23 新たな関係 【23-2】

互いの言葉を噛みしめていく静かな時間が、

1秒、1秒、積み重なるごとに、新しい幸せへ続く道を作り始める。


「私が、西森さんと温君の人生の応援団になれたら……」

「応援団? ダメですよ、あなたも一緒に頑張ってもらわないと」


壮太郎はそういうと『一緒に』と繰り返す。


「はい」


心は『そうですね』と笑い、ラインをもらった時には緊張したと笑顔を見せた。


「緊張?」

「はい。突然でしたし、西森さんの状況もわからなかったので。
何を言うのかな、もしかしたら、コンビニでお母さんにお会いして、
温君のことを聞いたりしたから、余計なことだったかなとか、あれこれ……」

「あ、そうだったのか。いや、余計なことだなんて。母は嬉しそうに話しましたし、
温は、心さんにまた、お迎えをしてもらいたいと言って」

「……本当ですか」


壮太郎は『はい』と笑い出す。


「そうですか……」

「温は、すっかりお殿様気分ですよ。両親が二人とも温の要求に応えてばかりいるので」

「でしょうね、かわいくて仕方がないでしょうから」


心は、コンビニで会った藍子の顔を思い出す。


「冷蔵庫にプリンがないって言うと、『それなら一緒に買いに行こう』ですからね」


壮太郎の言葉に、

心は『私も小さい頃は、おばあちゃんに何でも言うことを聞いてもらいましたよ』

と、笑い返す。


「そういうものですかね」

「そういうものです」


壮太郎は『そうか』と納得する。


「杏のことですけど」

「はい」


心は、昨日ここに来た杏が、壮太郎のことを『素敵だ』と言ったことを話した。


「かっこいいよねってそう言っていました。だから、西森さんに声をかけたのかと」


心は、杏はそういうお茶目な妹ですと笑う。


「私がこうしたいと思うことを、反対したりする妹ではありませんから。
むしろ、西森さんにそう言ってもらえたってわかったら、喜ぶと思います」


心は『お茶、1杯だけ飲んでください』と言い、立ち上がる。

壮太郎は『はい』と言うと、背中越しに心の気配を感じていた。





壮太郎が心の部屋に来て30分が経過し、そろそろ帰りますと立ちあがった。

見送ろうと立ち上がった心の背中に、壮太郎の手がそっと向かう。

心もその動きに合わせ、少し前に出た。

二人はその場で抱きしめ合う。

『同じ方向に歩く決意』

心と壮太郎は、互いのぬくもりと香りを、確かめ合うように呼吸を繰り返す。


「西森さん、ゆっくりでいいですから……」

「はい」

「温君を、いつも一番に考えてあげてください」

「……はい」

「温君と西森さんの関係を、絶対に壊したくないので」


心の告白を聞き、壮太郎は抱きしめる手に力を入れる。


「大丈夫です。あなたが入って壊れることなど、何もありませんから。
僕がこれからはあなたを守ります」


壮太郎は、心の耳元にそう言葉を残す。


「温には、状況を見て説明します」

「はい……」


心と壮太郎の思いが、ずれることなくしっかりと重なり合った。





カレンダーは5月も20日を過ぎ、卓も、元通り動き回れるくらい元気になっていた。

朝の家事に忙しい藍子ではなく、温を保育園に送る役目を引き受けてくれる。


「ほら、温、早くしないと保育園に遅れるぞ」

「遅れないよ、いつもこれ見てからだもん」


保育園でも一番上の学年になった温は、朝の支度も自分でこなし、

時間の余裕が出来るようになった。

壮太郎は壁にかかる時計を見ながらネクタイを締める。


「壮太郎、今日も遅いの」

「うーん……まぁ、そこまででは無いと思うけどね、夕飯は食べるよ」

「あ、そう」


藍子は『本当に私たちがいなかったらどうなっていたことか』と言いながら、

流しの水を止める。


「うん、まぁ……」

「うん、まぁ……じゃないわよ。あんた、温の7時のお迎えなんて、
これじゃ絶対に無理じゃないの」

「何をお前は壮太郎に文句を言っているんだ。だからここに来ているのだろう。
男なんだから、仕事をするのは当然だ。栃木は、俺一人で大丈夫だって」


卓はそういうと、藍子に『一人で戻るよ』と話す。


「ダメですよ。病院には一緒に行った方がいいでしょう」

「行けるって」


卓は『お前が仕切っているようなことを言うな』と藍子を見る。

壮太郎は、自分のことで険悪になりそうな両親に『ほらほら』と声をかけ、

仲裁に入る。


「親父、お袋が心配するのも言うことも正しい。一度戻ればいいよ。
病院には一緒に行ってもらえって」

「そうよ。本人はよくなったと思っているけれど、変な癖でもついたら困るし、
きちんと確認してもらわないとね」


藍子は卓の足を軽く叩く。


「そうそう……」


壮太郎は、数日間なら自分も仕事がどうにか出来るし、

少しくらいお願いすることなら、快く引き受けてくれるよと心や節子のことを話す。


「いつ帰る?」

「いつって、何?」

「あ、だから、向こうに?」


壮太郎の言葉に、藍子は軽く首を傾げる。


「ん?」

「なんだか、帰れ、帰れってせかされているみたいだけど」


藍子は、台ぶきんでリビングのテーブルを拭いていく。


「いや、そんなことは……」

「パパ、もう行く時間だよ」


温の言葉に壮太郎は『そうだった』と頷き、

藍子の疑いの眼差しから逃げ出すことにする。


「いってらっしゃい」

「行ってきます」


壮太郎は靴を履き廊下を進み、少し早足で駅に向かった。


【23-3】



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