24 雲の上はいつも晴れ 【24-3】

壮太郎は、『有森不動産』で仕事をしながら、

自分の悪かったことに気づけたこと、温のことで困るとすぐに頼ったこと。

そのどちらにも心が絡んでいると、両親に説明する。


「でも、温が話していたでしょう。心さんのところに男の人の靴がって……」

「あぁ、あれは……」


壮太郎は仕事の話もあって、心の部屋にいたことを話した。

藍子は『あんたのだったの』とまた大きな声を出す。


「藍子……」

「……だって」


卓はその日、温が『新しいママ』という話が出て、怒ったことを思いだす。


「温には、まだ何も話していないのか」

「うん……彼女と交際をすることにしたのも、まだ少し前くらいだし。
知らない間柄ではないから、互いに『再婚』は意識して付き合おうと思っている。
ただ……」


壮太郎はこの場所で、怒った温のことを考える。


「温にとってママはさやかなんだ。それは当たり前だと思う。
自我が芽生えてから、ずっとそばにいたわけだし。でも、彼女は自分が幼い頃、
ご両親が離婚しているから、子供の感情も理解して、
焦らなくていいしと言ってくれている……。とはいえさ……」

「まぁ、向こうにも親がいるしな。そりゃ、中途半端には出来ないだろう」

「うん……」

「そういえば、料理研究家の桜沢弘美がどうのこうの……前に話してたわよね、壮太郎」

「うん、そう、お母さんはその人」

「エ……大丈夫なの?」


藍子は、そんな有名な人のお嬢さんなら、『シングルファーザー』との付き合いなど、

認めなのではないかと心配する。


「そのあたりもまだ、全然これからだけれど」


壮太郎は、お茶を飲んだ後、考えてみると決まっているのは自分たちの気持ちだけで、

周りは何もかも動いていないということを、あらためて思い知る。

あちらこちらの事情を抱え込みながら、バランスを取って前に進むことは、

思っている以上に、難しいのかもしれないと考えた。

そこまで話をしていた壮太郎の声が、出なくなる。


「壮太郎……」

「はい」

「『雲の上はいつも晴れ』という言葉を、お前知っているか」


卓はそういうと、格言だからことわざだか忘れたがと言い、お茶を飲む。


「『雲の上はいつも晴れ』……知らないな」

「そうか。誰が言った言葉なのか、いつ頃のものなのか、私も知らないが、
ただ、この言葉が持つ意味が好きでね」


卓は『想像出来るだろう』と壮太郎を見る。


「まぁ、なんとなく……」

「人生には色々なことがある。いい天気だと思っていたら、急に真っ黒な雲が覆ったり、
思いがけない瞬間に雨が降ったりすることもな。でも、そんな雲の上には、
こちらに見えているのがどんな天気でも、必ず太陽が輝いているわけだ」


卓は不安そうな表情で隣に座る藍子の膝を叩く。


「困難だと思うことも、それを越えて行けば必ず光りが見える。
どこまでも闇ではなく、この上には太陽があると思えば、頑張ることが出来るだろう」


壮太郎は、越えて行かなければならないものが、たくさんあるのだと考えながらも、

それを乗り越えて、心と温と3人、新しい家族を作りたいとあらためて考える。


「うん」

「温はわかってくれるよ。お前が頑張る姿を、しっかり見ようとする」

「……親父……」

「お前が頑張らないとな、壮太郎」


壮太郎は頷くと、あらためて二人に頭を下げる。

3人は、しばらく無言のままお茶を飲んだ。





そして、6月最初の日曜日、温の誕生日会でさやかと再会する日がやってきた。

温は嬉しそうに壮太郎と駅に向かい、待ち合わせをしたレストランを目指す。


「ママに会ったらさ、僕、たくさん話すことがあるよ」

「写真も見せないとな」

「うん……お遊戯会のもあるし、それに遠足のもある」

「うん」


壮太郎は温を見ながら、その成長を感じていた。

以前は、好奇心で上がるものの、ふらつきながら歩いていた花壇の端も、

今はバランスを取りながら、危なげなく歩いていく。

大きな交差点まで到着し、前を見た温は、すぐにさやかが立っているのを見つけた。


「あ……ママだ! ママ!」


温の声と手を振る行為に反応したさやかも、嬉しそうに手を振り返した。





「こんばんは」

「あ……お姉ちゃん」

「いらっしゃい、心ちゃん」


仕事を終えた心が向かったのは、知恵と杏が待つ山村家だった。

心は『具合はどうなのか』と知恵に問いかけ、

知恵は食卓に料理を並べながら、『すっかりよくなっている』と話す。


「本当に? 無理していない?」

「していない、していない。あんまり病人扱いされると、老けちゃうわよ」


知恵は、仕事をするのも楽しいから大丈夫だと笑い出す。


「まぁ、今回はお母さんの言う通りだと思う。私も論文で忙しくて、
ここのところ帰りが遅いの。お母さんね、仕事場で同僚さんと話すのが楽しいって」

「そう……」

「そうよ。杏なんて朝寝ていて起きないし、夜は遅くまでゴソゴソ……」

「ゴソゴソって言い方やめてよ」


杏は失礼だなと言いながら、心の分もお皿を並べていく。


「それより、お姉ちゃん。話があるって言ったでしょう。
お母さん、そっちの方が気になって、気になって……ねぇ」

「エ……まぁ、うん」


知恵は『何かあったの?』と心に問いかける。

心は茶碗を持つと、それぞれによそり出す。


「知恵さんにね、聞いて見たいなと思ったことがあるの。だから……」

「私に?」


知恵は『なんだろう』と言いながら、杏を見る。


「食べよう、食べよう」


杏は嬉しそうに席に着き、心も隣に座る。

女性3人の夕食は、そこから始まった。


【24-4】



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