20 不安と賞賛の狭間

20 不安と賞賛の狭間

次の日、亮介は荷物を手に持ち、東京駅に立った。

盛岡行きの新幹線がホームに到着し、乗り込むとすぐに咲へメールを入れる。

石原が寄こした京都の有名な寺の安産お守りは、スーツのポケットにしっかりと入っていた。





「横浜か、四国の高知とか、以外に大阪あたりかも……」

「横浜はないだろう。部長職の3人はまだ成り立てのやつが多いし、
管理部長の地位が空くらしいけど、それじゃ出世だ」

「……というか、横浜にね、苦情の処理部門が出来るのよ。それがちょっと気になっていて」

「苦情処理?」


亮介は出発した新幹線の窓から景色を見つめ、昨日の石原と祥子と交わした会話を思い出す。

塚田とのいざこざから、仙台を離れることを希望した自分の行き先について、

まだ、ハッキリとは聞けなかったが、人事に詳しい祥子からの情報で、

『苦情処理』部門の設置を知る。


「それじゃ、お客様と直接仕事が出来ない部署ってことか」

「そこの情報がまだハッキリしないの。営業部の中に専門部門を作るのか、どうなのか……。
でも、普段の仕事とは色が全く違うものになることは、間違いないんだけど」


東北4店の総合部長を務めた亮介からしたら、苦情処理の場所へ行かなければならないとなると、

現場からも外れることになり、予想以上のダメージだった。

情報が入り次第、また、報告するからと祥子はフォローしたが、

全く噂のないことを、自分に報告したりはしないだろう。


たとえ場所が変わり、待遇が下がったとしても、

現場に居られることを望んでいた亮介からすると、デスクワークのみになることは、

気持ちの持って行きようがないくらい、辛いことだった。





「お帰りなさい」

「ただいま、体、大丈夫か?」

「うん、もう、すっかり準備も出来ているし、大丈夫よ」


咲は戻ってきた亮介の表情から、思っていた以上に、状況が厳しいものなのだろうと、

自然に感じ取った。昨日も今日も、おなかの中でグルグルと赤ちゃんが動き、

向こうの準備も万端なのではないかと、わざと明るく語る。


「咲、異動を願い出て了承された。正式には暮れまで場所がわからないけど、
もしかしたら横浜になるかもしれない」

「横浜? 本当に?」

「長谷部の情報だから、そんなに的外れじゃないと思うんだ。ただ……」


亮介はネクタイをはずしたまま、言葉を止めた。

咲は、その後に出てくる言葉を待ち、同じように黙っている。


「苦情処理の係になるかもしれない」

「苦情処理? そんな部署があったっけ?」

「新しく出来るらしいんだ。今、ツアー内容も多様化されてきていて、支店の対応だけだと、
やりきれない部分があるから、苦情処理の部署を作ろうってことになったらしい」


同じ業界で働いていた咲には、それがだいたいどんな部署になるのかも、

おおよその想像がついた。何よりも現場を愛している亮介にとっては、

そこから外れる部署になることは、思っているよりも辛いことだろう。


「……亮介さん」

「ん?」

「新しく出来るってことは、仕事の内容だってまだ、わからないんでしょ?」

「でも……、デスクワークばかりで、現場に出ることはないだろうな」


咲の前だからこその弱気が、その瞬間、亮介の心から顔をのぞかせた。


「嫌なら辞めちゃえばいいのよ、軽部さんと同じように見限っちゃえば! 
選択権は深見亮介にあるの」

「咲……」

「あなたが会社に、飲み込まれないで……」


精一杯の咲の言葉に、亮介はただ、小さく頷いた。





「これが戸田リサイクルの企画案です。先日、社長とお話をさせていただいて、
OKの返事をいただきました」


太田はその頃、戸田リサイクルの打ち合わせを終了し、企画の全てを塚田に提出した。

その企画書を確認し、塚田はあることに気づく。


「太田、値段設定が低くなってないか? 『仙南ホテル』はもうワンランク上にあるはずだぞ」

「はい……、今回、研修旅行だということで、アメニティーグッズの提供を
やめることにしました。それから仲居さんのサービスもつけません。
その代わり、少し金額をお安くしてもらえるように、僕が交渉してきたんです」

