みぶりを見ていると、

行動をためらってはいられなくなった。

話をした通り忙しかったとしても、電話なり、手紙なり、アクションは取れるはずで、

壮太郎はどこか恨み節になりそうな文章を読み返し、感情的な部分を取り除く。

簡潔に、返事だけしてやって欲しいと打ち込み、送信した。


「パパ……また、『有森不動産』行こうよ」

「何言っているんだ、ダメだよ」

「また来ていいよって、千紘も言ったよ」


温はそういうと『静かにする』と姿勢を正す。


「温……」


そう話しかけた時、ラインの音がしたので、壮太郎はすぐに画面を見た。


「……は?」


さやかからの返信が、あまりに予想外だったため、思わず声を出してしまった。

内容が信じられず、読み間違いではないかと思い、文字を再び追いかける。


「パパ……どうしたの?」


温はそう言いながら、壮太郎の方に近づこうとしたので、

壮太郎はすぐに携帯をポケットに入れる。


「ごめん、ごめん、何でもない。温、一緒にお洗濯干そう」


壮太郎は立ち上がり、洗濯機の前に立つと蓋を開ける。


「何? 何見てたの?」

「ほら、いいから、いいから……」



『引っ越したので、温からの手紙は受け取っていません』



さやかからの返信の最初は、『引っ越した』という文章だった。

壮太郎は、温とさやかが暮らしていた市営住宅から、初めてさやかが出ていたことを知る。



『どんな絵なの?』



2回目の文章で、さやかは、温がどんな絵を描いたのかと聞いてきたが、

壮太郎はその『都合のよさ』に腹が立ってしまい、返信をせずに携帯を閉じていた。

洗濯機から洗濯物をカゴに入れながら、さらにその怒りが増していく。


「なんなんだよ」


再婚相手を見つけ、新しい幸せをつかむのは、当然さやかの自由だが、

引っ越しをするのならするのだと、なぜ連絡を寄こさないのか、

温を正式に引き取ってから、まだそれほどの時間は経っていない。

『引っ越し』が決まっていたのなら、あらかじめ話すべきではないだろうか。

壮太郎は自分にならともかく、『温に黙って行った』ことが、とにかく許せなかった。

離婚するときには、なによりも大事だと言っていたくせに、

結局、男より地位は下になり、今や、新しい生活の場所すら教えてもらえていない。

絵を描いて送るという出来事がなければ、知らないままだったのかと思うと、

不安な台詞を送りだした温の気持ちを考え、情けなさと腹立たしさが、

めまぐるしく頭の中を動き回る。


「パパ……」


温は、突然表情を変えた壮太郎に気付き、心配そうな顔を見せていた。


「どうしたの? 怒ったの?」


壮太郎は一度天井を見ると、精一杯笑顔を作り、『何でもないよ』と返した。


「何でもない?」

「うん、なんでもない。ほら、干すぞ」

「うん」


温は洗濯ばさみの入った箱を持ち、壮太郎と一緒にベランダへ向かった。



「ビューン……キキーッ」


洗濯物を干し終え、温がミニカーで遊び始めたのを見てから、

壮太郎は携帯を改めて取り出す。

さやかからは、絵の内容がどういうものだったのか、

さらに、今ならばまだ新しい人は団地に入居していないので、

集合ポストに残されていて、こちらに送れるのではないかという、

あらたな要求まで書かれた文章が、さらに送られてきていた。



『新しい住所は……』



文章の最後に新しい住所が記載され、

送ってくれたら返事をしますという都合のよさを感じ、壮太郎は息を吐く。

ミニカーを並べ、順番に走らせながら笑っている温を見た。


「温……」

「何?」

「お買い物行こうか。たくさん美味しいもの買っちゃおう」

「プリン買う?」

「プリン? そうだな、買おうか」

「うん、行く!」

「よし、行こう」


壮太郎はそう言うと立ち上がり、そばにきた温を見る。


「パパ、おっきいのね」

「いいよ……」


壮太郎は温を抱き上げると、『美味しいの買おうな』と笑った。





「そうか……」

「悪いな、お前も忙しいのに、わざわざ愚痴を言いに来て」

「そんなこと気にするな。シングルファーザー生活も慣れてきて、
そろそろお前もストレス溜まっている頃かなと、思っていたし」


週が変わっての水曜日、『有森不動産』は休みだったが、

壮太郎は『宅見建設』に出社していた。

同期の戸田がいる場所に出向き、一緒にランチを取ることにする。


「引っ越しねぇ……」

「あぁ……」

「女は強いものだな」


壮太郎は、さやかがどんどん新しい生活を築いているとそう話す。


「俺なんて、まだ温との生活にオロオロすることが多くてさ。
最初は気合いも入っていたし、一緒に暮らせることが嬉しかったけれど、
慣れてくると、怒らないとならないことも増えていくし、反抗されて、
『ママのところに行く』って言われた時には、頭が真っ白になったわ」

「あはは……」

「いや……本当に」


壮太郎は、そういうとそばをすする。


「親が2人いるとな。片方が怒って、片方がなだめてになるだろう。
まぁ、うちなんて、いつもあなたの方がいい方を取っているって、怒られるけどさ」

「うん」

「一人で全てやろうとすると、両面出さないとならないから、確かにきつくなるな」


壮太郎は、今まで制度のことなども考えたことがなかったが、

あらためて聞いてみても、『シングルマザー』には使えても、

『シングルファーザー』には使えない制度ばかりだと、ため息をつく。

戸田は、『考えたらどうだ、再婚』と言いながら壮太郎を見た。


【10-2】



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