24 雲の上はいつも晴れ 【24-5】

「また来てね、おじいちゃん」

「温の方こそ、夏休みはたくさん遊びに来いよ」

「わかった。虫取り行こうね」


6月に入り、卓の検査もあったため、藍子たちは栃木に一度戻ることになった。

藍子はあらためて東京に来るつもりもあるが、

壮太郎は、『夏休みまでは頑張ってみる』と話す。


「心さん、大丈夫だって?」

「うん。お迎えも引き受けてくれるから」


藍子は、息子が新しい幸せに向かってスタートを切ろうとしているのがわかり、

わかったと頷いた。温は卓の背中に寄りかかったりしながら、笑っている。


「温……」

「何?」

「今度来た時には、ランドセル買おうね」

「うん!」


来年の春には小学生になる温は、『僕、青いのがいい』と要求する。


「わかった、わかった。見に行ってみようね」

「うん」


卓と藍子を送るため駅に向かい、温は改札の前で、ずっと手を振っていた。





「へぇ……ここですか」

「はい。まだ建設途中の状態しかご案内出来ませんが、環境はこういうところです」


壮太郎が話をして動いた、寺井家の賃貸マンション建設が5月に入ってから始まり、

敷地の反対側では、駐車場があらたな形を作り、動き始めた。


「この上に小学校と中学校があります」

「歩いたら?」

「そうですね、10分もかからないはずですよ」


幼稚園児くらいの子供がいる若い夫婦が、新築に興味を持ったため、

心が車に乗せて、場所を見ることになった。

男の子は目の前のものに興味があるのか、親の手を離れてすぐに動こうとする。


「こら、じっとしていなさい」


母親は子供を捕まえて、軽く頭を叩く。


「動きたくなるよね」


心は温のことを思い浮かべながら、そう声をかけた。



「ただいま戻りました」

「お帰り……」


心は車の鍵を、いつもの場所に戻す。


「どうでした?」

「場所としては気に入ってくれたようです。
実際に出来上がるのは秋になりますと説明したら、
引っ越す時期を考え直そうかと、色々話しあっていて、また来ますって」


心の言葉に、千紘は納得したのか頷いていく。


「あれ、宅見建設の物件だから、人気があるんだよ。玄関一つにしても、
小さな仕切りが作られていて、隣から見えないだろう。賃貸であれはしゃれてるよ」


千紘は図面を見ながら、そう話す。


「そういえば、隣の駅前に出来るマンションも、宅見建設らしいですよ」


心は、今、案内をしてきたお客様が教えてくれたと、何気なくそう情報を前に出す。

千紘は『あ、そうなんだ』と言うと、湯飲みを取った。


「桜沢さん、情報はやいな……宅見建設の。一体、誰に聞いているんだろう」


『宅見建設』の部分を強調したような千紘の言葉に、

心は『今、ご案内した方が……』と返していく。


「エ……またまた」


千紘は頭に壮太郎を思い浮かべながら、わざとそう茶化すような言い方をする。


「お客様から聞きました」


心は千紘のにやけた顔をしっかりとにらみつけ、仕事に戻っていく。

千紘の言葉や態度を否定しながらも、

心は間に壮太郎を思い浮かべていることがわかるため、少し口元が動く。

『有森不動産』では、今日も事件が起きることなく、普通の営業時間が終了した。


「すみません、お先に」

「お疲れ……」


心は荷物をまとめ、千紘や有森よりも先に店を出た。


「近頃、桜沢さん素早いな……」


長谷川のつぶやきに、千紘の顔があがる。


「あれ……長谷川さん気づいてませんか?」

「ん?」

「桜沢さんは、毎日、温を迎えに行っているんですよ。で、西森家に行って、
ご飯を作って西森さんを待って……と」


千紘は手で、包丁らしきポーズを作り、何かを刻む仕草をする。


「保育園に迎えに行って、一緒に買い物をして……すっかりお母さんだよな」


有森はここに立っていると、『よく2人が前を通るよ』と外を指さす。


「あ、そうですか」


長谷川も自然と外を見る。

同じようにお迎えをしたお母さんが、自転車の後ろに子供を乗せ、

店の前を通り過ぎた。





「さて、今日はハンバーグを作りますからね、温君」

「うん……」


心は温と手をつなぎ、マンションに向かっていく。

いつもなら、保育園のことをあれこれ話す温だが、今日は気が乗らないのか、

黙ったまま歩き続ける。


「何かあったの? 温君」

「何もないよ」


温にすぐ返事をされてしまい、心はそれ以上聞く方法が浮かばなくなった。

栃木に祖父母が帰り、また自分とこうして過ごすことになり、

数日間が経過したため、飽きてしまったのだろうかと考える。

本当の母親なら、そんなことで悩まないのかもしれないが、

壮太郎と気持ちを寄せたために、心にとっては温の態度の変化が気になってしまう。

それでも、家に戻り、お風呂の支度をしながら料理を開始すると、

温はいつものテレビを見始める。

友達とケンカでもしたのかと考えながら、心がハンバーグ作りをしていくと、

『バン』という音が聞こえたため、すぐに和室を見た。


「どうしたの、温君」

「……いいの」

「エ……」

「いいの!」


温は少し赤い顔をして和室から飛び出てくると、

自分の部屋にしている洋室に入り扉を閉めてしまった。


【25-1】



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