19 戦いの後

19 戦いの後

亮介と塚田が本音をぶつけてから3日後、本社から『クライン』の件のOKが届いた。

亮介の元には、本社にいる長谷部から、その1日前に連絡があり、

企画書は塚田から小田切に送られ、自分のかわいがっている部下が、いい仕事をしたことに、

ご満悦だったと報告を受けた。


「そうか……」

「私の案が、色々と採用されていたようで、塚田支店長から、お礼を言われました」

「うん……」


亮介は仙台支店の屋上に立ち、すっかり夏の暑さをまとった風に、

軽部と一緒に吹かれながら、話を進める。


「退職届、返してもらったのか?」

「その件なんですが、辞退させていただきました。予定通り退職させてもらいます。
今、ちょっと状況が変わったとしても、また、同じようなことが起こることはわかってますし、
せっかく決めた気持ちを、また変えるのも嫌なので」


軽部の決意は固く、今回のことで、リストラ対象から外してもらえることになっても、

その提案を受けるつもりはないのだと、笑顔を見せる。


「結局、俺は何も役に立たなかったな」

「そんなことはありません。もう、十分、かばっていただきました。
今度は、少し時間に余裕が出来た時、旅行客としてここへ来ますので、
その時は対応をよろしくお願いします」

「……あぁ……」


どこからか飛んできたビニール袋が、風で舞い上がり、てすりにひっかかる。

軽部はそれを手に取り、軽く丸めた。


「深見部長、どうして塚田支店長を助けたんですか?」

「助けた?」

「はい、最初のお話の時の様子では、塚田支店長の動きを知ったうえで、
この企画書を立ちあげたいとおっしゃってましたよね。
私はてっきり、深見部長の案として、企画が上へ行ったのだと思っていました」


軽部は、亮介が話を振った時の様子から考えて、

自分に対して冷たくあたる塚田に対抗するために、動いたのではないかと思ったのだ。


「最初はな、俺もそう思っていた。
仙台支店で頭を下げて頑張っている連中の底力を見せてやるって、そんな気持ちだった。
でもな、考えたら、あの人も俺や軽部と一緒なんだよ」

「……さらに上がいるってことですか?」

「あぁ、仙台支店ではあの人の上には誰もいない。
だから、一見、全て思い通りにやっているように見えるけれど、でも、実際にはそうじゃない。
急かされて、怒られて、大変な思いをしているだけだ。
現場の大変さをもっとわからないとならないのは、そのさらに上にいる」


交差点の信号が代わり、音楽が流れ、止まっていた人達が一斉に動き出す。

亮介は、この中にいるほとんどの人間が、毎日それなりの戦いをしているのだろうと考える。


「でもな、それでも支店はひとつの家と同じだって、そう気づいて欲しくて。
今回のことだってそうだ、仙台支店に任せると決まった以上、本社は結局、
騒ぐだけで具体的には何も出来なかった。塚田支店長が、営業部員の方を向いて、
しっかりと指示を出してさえくれたら、本社の評価など、後から付いてくるものなのに……」


