27 ホップステップ 【27-3】

「でね、こうして『ふ~っ』ってたくさんやって……」

「うん」

「おじいちゃんが木を入れたら、パチパチしてね」


壮太郎は、日曜日、新幹線を使って温と東京に戻った。

車内では、温が楽しそうにキャンプのことを語っていたので、あっという間に駅まで戻る。

そのまま家に戻るつもりだったが、温は改札を降りた途端、

『有森不動産』へ行くと言い始めた。


「温、今日は行かない」

「すぐに帰る、おみやげあげたらすぐに帰るから」


温は『静かにします』と口を結び、アピールした。

壮太郎は『すぐに帰るぞ』と念を押し、『有森不動産』の扉を開ける。


「お……来たな」


一番最初に迎えてくれたのは、ファイルを出していた千紘で、

温は嬉しそうに『こんにちは』と挨拶をした。


「すみません、いつも、いつも」


壮太郎は、『本当に申し訳ありません』と謝罪する。


「何言っているのよ、うちは全然構わないからね。
むしろ、素通りされる方が寂しいわよ」


節子はそういうと、『温君、焼けたねぇ……』と頭をなでる。


「うん、僕ね、キャンプしたの」


温はお土産をテーブルに置き、千紘と長谷川の座る方へ向かう。


「こんにちは、長谷川さん」

「こんにちは……」


温は千紘を捕まえると、『何をしているの?』と問いかけた。



「そう……泣かずに1週間も栃木に……」

「はい。まぁ、従兄弟の章斗君がいたので、それが大きかったと思います」

「あぁ……そうね、子供同士で遊べるのは楽しいから」


壮太郎は節子からコーヒーを入れてもらい、それを受け取る。


「男の子はあれでなきゃ」


節子は、色が黒くなった温を見ながら、頷いていく。

壮太郎が壁の時計を見ると、そろそろお店が終了する時間になっていた。


「ほら、温、挨拶だけって言っただろう。お店も終わるから帰ろう」


壮太郎に声をかけられた温は、捕まえた千紘と長谷川に、

自分のキャンプ体験を語り始めていた。

いつもならカウンターにいる心は、3駅電車に乗った場所にある、

別の不動産店に書類を届けに行っていて、ここに壮太郎と温が来たことを知らない。

壮太郎の言葉に、温は少し不満そうな顔をする。

千紘は、ここに心の姿がないからだろうと思い、『心さんを待つか?』と尋ねた。


「ん?」

「嫌だよぉ、帰らないよぉ。心さんが帰ってくるまで、
僕ここにいる……じゃないのか、温」


千紘はそう温をからかった。

温は首を振る。


「あれ? 違うのか」

「違うよ、僕……今日は帰るよ、心さんには後でお土産渡すもん」


温はそういうとリュックを背負い、千紘のそばを離れていく。

あっさりと帰ろうとする温を見て、

節子は、『あら、温君、桜沢さんがさみしがるかもよ』と声をかける。



「さみしがる?」

「そうよ、温君来たんだ、それなら会いたかったな……って」

「寂しくないよ、心さんは……『こいびと』だから」

「ん?」


一瞬、何を言ったのかがわからなかった節子は、聞き返すような態度を取った。


「心さんはね、パパの『こいびと』」


温は改めてそう言うと、長谷川に『バイバイ』と手を振り始める。



『パパの恋人』



予想もしなかった温の台詞に、壮太郎は当然だったが、

その言葉を浴びた千紘や節子も声が出なくなる。


「パパ、行こう! またね……」


自分が、無意識に大きな爆弾を落としたことに気づかない温だけが、

あっけにとられている千紘や節子に、明るく手を振っていく。


「あ……えっと……」


壮太郎は『すみません、また……』と慌てて逃げるように、

温の手を引き『有森不動産』を出る。

パタンと扉が閉まる音がして、節子は千紘と長谷川のいる方を振り返った。


「ねぇ、今、恋人って言ってたよね」

「言った、聞き間違いではないよ、あいつハッキリ言った。
お袋が『ん?』って言ったら、あいつ、もう一度言っていた」

「そうよね」

「いやぁ……『こいびと』か。あまりにも突然で、からかうタイミングが……」


千紘は『保育園児おそるべし』と言った後、それでもおかしくなったのか笑い始める。

前に座っていた長谷川も、『西森さん慌てていたな』と、声に出す。


「慌ててたよね。何も語らないまま逃げた。
それが『こいびと』発言を認めていることになるのに」


千紘は、西森さんらしいけどとさらに笑い出す。


「やだ……今から桜沢さん戻ってくるのに、どんな顔をして迎えたらいい?」


節子の言葉に、千紘も長谷川もまた笑う声が大きくなった。





「どこでそんな言葉を覚えた、温」

「どこって……」


『有森不動産』から必死に距離を取り、駅を越えたあたりで足を止め、

壮太郎は腰を下ろした状態で温に尋ねた。

温は『章斗君が言った』と言おうとしたが、壮太郎の表情が険しく見えたため、

口を強く結び首を振る。


「保育園のお友達は、そんなことを言うのか」

「……違う」

「じゃぁ、誰が言った」

「知らない」


温は壮太郎の視線から外れ、一人で前に向かって歩き出す。

そういえば、あのときも章斗は留美おばちゃんに怒られていたと思いだし、

とにかく壮太郎に捕まれないように頑張った。


「おい、温!」


壮太郎は次に『有森不動産』に向かった時、どんな顔をするべきかと考えながら、

温を追いかける。『いけない言葉』を言ってしまったと考えた温は、

くれよん保育園の前を通り、いつもならプリンをねだるコンビニ前も、

何も言わずに通り過ぎた。


【27-4】



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