24 雲の上はいつも晴れ 【24-4】

「うわぁ……温、真ん中だね」

「そうだよ、僕、褒められたんだ」

「そう……」


温はさやかの隣に座り、この1年の間に起きた色々な出来事を、一生懸命語り続けた。

頼んだ料理も運ばれてきたし、少し食べながらではあるけれど、

温の話は止まらないままになる。

いつもなら『先に食べなさい』と注意をする壮太郎も、

これだけテンションが上がる温の気持ちも理解出来るため、黙っていた。



「エ……西森さんと?」

「うん。まだお付き合いが始まったばかりだけれど」


心の告白に、杏は『そうだったの』と嬉しそうな声を出す。


「あら、杏は知っているの? 心ちゃんのお相手」

「エ……うん。『有森不動産』にお姉ちゃんを訪ねて行った時、お会いした。
お母さん、西森さんすごく素敵な人だよ」


杏は心が説明をする前に、壮太郎に子供がいること、

心と同じマンションに住んでいることなど、どんどん話してしまう。


「お子さんがいる人なの」

「うん……シングルファーザー。でも、彼に子供がいて、その環境があったから、
出会えたことも確かなの。私にとっては流れの中にある」


心の言葉に、知恵は『そう……』と言い、里芋を箸で半分に切る。


「将来を見ながら、一緒に進もうと思っている」


心も同じように箸を動かしていく。


「知恵さん……」

「何?」

「知恵さんはお父さんと結婚する時、再婚のこととか気にならなかった?」

「気になるって……」

「だって、離れているとはいえ、私という娘がいたし。
やっぱり、抱えているものもあるでしょう」


心の言葉に、知恵は少し考えるそぶりを見せる。


「そうね、保之さんには言われた。離婚して母親の方に引き取られたけれど、
娘がいるって。お付き合いしている時にも、心ちゃんに送るプレゼント選び?
手伝ったことあったな」

「そうなの? お父さんと」

「そうよ。靴下とかどんな柄がいいかとか、靴もね」

「うん……」


知恵は、当時のことを思い出す。


「宅配便の宛名を書くのに、保之さん緊張して間違えて書き直したり、
そういえばしていた……」


知恵から出てくる、父の思い出に、心も自然と笑顔になる。


「心ちゃんが今、話してくれたことと一緒よ。ものを通してだったけれど、
そういう手伝いがあったから、私にとって心ちゃんの存在は付き合っている頃から、
ごく当たり前だった。家に遊びに来てくれるのも嬉しかったし、杏が生まれて、
本当にかわいがってくれたし……」


心は隣に座る杏を見ながら『おむつも替えたよね、私』と言いはじめる。


「ねぇ、弘美さんには話をしたの?」


知恵は、心の母、弘美の名前を出す。


「具体的にはまだ話をしていない。でも、好きな人がいるようなことは、
ほのめかしたかな……」

「あら、きちんと話してあげないと」


知恵は、忙しい人だからこそ、心の存在が大きいのだとそう言った。


「そうかな、あの人は好き勝手に毎日、生きているようにしか思えないけれど」

「そんなことはないわよ。心ちゃんも家庭を持てばわかるようになる」


知恵は『なすがまま』という言葉を出し、自然を受け入れていれば、

それなりの形が築けるのだと話をする。


「なすがまま」

「そう。その温君にとって、今は心ちゃんがお友達のような人でも、
お父さんがどんなふうに話しかけて、心ちゃんがどんなふうに笑うのか、
自分にどんなふうに語りかけてくれるのか、子供はきちんと見てる」

「うん……」

「自信を持ちなさい。心ちゃんなら絶対に大丈夫」

「そうそう。お姉ちゃんが不満だなんて言ったら、私が怒るから」


杏はそういうと、左手で拳を作る。


「二人とも、ありがとう」


知恵の温かい言葉と、杏の明るい態度に、心は『一つ強く』なった気がしていた。

決まった形にこだわることなどなく、自分たちと温の形を作っていこうと、

そう思いながら食事を進めていった。





「それじゃぁね、温」

「……うん」

「パパやおじいちゃんやおばあちゃんの言うことを、ちゃんと聞いて」

「うん」


楽しみだった時間が終わる温は、少し寂しそうな顔をしたものの、

さやかの一言一言を、真剣に聞いている。


「気をつけて……」

「バイバイ……」


さやかは温をしっかり抱きしめると、唇を噛みしめた。

壮太郎の顔を見ると、『お願いします』と頭を下げる。


「気をつけて」

「うん」


壮太郎は温の手を握り、さやかは2人とは別の路線のホームに向かっていく。

階段を昇るさやかの姿を、温はじっと黙ったまま見つめた。


「温……帰ろう」

「うん」


温は壮太郎と歩き始めた。

地下街は買い物客やデートをする人達で、賑わっている。

楽しみにしていた今日と言う日、泣いたりせずにさやかと別れた温の気持ちを思うと、

子供にとってやはり『離婚』という親の都合は、大きなストレスになるのだろうと思い、

仕方が無かったこととはいえ、壮太郎は、その罪の大きさを感じてしまう。


「パパ……」

「何?」

「プリンにね、クリームをキュッとすると、美味しいよ」

「クリーム?」

「うん……前にね、心さんがしてくれた。小さなチョコも乗せた」


温は地下街の店に売っているプリンを指さした。

確かに温が言うように、プリンの上に、生クリームが乗っている。


「あぁいうの、一緒に作ったの」

「うん……」


壮太郎は、温の手をしっかりと握りながら、心が言っていたように、

最初は『友達』でも何でもいいのかもしれないと思い始めた。

何かを見て、心との時間を思い浮かべているだけでも、温の気持ちの中に、

存在がしっかり出来ていることになる。


「そうか、パパも、あんなプリン食べてみたいな」

「ならさ……心さんにまた作ってもらおうよ」

「そうだな、頼んでみようか」

「うん」


温は嬉しそうに笑い、その顔を見た壮太郎も穏やかに微笑んだ。


【24-5】



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