支店長を中心に、支店がひとつになること。

それがまた、自分の身を守ることになり、視線の先を変えてほしいのだと、亮介は訴えた。

軽部はそんな意見を、何度も頷きながら聞いている。


「深見部長、いつの日か、必ずこの会社を背負って立って下さいね」

「ん?」

「私が……この会社にいたことを、誇りに思えるような、そんな会社に……ぜひ、してください」

「……誇り……か……」

「部長なら出来ますから。ぜひ、してください!」


亮介は軽部のその言葉を聞き、返事をする代わりに、軽く背中をポンと叩いた。





「お世話になりました!」

「軽部さんの出発を祝して、乾杯!」


それから5日後、仙台支店を去ることになった軽部の送別会が開かれた。

亮介を中心に、営業部の社員達が、久しぶりに顔を合わせて、盛りあがる。


「塚田支店長、来ないんですかね」


幹事として会をまとめることになった太田は、時間と場所も知らせたのに

姿を見せない塚田のことを気にしながら、何度も入り口の方を確かめる。


「あの人なりに気をつかっているんだろ。
そういうところが格好つけているって、言ってるのにな」

「ふ……深見部長、どこかにいるかもしれませんよ」

「いたっていいよ、別に、今更……」


亮介は塚田と言い合って以来、視線を合わせてこない上司に対し、自らもあわせることなく、

日々を過ごしている。その話を咲にすると、二人とも子供だと、怒られたのだ。


結局、その飲み会に塚田が姿を見せることはなく、亮介は二次会までつきあった後、

タクシーに乗って、家へ戻った。





「はい……ハンカチ」

「うん」


それからまた2日後、亮介は東京の本社へ向かうため、

いつもより早い時間にスーツへ身を包んだ。北京支店立ちあげに動いたメンバー達が揃い、

会を開くことになったのと、ツアー事故の報告が、なぜか同じ日にぶつかった。


「天国と地獄に一緒に行くような気分だな」

「何言ってるのよ、塚田支店長に言いたいこと言ったくせに。
本社へ行くのが怖いだなんて、変じゃない。どうせ、向こうの出方はわかっているんだから、
正直に言いたいこと言ってくればいいのよ」

「……咲、そう簡単に言うなよ。人には勢いってものがあるんだぞ。塚田支店長には、
日々の想いが積み重なっていたけど、小田切専務達には、普段会ったこともないんだ」

「じゃぁ、ごめんなさい、許して下さい……って、泣いてくる?」


楽しそうに言い返してきた咲の方を向き、亮介は軽く耳たぶをつかむ。


「妊婦じゃなかったら、プロレス技でもかけたいところだな」

「ほら、頑張って! 待ってるから!」


咲は、支度の終わった亮介の肩をポンと叩き、しっかりと笑顔を見せた。

亮介は、そんな咲を抱き寄せる。


「お腹が邪魔だな……」

「あ! 邪魔だなんて、赤ちゃんが怒るわよ」

「……そうか……」


本当は咲にも、亮介の不安は痛いほど伝わっていた。築いてきたものを崩されるのは、

懸命に仕事を積み重ねてきた亮介にとって、屈辱的なものだろう。


「亮介さん、あなたが一番、会社のことを考えている」

「……咲」

「あなたが一番、お客様のことを考えている。私はそう思ってるから……」

「……あぁ……」

「だから、胸を張って行ってきて!」


咲はそれだけを言い切ると、亮介の背中に手を回し、しっかりと手のひらをあてる。

家族3人は、どこに行っても、必ず一つなのだと、無言で伝えた。





「そうか、深見さん、今日本社なのね」

「うん、どうなるのかわからないけど、でも、私はついていくだけだから」

「そうよ、超特急で出世したんだもの、ちょっとくらい回送列車になってもいいじゃないの」


仕事の昼休みに電話をしてきた利香は、亮介の状況に、咲を励まそうと明るく笑う。

そんな気遣いが嬉しく、受話器越しの咲は、少しだけ潤んだ目を、

そばにあったタオルでそっとぬぐった。





「それじゃ、北京メンバーの同窓会に、乾杯!」


京都支店の部長で、あの当時、メンバーのリーダーだった石原の合図で、

それぞれがグラスを手に持ち、軽くあわせた。全国にちらばっている自分たちの報告を、

笑いながら語る。


「そう……」

「あぁ……。暮れまでには場所を決めると言われた。被害者が出たわけではないけれど、
マスコミなどの対応が大変だったことも事実だし、『スーパーミナミ』との交渉も、
振り出しになるかもしれないって……けが人を出してしまったツアーというレッテルが
付いて回るからな」


小田切を含めた4名の専務達の前で、亮介は事故当時の報告と、自分の異動を願い出た。

企画書をあげた時には、大騒ぎで喜んだと報告された小田切も、

また、自分に関係のないところへ話題が移ると、ただの評価マシンに変わる。


「あの企画書が深見君の力で動いているってことも、わかっているくせにね。
危ないところを過ぎたら、もう知らんふりだもの。全く、私が神様なら、
小田切専務の上から、雷でも落としてやりたい気分よ」


祥子はそう言うと、グラスに入っていたワインを、グッと飲み干し、大きく息を吐く。


「長谷部、お前の部下には、毎日雷落としてるんだろう。
そんな顔ばっかりするなって、しわ増えるぞ」

「石原さん!」


亮介は二人の会話を聞きながら、今日ここで、この会があったことに心から感謝した。




                                 深見家、新メンバー加入まで……あと10日






20 不安と賞賛の狭間 へ……




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コメント

非公開コメント

ガッツだぜ! ヽ(~-~(・_・ )ゝ

『クライン』の件のOKが出て良かったね。

しかし悲しいかな現場のサラリーマンv-12
亮介はもちろん、あの塚田も使い捨ての駒にすぎない・・・
トップのお偉いさんは美味しいお仕事しかしないし、
部下の失敗の責任、自分にかからない様に上手く逃げる
日本の会社の宿命見る想いです。

