25 拒絶の理由 【25-1】

突然扉を閉めてしまった温に対して、心は、『温君』と呼びかけようとしたが、

言葉が出なくなる。

心は、温が今、自分を避けた気がしてしまう。

肉のついた手を洗い、あらためて温の部屋に入る扉を叩こうとしたが、

その手が止まる。

『何があったのか』、『どうしたのか』と聞くのは、自分ではない気がして、

また元の場所に戻った。





「いただきます」


仕事から壮太郎も戻り、夜7時半には3人の食事が始まった。

心が一緒に食べることも、温は自然と受け入れてくれたように思えたが、

実際は我慢しているのだろうかと考えてしまう。


「温、今日は保育園で何があった?」

「ん?」


壮太郎は、ここ数日、帰りが遅かったから話をしていないと思い、

そう声をかけたが、温は『みんなと遊んだ』と言うだけで話をやめてしまう。


「そうか……」


温の様子が、とくにおかしいと思っていない壮太郎は、

どんどん食べ進めていく。心は温に『おかわりは?』と聞くが、

黙って首を振るだけだった。



『温君の様子が、少し変なの。保育園で何があったのか、聞いてあげて』


「ん?」


食事を終えて部屋に戻った心からのラインを読んで、

壮太郎はテレビの前にいる温を見た。食事を残すこともなかったし、

お風呂でもしっかり数を数え、いつものようにパジャマに着替えている。


「温……」

「何?」

「保育園で何かあったのか?」


壮太郎は『パパが迎えに行けていないから、話してくれないとわからないよ』と

声をかける。


「ない」

「ない?」

「ないの!」


温はそういうと和室から出て、洋室に入ってしまう。

壮太郎は、確かにいつもとは違うなと感じ、立ち上がって気持ちを聞こうとしたが、

温の性格からしてここですぐに話し始めるとは思えず、とりあえず朝、

保育園で先生に聞いてみようと考える。



『今聞いてみたけれど、部屋に逃げた。しつこくすると余計にそっぽを向きそうだから、
とりあえず明日、ユキ先生に聞いてみるよ』

『よろしくね』



心は、壮太郎のラインに返信をし、携帯をテーブルに置く。

画面は数秒後に暗くなったため、心は指で触れ、携帯はまた明るさを取り戻す。

自分の存在は、温にとってプレッシャーなっているのだろうかと膝を抱え、

そんな後ろ向きな感情に支配されるのが嫌で、心は首を左右に振った。





「温君の様子ですか」

「はい」

「そうですね……今のところ、特に問題はないと思いますが」

「そうですか」


次の日、温を保育園に送った時間で、壮太郎は今年の担任であるユキ先生に声をかけた。

昨日の様子がいつもと違う気がしたので、何かなかったかと聞くと、

ユキ先生は首を傾げ、特に問題はなかった気がすると返してくる。


「お友達とケンカした様子もないですし、跳び箱も跳べましたし、マット運動も、
温君はそれなりに出来ていたと……」


保育園も最年長学年となり、遊びの中にも運動という要素が加わった。

体育館のように使うホールで、跳び箱やマットが行われ、順番を守ること、

難しいことにチャレンジすることなど、次の段階を意識したプログラムが始まる。


「温君、おはよう」

「おはよう」


壮太郎から離れた温は、自分の場所に荷物を入れると外に飛び出した。

鉄棒では前回りと後ろ回りを行い、それをグラフにしてもらう。


「はい、合格です」

「ありがとう」


シールをもらい、頑張り表に貼っていく。

『にしもりはる』のラインは、順調にシールが貼られていた。

温の目が『うしろまわり』の場所で止まる。



『温君……ちょっとおかしい』



運動が大好きな温は、先生が見本を示してくれたら、だいたいのことは自分で出来た。

鉄棒も問題なく出来たし、跳び箱もきちんと跳べる。

だからマット運動も出来ると思ってトライしてみたら、

前回りはスムーズに出来たものの、後ろ回りが終わった時、

クラスの別の子から、そんな言葉が漏れた。

その男の子は、『坂東史弥(ふみや)』君で、地域にあるスポーツクラブに通い、

水泳と体操を習っている。そのためマット運動も簡単だったようで、

すぐに課題をこなした。



『僕、おかしい?』

『ちょっとね……』

『ちょっと? ちょっとって?』

『ちょっとはちょっとだよ』



温の問いかけに、史弥君はそういうだけだった。

ユキ先生は子供達に、『参観日』にはこのマット運動を披露する予定だと話したため、

温は壮太郎と心に、褒めてもらいたいと思っていた。

しかし、『おかしい』と言われ、さらにその『おかしい』のが何なのかわからないため、

急に自信がなくなってしまう。

心が『自分のことを温がどう見ているのか』という悩みを抱えているのと似て、

温は『心に認めて欲しい』という気持ちを持って、日々を過ごしていた。

『褒められたい』という思いがあり、昨日は心がハンバーグを作る姿を見ながら、

和室で自分なりに後ろ回りをして見たが、マットもないし、支えもないため、

うまく回りきれず、横向きに倒れてしまう。

バタンという大きな音に驚いた心に心配され、温は恥ずかしくなってしまい、

扉を閉めたのだった。


「温君、ねぇ、あっちで遊ぼうよ」

「うん……」


温は頑張り表の前から離れ、

誘ってきた友達と一緒に、つみきのコーナーへ向かった。


【25-2】



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