22 迷いと決断と 【22-3】

「よし、それじゃ温、パパ仕事に行くぞ」

「うん、いってらっしゃい」


テレビを見ていた温の手が、壮太郎に向かって揺れる。


「いってきます」

「壮太郎、今日も遅いの?」


朝食の片付けをしていた藍子の問いかけに、壮太郎は『うん……』と返事をし、

玄関を閉める。マンションの入り口から外に出て、すぐに見上げたのは、

心の部屋だった。





「お願いします」

「了解、右、見て」


『高倉の再開発』は5月に入ったため、本格的に動き出した。

古い住宅が建っていた場所は、これだけ広かったのかと思えるくらいの更地になる。

『宅見建設』のヘルメットを被った作業員達が敷地内を歩き出し、

そこには戸田の姿もあった。


「どうでしょうか、西森さんから見て、私の仕事ぶりは」

「なんだよ、それ」

「いや、今回の仕事はさ、お前の方が指示を出す方、俺は聞く方だからね」


壮太郎は現場に向かい、戸田と昼食を取ることになる。

戸田は壮太郎の顔を見ると、『お前は仕事が好きなんだな』と笑った。


「どういうことだよ」

「いや、前よりも表情が明るい気がして」


戸田はそういうと、ウエイトレスを呼ぶ。

二人はそれぞれに注文を終えると、戸田がメニューをまとめて立てかけた。


「明るい……か」


戸田の言葉に、壮太郎は口元を動かす。


「あれ? このご意見に不満でも?」


戸田はそういうとナフキンの袋を破った。


「いや……もちろん仕事は好きだけど、
表情が明るく見えるのなら、理由はそれだけじゃないと思う」

「ん?」

「栃木から両親が来てくれて、温のことを頼めるようになったし」

「あ、そうか、そういえばそうだったな」


戸田は『それは助かるだろう』と壮太郎を見る。


「うん。それは確かにね」


壮太郎の『まだ何かがある』と言いたげな台詞に、

戸田は『何があるのなら、スパッと言えよ』と言い返す。


「うん……。まぁ、気持ちが動いたと言うか……」

「気持ち?」


戸田は首を傾げる。


「再婚、考えてみよう……と」


壮太郎は、『まだ始まっていないけれど』と前置きする。


「エ……本当か。あ、でも始まっていない?」

「うん。まだ相手には、何も話していない。
ただ、彼女とそうなっていけたらいいなと。だから……」


壮太郎は戸田の驚きを打ち消そうと、すぐに言葉を戻す。


「いや、まぁ、自分の感情がどういうものなのか、よくわからないところがあって、
アクセルを踏むことに迷いがあった。色々と世話になることが多くて、
都合がいいように考えていないかとか、温のこととか。だからさ、
両親が栃木から来てくれたら、気持ちが変わるかもと思っていたんだ。
『助かる』という感情なら、そこは補えるわけだし」

「うん……」

「でも、変わらなかった……というより、さらに強くなった。
彼女がそこにいないことが、より鮮明に感じられて。
今の状況ではなくて、彼女と一緒に、この先の景色を見たいと思うようになった」


壮太郎の言葉に、『前に話していた人か』と戸田が問いかける。


「うん……」

「温がなついているって言っていたよな」

「まぁ、ただ、それだけで突っ走れないけど」


壮太郎は『素敵な人だよ』と心のことを表現する。


「相手はどうなんだ。お前の気持ちもなんとなくはさ……」


戸田はそう言うと、お冷やを一口飲む。


「まぁ、嫌われてはいないと思う。温の面倒を見ることも、
自分から立候補してしてくれたところもあるし。ただ……」

「ただ? なんだよ、さっきから……。話が行ったり、戻ったりして。
西森、前に進むんだろ」


戸田の言葉に、壮太郎は小さく頷く。


「お付き合いをすることで、子供の母親になることが目の前に迫るだろ。
彼女に、そこまでの気持ちがあるかなとか……不安要素もな……」


戸田は、壮太郎の顔を見ながら確かにその通りだと考えた。

普通の恋愛ならば、互いを知り、環境は自分たちで作りあげていくが、

壮太郎にはすでに温がいて、切り離せない存在になっている。


「西森」

「ん?」

「大丈夫だよ」


戸田は、壮太郎を励まそうと前向きな言葉を出す。


「せっかく芽生えた気持ちだろ。悩みがすぐに表に出るのは、
真面目なお前らしいけれど、そんなものそこらへんに置いておけ。
たまには感情のまま突っ走るのも悪くない」

「戸田……」

「再婚なんてと言っていたお前が、これからの人生、
温がいればいいなんて言っていたお前が、再婚をしたいと気持ちを変えるんだ。
きっとうまくいく。お前に彼女を支える気持ちがあれば、うまくいくよきっと」


戸田は、壮太郎を見ながら、『頑張れよ』ともう一度励ましていく。

壮太郎は、戸田の言葉に今までも何度か救われたと思いながら、

『ありがとう』と返事をすると、自分はこれにするとメニューの料理を指さした。


【22-4】



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