「ちょっとくらい回送列車になってもいいじゃないの」
利香の励ましの言葉にも、納得し何処にも着いていこうと決めてる咲v-221
麗しいかな夫婦愛v-238  2人ならきっと乗り越えられるよね。

後10日でv-73ベィビー誕生v-237新たに頑張れるはずv-91回り道のようでも地道に歩んでいけば道は必ず開かれるよ。~~~ヾ(〃^∇^)o キャー!ファイトォー!!
重い荷も2人で背負い合えば半分こ~
きっと笑い話になる時がくるさ
(´- `)フッ(´ー `)フフッ(´ー+`)キラッ 
仲間の皆、深見家をいつでも見守り応援してるはずです。

いい夫婦だよね~^^

ももちゃん こんばんは~^^

腰の具合はいかがですか?
季節の変わり目…どうぞ、お大事にね…!

会社の中でいろいろ辛いことがあっても…
>「「あなたが一番、お客様のことを考えている。私はそう思ってるから……」
な~んて、その世界のことがわかっている妻に言われると…、ほんと救われる気持ちになるだろうね~^m^

亮介さん、ほんと良い奥様をもらって、幸せ者だわ~♪

いよいよあと10日なのね~☆☆☆

私が神様なら

小田切にしてもまだ上が居るわけだけど、専務くらいになると我が物顔だよね。
私が神様なら、一度事故を起こさせて「もう一度戻りたいなら自分で企画立てなさい。その間のリミットは○○日じゃー」なんてね・・・

必死になって何かをしようとすれば変わるかも。

おーー気付けばあと10日。
早くあいたいね、深見家の天使に。

会社と社員と

ナタデココさん、こんばんは!

>部下の失敗の責任、自分にかからない様に上手く逃げる
 日本の会社の宿命見る想いです。

全てがこういう人ばかりじゃなくて、中には、
よし! 行ってこい! みたいな人もいるんでしょうが、
どんな人に当たるのか……それも運命ってところ
ありますよね。

>後10日でベィビー誕生新たに頑張れるはず

はい! やっと終わりが見えてきました。
亮介と咲の待ち望んだ瞬間を、
一緒に迎えてやってください。
いつもありがとう!

夫婦愛だねぇ

eikoちゃん、こんばんは!

>腰の具合はいかがですか?
 季節の変わり目…どうぞ、お大事にね…!

ありがとう。
少しずつは良くなってるんだけど、
腰は急にピン! とはいかないようです。

>亮介さん、ほんと良い奥様をもらって、幸せ者だわ~♪
 いよいよあと10日なのね~☆☆☆

咲は一緒の職場にいたからこそ、誰よりも亮介が
現場を好きで、どんな仕事をしているのか、わかってますからね。

さて、あと10日。
やっと終了……が見えてきました。
いつもありがとう。

読み手から書き手へ

yonyonさん、こんばんは!

>小田切にしてもまだ上が居るわけだけど、
 専務くらいになると我が物顔だよね。

そうだよね。これ以上、上になると
現場の社員達との関わりがないでしょうし。

>私が神様なら、一度事故を起こさせて「もう一度戻りたいなら自分で企画立てなさい。
 その間のリミットは○○日じゃー」なんてね・・・

あはは……yonyonさん、先の展開を考えたくなるのは、
書き手がわにまわっているから、だと思いますよ。
どうかなぁ、新作は、進んでるのかな(笑)

残りは10日、
天使の誕生まで、お付き合いお願いします。
いつも、ありがとう

人との出会い

yokanさん、こんばんは!

>が変わらないと何も変わらないと言う言葉は、どこの会社でも言えることだよね(ーー;)

ねぇ……。小田切のような男ばっかりじゃないでしょうが、
どんな人に出会うかで、影響されるものですからね。

やっと赤ちゃん誕生まで10日となりました。
もう少しだけお付き合い、お願いします。
いつも、ありがとう!

No title

軽部さんの企画
『クライン』のOKがもらえて良かったね!

結局は支店長を助けた形になったけど
軽部さんにお礼を言った塚田
亮介さんの気持ち、少しはわかってくれたのかな?

本社への事故の報告、
移動を申し出た亮介さんの処遇が気になるけど・・・

どこに行っても、家族3人は必ず一つ!
咲ちゃんの無言の励ましは
亮介さんにしっかり届いたよね!

