25 拒絶の理由 【25-2】

「は? 何を言っているの?」

「だから、温君に避けられているような気がして」


『有森不動産』が休みの水曜日、心は仕事の直美を呼びだし、昼食を取ることにした。

直美は頭に疑問符がたくさん浮かんでいるのか、何かを言おうとするが、

首を傾げてしまう。


「その質問の答えを、結婚したけれど失敗し、
子供など産んだことがない私に求めるのか、心は」

「だって……」


直美の言うとおりだと思いながらも、心は『聞く人がいない』と下を向く。


「西森さんには話をしたのでしょう」

「話しました。何かあったのか保育園に聞くって言うから、
どういう理由なのかわかるかなと思ったら、何もないって言われたって……」

「なら、ないのでしょう」

「あるから困っているんです」


心は、以前ならお迎えに行き、一緒に買い物をすると、

食べたいものをリクエストされたり、欲しいものをねだられたりしたのに、

ここのところ数日は、黙って受け入れているだけだと話していく。


「成長したってことじゃないの?」

「成長? いや、そんな急に変わります?」


心は、壮太郎も同じようなことを言ったと、不服そうな顔をする。


「壮太郎さんもそう言いました。温君なりに成長しているからだろうとか。
壮太郎さんには変わらないようなんですよね。温君、態度が」

「うん」

「……やっぱり、私が嫌なのかな。ご飯作って、一緒に食べて、
強引に入り込まれているような気がしているのかも」


心は不安そうに声を出す。


「何よ急に、そんな声出して。自分で頑張るって決めたのでしょう。
いきなり母でなくてもいいとか、焦らないとか、ゆっくりでいいとか、
かっこいいこと言いませんでしたか?」

「言いましたよ、別に母親でなくてもいいです。でも、嫌われているのは……」


直美は、『ほっとけばいいのよ』とスプーンにパスタを絡めていく。


「ほっとけって……」


心は同じように、パスタをフォークに絡めていく。


「子供なんてさ、急にまた気持ちを変えるかもしれないよ。もしかしたら、
男の子だから、ちょっと女性を意識して恥ずかしいのかもしれないし……」


直美は『どんと構えないと』と言いながら心を見る。


「心も西森さんも、その温君も、初めてのことに色々とチャレンジしているわけだから、
予想外のことも起きるよ」

「予想外……ですか」

「そう。でも、それを受け入れようと決めたのは心なのだから。
まぁ、毎日考えながら生きていくしかないね」


直美の言葉に、心は『そうですよね』と言いながら、パスタを口に入れる。

まだ始まったばかりだと自分に言い聞かせ、またフォークにパスタを巻き始めた。





『参観日のお知らせ』



それから数日後、洗濯物をしようと思った壮太郎が、温のカバンの中から、

この紙を見つけ取り出した。日付は来週の日曜日になっている。


「温……」

「何?」

「これ、出さないとダメだろう」


壮太郎はお手紙はきちんと出しなさいと注意し、リビングの上に置く。

温はその紙を見た後、洗濯機に洗濯物を入れる壮太郎を見る。


「パパ……来る?」

「行くよ、日曜日だろ。この前、ユキ先生が話してくれたよ。
年長さんは跳び箱やマット運動を頑張っているって」

「……うん」


温は歯切れの悪い返事をする。


「心さんや千紘君に応援団、また頼むか……」

「ダメ!」


温は強くそう言うと、壮太郎を見る。


「ダメ……心さんはダメ」

「温……」

「パパ……心さんには言わないで」


温はそういうと寂しそうな顔をする。


「どうして言ったらダメなんだ」


壮太郎は洗濯物を入れ、洗剤を入れた後、洗濯機をスタートさせた。

心が気にしているように、やはり何かあるのかと思い、温の前に座る。

視線を合わせ温を見た。


「温らしくないな、心さんが来たらダメだなんて」


温は唇を噛みしめるようにしながら、黙っている。


「黙っていたらわからないだろう」

「嫌だ……」


言葉を絞り出したような温の目から、一粒の涙がこぼれ落ちた。

理由を聞こうとした壮太郎は、『涙』という最上級の抵抗とも言える武器に、

言葉の続きが出せなくなる。


「言わないで……」


温はそう言うと、力なく自分の部屋に入ってしまう。

壮太郎は扉の閉まる音を聞きながら、

ここのところ、3人で食事をすることを当たり前のようにしてきたが、

それはまだ、早かったのだろうかと考えた。





「そう……」

『ごめんな、君もお迎えに行って、
先生達から参観日のことを自然と聞くだろうと思って』


温がここのところおかしかったのは、やはり自分との関係に悩んでいたのかと、

心は壮太郎からの電話を聞きながら考えた。

壮太郎は言葉を選びながら話してくれているが、

結局は、参観日に心が見に行くことを拒絶しているわけで、

お遊戯会の時には、呼びに来てくれたのにと思うと、

このまま先を目指していいのかどうか、不安の方が勝っていく。


『時期を見て、もう一度、話してみるよ』

「ねぇ、無理に受け入れさせようとしないでね。きっと頭がごちゃごちゃなんだと思う。
無理に迫ったら、温君を追い込むような気がするから」

『うん……』


心は気丈に振る舞い、『大丈夫だ』と電話を切ったが、ツーツーと音が聞こえると、

自然と涙が浮かんできた。いきなり母親で無くても構わないと思っていたし、

一緒にいることが自然であればありがたいと思っていたが、

『拒絶』という現実を知り、悔しさよりも申し訳なさが勝っていく。

壮太郎と温の関係は絶対に崩したくないと宣言したのに、

自分の存在が余計な心労を追わせる気がして、情けなくもなった。

心はにじむ涙を指で押さえ、へこたれるものかと思おうとするが、

指の端から出て行こうとする涙は、気合いだけでは納めることが出来なかった。


【25-3】



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