24 雲の上はいつも晴れ 【24-1】

「こちらはどうでしょうか」


壮太郎が、さやかと会うことを決めた日曜日。

心は仕事をしながらも、やはり時計が気になった。

別の家庭を持ち、自ら温を手放したさやかが、『再婚』に向かうことを、

とやかく言うとは思わないが、どういう反応を示すのかは、やはり気になってしまう。


「すみません」

「はい」

「ここは内見出来ますか」

「あ……はい。少々お待ちください」


心は資料を持って立ち上がる。


「千紘君、ご案内頼めるかな」

「了解です」


千紘は立ち上がると、心から物件の用紙を受け取り、

管理物件のボックスから鍵を取り出す。


「お客様、ご案内は私の方でいたしますので、どうぞ……」

「あ、はい」

「よろしくお願いします」


心は千紘とお客様を送り出すと、広げていたファイルを閉じ、元の場所に戻す。

電話が鳴り出したので、すぐに受話器をあげる。


「はい、『有森不動産』でございます」


心は右手でメモを引き寄せ、すぐに書き込み始めた。





「忙しいのに、わざわざ悪いな」

「ううん……。壮太郎の方こそ、日曜日なのにここまで来てもらって」


二人が待ち合わせをしたのは、さやかが現在暮らす街から

2つ駅を動いた場所にある喫茶店だった。

先に待ち合わせ場所に着いたのは壮太郎で、

後から入ってきたさやかは、上着を脱ぐと空いている場所に置く。


「すみません、ミルクティー」

「はい……」


二人だけで会うのは、温の監護権を移すことを決め動いていた頃以来になる。


「お遊戯会はごめんなさい。急に行けなくなって」

「いや、それはいいよ。温だって昔はよく熱を出したりしていたんだ」

「でも、温は楽しみにしてくれていたでしょう」


さやかはそう言うと、『去年の夏から会えていないし』と話す。


「まぁ、聞いた時にはショックを受けたと思うけれど、
お世話になっていた『有森不動産』が保育園のすぐそばで、そこのみなさんが、
賑やかに温の応援にかけつけてくれたから。
逆に誰よりも見に来た人数が多かったかもしれない」

「『有森不動産』」

「うん……温を引き取ることになった時、ちょうど仕事の都合で1年だけ、
街の不動産店に出向する話があって。俺が頼んだ」

「そう……」


さやかの前に、注文した『ミルクティー』が置かれた。

壮太郎は先に来ている『ブレンド』を飲む。

挨拶程度の会話から、1分近く、無言の時が刻まれる。


「実は、再婚をしたい人が出来て……」

「うん」

「とはいってもまだ、何もかもこれからなのだけれど……」


さやかは『それはよかった』と言いながら、『ミルクティー』を飲む。


「温自身も、すごく彼女にはなついているけれど、
やはり今でも『ママ』って君のことを口にする。この間は赤ちゃんの熱が出て、
保育園には来られなかったけれど、大きくなったら変わるようなことを……」

「変わる?」

「また、自分のところに戻ってくるようなことを……」


壮太郎はそういうと、『わかっているようで、わかっていないんだ』と話す。


「そう……」


さやかは温と過ごしてきた日々を思い出し、

また、どんなふうに温が自分を思う言葉を出すのかが想像出来て、

目に涙が浮かび始める。何かを言えば、涙が押し出されそうな状態は、

壮太郎にもわかるくらいだったが、あえて触れないまま『ブレンド』に口をつけた。


「今の主人と付き合おうと決めてから、私も温に『この人がパパになる人』ってことを、
意識させようとしてきたの。最初から手放そうなんて気持ちはなかったから。
彼もおもちゃを買ってくれたり、一緒に買い物に行ったり、
それなりに努力はしようとして……」

「うん」

「でもね、温ったら壮太郎が買ってくれたおもちゃ入れの中に、
彼が買ったおもちゃは入れないのよ。どうして一緒にしまわないのと聞いたら、
『これはパパが買ってくれたから』って……」


さやかと温が暮らしていた頃、壮太郎は『最低でも2週間に1度は会える』という

条件で温と会っていた。さやかは壮太郎の存在が目の前にある中で、

別の男性を認識させていくのは、難しかったと振り返る。


「もちろん温が悪いわけじゃないし、壮太郎が悪いわけでもない。
ごめんね、『再婚』の話も理解しているつもりなのに……」


さやかは『ふぅ……』と大きく息を吐き、自らを落ち着かせようとする。


「愛菜がお腹に出来て、急がなくちゃいけないって、私の方がだんだん焦ってしまって。
うまく行かない状態にイライラしたり……。結局、温をあなたに……。
今思うと、本当にかわいそうなことをしたと思うし、
育てると言って引き受けた自分が、情けなくもある」


さやかは、現在のご主人も前向きに頑張ろうとしてくれただけに、

自分がダメだったと当時を振り返る。

壮太郎は、そういえば温と食事をしていた時、さやかの様子を聞くと、

いつも怒っていると話したことを思い出す。


「さやか、それはもういいよ。俺だって温がかわいいから……」

「わかっている、ごめんなさい」


さやかは気持ちに区切りをつけようと、何度も頷く。

壮太郎は、さやかの葛藤がわかるだけに、黙って待った。

さやかは少し大きめに息を吐く。


「だからね、だからこそわかるの、壮太郎が話したいことはわかる。
私に、温との距離を置いて欲しいということでしょう」


さやかは、壮太郎を見た。

壮太郎は、『距離を置いて欲しい』という台詞が、

もし自分に振ってきたらと思うと、辛いだろうなと思いながら下を向く。


「うん……ごめん」


壮太郎は、それでも認めなければならないと思う言葉を前に出す。


「壮太郎……そんなに申し訳なさそうな顔しないで」


さやかの言葉に、壮太郎は顔をあげた。


「温はあなたに頼んだ。これが現実なのだから当然よ。
私だって壮太郎の再婚がうまくいって、温が新しいお母さんに、
たくさんかわいがってもらいたいもの」


さやかはそういうと、小さく頷く。

それはまるで、『納得しなければならない』と、自分自身に言い聞かせているような、

そんな態度に見えた。


【24-2】



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