あぁ~いよいよ後10日かぁ~^^v

何だか親戚のおばちゃんにでもなった気分で
ドキドキ楽しみです~♪

愛する家族…

『クライン』の企画が通って良かった!
これで一安心だね。。。
塚田もこの一件で少しは考えに変化があるといいんだけど…

「人のふんどしで…」なんて諺があるけど
小田切はまさしくこれですねーーメ
で、なんでかこういうヤツが出世するのよねぇ
一般社員はやってられません

亮介、貴方には愛する家族が、友が居る
たとえ積み上げた軌跡がくずれてしまっても
それをあたたかく包み、見守ってくれている人々が居る
だからのんびり行こうよ、あせらずに

さぁ、新メンバー加入まであと10日♪
ウキウキ、ワクワク、ソワソワ、待ち遠しいな❤

どこにいても・・・

こんにちは!!e-454

自己犠牲でもないだろうけど
みんなが仕事がしやすいようにと動いた亮介さん。

咲ちゃんが(仲間達が)わかってくれるから
そばにいてくれるからできたんだよね・・・。
もうじきカワイイ赤ちゃんにも会えそうだしね。

その時を待つ亮介さんてどんなだろう?
ドラマで見るような
待合室とか廊下でウロウロ歩き回ったり
落ち着かなくって失敗したり…とか
あれっ?立ち会い出産だったけ?

会社ではいろいろ大変だろうけど
お家じゃ、幸せが待ってるから。

それから、ちょっと抜けた(?)神様が開けた
空の穴とそこから落ちてきた物が何か分かるのはやっぱり最終回?
ずーっと、気になってます・・・。

 どーでもいい事に引っかかるおばちゃんです。

     では、また・・・e-463

塚田は改心したのか?

バウワウさん、こんばんは!

>軽部さんにお礼を言った塚田
 亮介さんの気持ち、少しはわかってくれたのかな?

うーん……わかったのかどうか、
それはさらに続きを、読んでみてください。

>あぁ~いよいよ後10日かぁ~^^v

あはは……。日付がカウントされるのは、
このお話の特徴なので(笑)
どっちが生まれてくるのか、ドキドキお待ちください。
いつもありがとう!

もぞもぞ……

Arisa♪さん、こんばんは!

>「人のふんどしで…」なんて諺があるけど
 小田切はまさしくこれですねーーメ
 で、なんでかこういうヤツが出世するのよねぇ

ねぇ……。
まっすぐなものが、まっすぐに見られないことは、
良くないことなんですけど、
実際の世の中も、こんな感じなんですよね。

>亮介、貴方には愛する家族が、友が居る

はい、その通りです。
築いてきた人との関わりは、決して裏切らないはず。
さて、新メンバー……
もぞもぞとお腹の中で、準備中です(笑)
いつも、ありがとう!

空にあいた穴

mamanさん、こんばんは!

>自己犠牲でもないだろうけど
 みんなが仕事がしやすいようにと動いた亮介さん。
 咲ちゃんが(仲間達が)わかってくれるから
 そばにいてくれるからできたんだよね・・・。

自分だけで前へ行くことより、ともに進むことを
選んだ亮介です。
そう、そこには全てを理解してくれる
咲がいますからね。

>それから、ちょっと抜けた(?)神様が開けた
 空の穴とそこから落ちてきた物が何か分かるのは
 やっぱり最終回?

あ、そうか……
空の穴から落ちてくるのは、数々の困難です。
亮介と咲は、ただいま格闘中!

もう少しで新メンバー登場、さて、どうなるか……
それはもちろん、最終回で!
いつもありがとう。

No title

上には上がいる・・・
だから、捨て身でやろうとする亮介のようなタイプは少ないのよね。
上にも下にもはさまれて、その中で立ちまわっていかなきゃいけないんだもの。

見切りをつけて会社を辞められる人は、まだ選択肢がある人なんだろうな。
上に行けば行くほど、地位にも固執し、簡単にはやめられない、何とかして今の地位を保とうとするのでしょう。

亮介にはどこまでもついて来てくれる咲がいるから心強いわね^^

上と下

なでしこちゃん……

>上には上がいる・・・
 だから、捨て身でやろうとする亮介のようなタイプは少ないのよね。

だと思いますよ。誰だって自分がかわいいもんね。
スタートの頃の亮介は、まだ、目障りになるほどの存在ではなかったけれど、
さすがに部長あたりになってくると、色々あるのかなと。
おっしゃる通り、上と下とに挟まれますからね。

咲と亮介は離れませんわよ(笑)