「お前がか……」

「はい……」


太田は眉間にしわを寄せ、企画書を見ている塚田の顔を確認しながら、

乾いてしまう唇を何度かなめた。

何かまた、文句を言われるのではないかと、自然に身構える。


「……よくやったな」


塚田はそのセリフを小さな声で押し出すと、すぐに席を立ち営業部を出て行った。

太田はその後姿を見つめ、初めてのことにただ戸惑った。





『手のひらを信用してください……』



塚田のところにも、亮介が本社へ呼び出された話は入っていた。

おそらくこの仙台支店を去ることを希望し、その行き先があれこれ、会議されることだろう。


「もしもし、仙台支店の塚田と申します。小田切専務はいらっしゃいますか……」


塚田は携帯を取り出すと、本社にいるはずの小田切に連絡を取った。





「おはようございます!」

「元気だな、太田」


次の日、亮介はまた支店に出社し、いつものように書類に目を通した。

今朝の営業部員達の動きは早く、笑い声も響く。


「部長、昨日、塚田支店長にほめられたんです」

「ん?」


亮介は太田から、昨日の出来事を聞き、驚いた。

それでも、そんな言葉をかけてくれたのだと思うと、互いに本音でぶつかった

あのケンカが無駄にならなかったのだと感じ、どこか嬉しくなる。

そのまま太田の席へ向かい、一番上の引き出しを開けた。


「あ……」


亮介は『退職願』と書かれた封筒を手に取り、目の前で一度だけ思い切り破り、

それを太田に手渡した。


「自分で破いて処理をしろ」

「……はい」

「軽部が残してくれた仙台への思いは、お前がしっかり受け継げよ!」

「はい!」


少しだけ自信をつけた太田の笑顔に、亮介は両肩に手を置き、思い切りグッと握り締めた。


「い……痛いんですけど……」

「痛くないと意味ないだろうが……」


そう言いながら亮介が笑うと、太田は勘弁して欲しいと両手を合わせて首をすくめる。


「あ……深見部長、塚田支店長からなんですけど、今日は東京へ行くので、
一日頼むと、今、電話がありました。代わりますって言ったんですけど、
伝えればそれでいいと切られてしまって」

「は? 東京へ?」


亮介はすぐに支店長の予定を確認したが、大きな会議などは組まれておらず、

突然の東京行きに、また不安の雲が心の中に広がりだした。





「塚田、仙台はいい季節だろ」

「はい……」


突然、東京へ向かった塚田は、小田切の部屋に入り、茶色の封筒を取り出した。





そして……。


その日から1週間後、深見家にとって大事な1日が、静かにスタートを切ることになった。




                                 深見家、新メンバー加入まで……あと1日






21  小さな星の日 へ……



いつもおつきあいありがとうございます……

ランキング参加中です。よかったら1ポチ……ご協力ください。

コメント

非公開コメント

うぅ・・・・

い、いけず!

ここできる?

もう ももんたさんたら!

塚田は何しに行ったのか?
亮介の処遇は?
赤ちゃんは?

『?』だらけじゃないですか・・・

あ~ぁ この悶々とした日々はいつまで?

と感想にもなっていない感想です。

何だろう?

こんばんは(^O^)/

今回は珍しく早めのコメント出来て嬉しい。

深見家には塚田支店長の動向が気になるところ・・・

ひょっとして支店長、亮介の移動を阻止するのかな?

今までなら居なくなって欲しい存在だったのに

「居てもらいたい人」になってる?

次が楽しみだぁ~

お疲れ様~

激動の東京!!ご苦労様でした・

苦情処理室(q`0´p)ブー (q`0´p)ブー (q`0´p)ブー、
会社にとっては必要な部署だろうけど、大変な仕事だよね。
あっと言う間にストレス溜まりそう・・・

>「あなたが会社に、飲み込まれないで……」と言う咲
咲偉いね、優しいね 妻の鏡ですよ。  亮介妻が咲でよかったね。
 【覚悟は出来てるよ、2人で乗り越えよう】~の咲意思表示さ~

しかしココなら言わない(笑)ココは小心ものだからさ  すぐ頭で¥確認~あぁ~言えない

亮介なら友人人脈広いからね~力になってくれる人多いだろうし、再就職もきっと開けるさ

>塚田は、小田切の部屋に入り、茶色の封筒を取り出した。?の封筒?何だか気になりますね
辞表は普通白封筒でしょうし・・・

新メンバーまで1日で
>その日から1週間後、深見家にとって大事な1日が、静かにスタートを切ることになった。
こっちも?だぁ~"ノ(-________-;)ウゥーム・・引越しか?  解らん?

(ーー;).。oO(想像中)わかんないからもう寝る
じゃに~~~(ノ ̄O ̄)ノ~ミ☆(o_ _)ozzz..

後はももさんに任せる  うふ^^v

空の穴からいい事は落ちない?

こんにちは!!e-454

咲ちゃんのお言葉に亮介さん百人力?!
心強いですね。『会社に飲み込まれないで』って
スゲェー(一体あんたは幾つなの・・)説得力ある言葉っておもっちゃった。

けど、子供が生まれるってのに職探しは、つ・辛い。
(ってなんで辞める事前提なのよ。おばちゃんッ先走んな!)

憎き、塚田!!と思っていたけど
変わってきた様子、それに小田切に電話とか東京へ行ったとか、亮介さんのために動いてる?
じゃなかったら、今度こそ許さんよ!(ってなにができる、おばちゃんに……おバカ)



空の穴から落ちて来たのは災難だったのですね
そうも思いましたが、神様が「まっ、いっか」みたいな軽い感じだったので
大した物じゃないけど、いい事なのかと…はい。

神様のミスなんだからお詫びに空の穴から、いい事も落としてくれなくっちゃ。。。
それが赤ちゃん?じゃないよね。
     

     では、また・・・e-463

どんな結果であろうとも…

塚田も心境の変化が見られて良かったわぁ
それに太田も自身が付いたようだし。
普段、ほめてくれない人にほめられると嬉しいやら不気味やら(笑)
今回の塚田は亮介の捨て身の行動が変化をもたらしたんだろうね。
その分亮介は不安な立場になったけど
どんな結果になっても貴方には見方がいっぱいいるから
何よりも咲が居るじゃないか!

新メンバー加入まであと1日!
気がはやる私
産婆さん呼ぶ?お湯沸かす?いったいいつの時代の話よ!(汗)

新メンバー加入の日をお待ちしております。


後一日??

塚田の変化、きっと良い方向を向いていると思う。
太田を褒めることが出来たのだって凄い進歩。

どんな時も咲の居るところは暖かい。この先もし冷遇されるようなことになっても、退職する(そんなことは無いと思うけど)ことになっても、咲が居れば頑張れる亮介。

おおーーとうとう後一日。オロオロしそうな亮介が目に浮かぶ(ププ)

ここで切りましょう!

azureさん、こんばんは!

>ここできる?
 もう ももんたさんたら!
 塚田は何しに行ったのか?
 亮介の処遇は?
 赤ちゃんは?

あはは……、ここで切るよ。
あれこれどうなるのかは、最終話まで
行って下さいませ。

連載の切る場所って難しいんだよね。
長さもあるし……

大丈夫、ちゃんと感想になってます。

亮介と塚田

ゆき☆さん、こんばんは!

>深見家には塚田支店長の動向が気になるところ・・・
 ひょっとして支店長、亮介の移動を阻止するのかな?

さて、塚田と深見のこれから……
気になるところですよね。
それは、最終話まで行ってもらって、
そこで……

です。

楽しみにしていただけて、嬉しいな。

楽しいコメント

ナタデココさん、こんばんは!

いつも絵文字がたくさんで、楽しいコメントありがとう。
読みながら、何度も笑ってしまいます。

さて、咲ちゃん、もちろん不安でしょうが、
それを言うことは出来ないし、言ってはいけないことも
わかっている、かわいい妻なのです。

残りは1日、最終話がどうなるのかは、
今は言えないです。
お任せしていただけたようなので、
待っていて下さいね。

出来た妻、咲ちゃん

mamanさん、こんばんは!

>心強いですね。『会社に飲み込まれないで』って
 スゲェー(一体あんたは幾つなの・・)
 説得力ある言葉っておもっちゃった。

えっと咲は、30だと思います。31にはもう少しで
なるんだっけ?
一緒に東京西支店にいる頃から、深見亮介という男が
どんなふうに仕事をしてきたのか、わかってますからね。
おそらく、誰よりも彼を評価しているはずだし……。

>憎き、塚田!!と思っていたけど
 変わってきた様子、それに小田切に電話とか
 東京へ行ったとか、亮介さんのために動いてる?

うーん……
ここらへんに関しては、今は言えないのです。
最後までお付き合いくださいませ。

あと1日だよ

Arisa♪さん、こんばんは!

>普段、ほめてくれない人にほめられると
 嬉しいやら不気味やら(笑)
 今回の塚田は亮介の捨て身の行動が
 変化をもたらしたんだろうね。
 その分亮介は不安な立場になったけど

ねぇ、塚田が変わって、太田が変わって、
亮介だけが損をしてしまうようで、
切ない状況ですが……。

お待たせしておりますが、あと1日です。
さて、どんなふうになるのかは、
最終話までお付き合いを!

亮介と仲間達

yonyonさん、こんばんは!

>どんな時も咲の居るところは暖かい。
 この先もし冷遇されるようなことになっても、
 退職する(そんなことは無いと思うけど)ことになっても、 咲が居れば頑張れる亮介。

自分を理解してくれている人が近くにいると、
人は強くなれるものです。
咲をはじめ、仲間や後輩がいますからね。
亮介には……

さて、オロオロするのかどうか、
それは最終話まで、お待ちください!

変化する人達

yokanさん、こんばんは!

>大田君の仕事が認められて良かったですよね。
 これでやる気がでるね^m^
 塚田支店長の東京行きの意味は・・・
 気になるね~亮介さんにとって良いことでありますように・・。

はい、太田も、塚田も変化を見せ始めました。
亮介のこれからが気になるところですが、
その前に、咲ちゃんのお産が迫ってきていて

その結果は、最終話までお待ち下さいませ。

安産祈願♪

太田君、やる気が出てきたみたいですね
自分で色々と考えて、自然に動けてる^^

そしてそんな太田君の仕事をちゃんと褒められるようになった塚田・・・
確かに良い方に変わってきてるよね!

亮介さんの移動先は『苦情処理』部門?
東京へ向かった塚田が気になるけれど
亮介さんの為の行動だと思いたいです。

あぁ~そしてついに後一日
何かと気苦労の多かった咲ちゃん
どうかお産だけは安産でありますように!

次回が楽しみ[絵文字:v-10]

ももんたさん こんにちは

何だかいい方向に向かってる兆しが!
いくら説明しても分かってくれない人もいるなか今回はきっとやっと分かってくれていると信じれそうですね。
最後はキットと思っていてもそこに行き着くまで腹が立つやら腹が立つやら・・・(笑)

次回はいいこと尽くめ?
さ~~~て女の子?男の子?
楽しみだな~~!

大丈夫^^

ももちゃん 遅くなってミアネ~

職場結婚の良いところは、仕事の愚痴をちゃんと奥様が受け止めてくれる所だよね…^m^
うちも、同業者なので、夫婦の会話は専ら、仕事の愚痴ばっかです…^^;
まぁ~それが長続きの秘訣かな…(爆)

塚田くんは、亮介の異動の口添えに行ってくれたのかな?
ももちゃんの長編では、悪人はラストにはいなくなっちゃうから…ね^^v

もうすぐ…家族も増える! 祈る!安産^^

一人立ち

バウワウさん、こんばんは!

>太田君、やる気が出てきたみたいですね
 自分で色々と考えて、自然に動けてる^^

はい、あれこれ色々ありましたが、亮介の考え通り、
太田は一人立ち出来そうです。
塚田の行動が、どんなものなのかは……
これから、先へ……

>何かと気苦労の多かった咲ちゃん
 どうかお産だけは安産でありますように!

はい、心して書きます(笑)

わかる人、わからない人

takitubosan、こんばんは!

>いくら説明しても分かってくれない人もいるなか
 今回はきっとやっと分かってくれていると信じれそうですね。
 最後はキットと思っていてもそこに行き着くまで
 腹が立つやら腹が立つやら・・・(笑)

あはは……。確かに、世の中説明してもわからない人も
いますよね。
塚田がどうなのかは、まだ、わかりませんが。

咲のお腹の中の赤ちゃん、男か女か……も、
もう少しお待ち下さい。

よき、理解者

eikoちゃん、こんばんは!

>職場結婚の良いところは、
 仕事の愚痴をちゃんと
 奥様が受け止めてくれる所だよね…^m^

そうですよね。どんな世界なのかも知っているし、
どれくらいの努力をしているのかも知っているから、
理解もするし、逆に一番厳しくもあるかもしれません。

さて、もうすぐ出産です。
最後までお付き合いお願いします。

動き出したね・・・

保身だけだった塚田支店長の中で、何かが動き出したのかな。

叱れば相手は萎縮する、けれど、褒めれば相手は気持ちを開放する。
部下を信用するということを、思い出したのかもね。

さて、支店長の東京行きの目的は?

赤ちゃんの誕生と同じ頃、パパの運命も決まるのかしら・・・

動き出したよ

なでしこちゃん

>保身だけだった塚田支店長の中で、何かが動き出したのかな。

亮介のような態度で接してくる部下は、まずいなかったでしょうね。
何かが動いてくれないと、捨て身でぶつかった意味がないもの(笑)

赤ちゃん誕生! もうすぐです。