23 新たな関係 【23-4】

「あ……」


心は粘土細工を持ったまま、追いかけようとするが、

中に壮太郎がいたことを思いだし、扉を閉める。

粘土細工を見ながら奥に入り、ベランダへ続く窓を開けた。


「すぐに帰っちゃった」

「そう……」


ベランダにいる壮太郎を中に入れ、心は粘土細工を棚の上に置く。


「温君、靴見ていた」

「……靴? あぁ、そうか」

「わかるかな、パパのだって」

「……いや、どう……いやいやいや、わからないだろう」


壮太郎は心が置いた粘土細工を見る。


「何これ」

「今、温君がくれたの。なんだろう、すぐに帰ってしまったから、
何を作ったのか聞けなかった」

「なら、戻って聞くか」

「聞いたらおかしいと思うけれど」


心の言葉に、壮太郎は『そうだ』と頷く。


「なんだろうな」


心はそう言いながら、粘土細工をあらためて見た。


「人だと思うのよ、ここは。でも、この四角が……なんだろう」

「ロボットかな、あいつ、よくそういう絵を描くし」

「あ、そういえば前にもロボットの絵、もらったことある」


心はそう言った後、あらためて粘土細工を見るが、ロボットにしては、

胴体部分と四角の部分が離れていた。

腕が壮太郎の方に動かされたので、心は顔を横に向ける。

互いの唇が触れた。


「絶対に大丈夫」

「エ……」

「なんだかわからないけれど、きっと温にとっては大事なものだ。
それを君に渡しに来た」

「うん」

「僕たちは、前に進める」


壮太郎の言葉に心はあらためて頷き、しっかり向き合うと、

二人はもう一度、唇を重ね合った。





「ただい……うわ……なんだよ、お袋」

「あ、壮太郎なのね。玄関が開く音がしたから、また温がどこかに出て行ったのかと」


壮太郎が西森家に戻ると、扉を開けた瞬間出てきたのは、藍子だった。

藍子は、今も少し前に温が勝手に出て行ったと文句を言う。


「あ……そう」


壮太郎は心の部屋にいたので、温が来たことはわかっていたが、

知らない振りをして、洋室から出てきた温の前に立つ。


「こら、温、おばあちゃんが今言っているのは本当か」

「何?」

「何じゃない。勝手に一人で家を出て行ったらダメだろう」


壮太郎は上着を脱ぎながら、温を注意する。


「だって、心さんのところだもん」

「心さんのところでも何でも、おばあちゃんに言う。
いいよと言われてからじゃないと、外には出たらダメだ。急にいなくなっていたら、
どこに行ったのか、心配するだろう」


壮太郎はネクタイを外し、ハンガーにかける。


「で、心さんのところにどうして行った。勝手に行くなと言っているだろう、いつも」

「保育園で作ったの、粘土で」

「粘土で?」

「うん……」


温は粘土で『お友達』を作りましょうと言われたため、心を作ったと説明する。


「は?」

「心さんを作ったの。テーブルでしょ、座るでしょう……」


温は『有森不動産』でカウンターに座っている心をイメージして、

粘土細工を作ったと話し出す。

壮太郎がロボットかと思った四角部分は、心がいつも使う『有森不動産』のカウンターで、

わからないままだった部分が、心だとわかる。


「友達……」

「うん」


温はミニカーを持ち、自分の手の平にタイヤをこすりつけ、何度も動かす。


「心さんのうち、パパと同じ靴があった」


温の言葉に、壮太郎は『ふーん……』と言いながら、温を見た。


「そうなんだ……」


壮太郎はわかっているのに、わからない振りをする。


「パパと同じ靴?」


食事の支度をしている藍子が、温の言葉に反応した。


「うん、パパと同じ」


温は、ミニカーをテーブルの上でゆっくりと走らせる。


「黒いやつだよ……お仕事に行く」


温の言葉に、藍子は『そう……』と少し寂しげな言い方をして、頷いた。

壮太郎はパパと同じ靴ではなく、パパのものだよと思ったが、

それは言えないため、黙ったまま部屋着を出していく。


「ねぇ、壮太郎。心さんってあの『有森不動産』の事務の女の人でしょう。
前から温がよく話題にする」

「あぁ……うん」

「そうか、お部屋に男の人の靴があったのか。そうだよね、彼がいるよね」


藍子は『残念だね……』と出来た料理のお皿を運びながら、温の顔を見る。


「残念?」

「そうだよ、残念。心さん……だっけ? 温の新しいママになってくれたら、
よかったのにねぇ……」


藍子の何気ない言葉に、壮太郎はすぐ温を見た。

温は少し表情を曇らせ、口を閉じたままでいる。


「お袋……」


余計なことは言わないでくれと思い、壮太郎がリビングに立つと、

温は右足でドンと床を踏みつけた。


【23-5】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント