27 ホップステップ 【27-4】

「あはは……」

「笑う話なのか、これは」

「いやいや、笑う話だろう」


週が変わった月曜日、壮太郎は現場で仕事を進めている戸田のところへ向かい、

書類を渡すと、工事の進み具合を聞いた。

昼食を一緒に取ろうと言うことになり、近くのカレーショップに足を運ぶ。

壮太郎は温が心のことを『パパの恋人だ』と言った話を披露した。


「温が寝た後にお袋に電話をしたら、従兄弟がそう言ったらしくてさ」

「従兄弟……」

「小学校3年生の男の子だ。いや、まぁ、予想外だよ。
『有森不動産』の人達、静まりかえって」

「でも、みなさん薄々わかっているだろう。桜沢さん……だっけ?
それだけ西森家の二人に、関わっているわけだからさ」

「まぁ、そうかもしれないけれど……」


壮太郎は心からの電話で、千紘や節子が嬉しそうに温の発言について語ったことを聞き、

確かに温かく見守ってくれているのだろうと理解していたが、

まだ、赤ちゃんに近い存在だと思っていた温から、『恋人』などという言葉が出たことも、

ショックをさらに大きくしていた。


「うちの娘は2年生だけど、女の子だからおませだぞ。
ほら、2月のバレンタインにチョコを作るとか騒いで。
うちのが湯煎をさせたりしていたし……」

「バレンタイン……もうそんなことをするのか」

「習い事? 水泳教室に行かせるようになってさ、その先生に」

「あ……先生」

「そう、で、ついでにパパのも……と」


戸田は『ついでだぞ』と悲しい顔をする。

壮太郎は、悲しがる理由も理解が出来るため、『うん』とただ頷いた。

二人の横をスーツ姿の男性が3名通り、戸田は軽く会釈をする。

壮太郎もそれに合わせて、頭を下げた。

横を通り過ぎた二人は、会計を済ませ店の外に出る。


「なぁ……本社では耳に入っていないか」

「何?」

「役所の連中と、延岡さんがぶつかってさ。この間、建設現場で言い合いだよ」


戸田は、『気持ちはわかるけどね』と渋い顔をする。

壮太郎は、現場で起きているひずみに、その日、初めて気づかされた。





壮太郎は本社に戻る道を歩きながら、戸田から聞いた話を思い返していた。

壮太郎達は、第一段階の仕事が終わり、

これからは、建築許可の出た建物が出来上がっていくことを確認し、

さらにそれをパンフレットにしていくための、資料作りがスタートしている。

営業部なども絡むため、細かい部分も、『取引相手』である役所の面々と、

揉めたり言い合いをして、余計な時間を使ってはいられない。

建築を勉強した自分にしてみると、動き始めてからの変更は、

ただ『変える』という作業ではないこともわかっているため、

話を聞けば聞くほど、役所のわがままだという思いが強くなった。

しかし、『宅見建設』が取ろうとしている仕事は、この『高倉再開発』だけではないので、

ある程度思い切った要求が出せる公営関連の仕事で、悪い印象を持たれるのは、

これからを考えてもマイナスだった。





「公園を?」

「そう。実際には別の業者が入るから、うちが造るものではないけれど、
イメージを持ってもらいやすいから、パンフレットには含めることが決まっていたんだ。
それも木材をふんだんに使って、あ、ほら……こういう?」


壮太郎はパンフレットの原案を広げ、心に見せた。

そこには、木材で作られた滑り台やブランコ、

お年寄りが屈伸運動や柔軟運動に利用できるベンチなど、色々揃っている。


「確かに、これがあると思っている人は、なかったらショックよね」

「うん……なんだろうな、どこかから贅沢だとかそういう声が入ったらしい」

「贅沢」

「うん。公営住宅だからね、税金が絡んでいるというイメージ?」

「あぁ、そういうこと」


心はパンフレットを見ながら、頷いた。

世の中全ての人の気持ちが、一致することなどありえないくらい難しい。


「それでもさ、何度も話し合いをして決めたことなのだから、
この公園にどういう意図があるのか、理解して欲しいし、
もちろん入居者以外も利用できる。どれくらい持つものなのかという説明も、
きちんと自分たちでするべきだろう」


壮太郎は、外野の声に負けて計画を変えてしまうと、

出来上がりまでどんどん崩れる部分が出てくるはずだと、渋い顔をする。


「作る……っていうのも、大変なんだ」

「うん」


心が温を見ると、洋室の押し入れから布団を出し、

ちょうど引きずっているところだった。心はすぐに助けに向かう。


「温君、言ってくれたら出すのに」

「いいよ、僕、やるの」


壮太郎は心に『やらせていていいよ』と声をかける。


「いいの? でも……」

「栃木にいる間は、自分のことは自分でやると、親父と約束していたらしい。
戻ってきたら急に自分で敷くって言いはじめて」

「そうなの……」


子供はすぐに大きくなるという壮太郎の考えから、温も布団は大人用を使っている。

敷き布団はまだ6歳には重いのではないかと、心はつい、手を出しそうになってしまう。

温は布団を自分が寝る場所まで運び、さらにシーツを広げようとする。

多少曲がり、しわもあるけれど、それでも一人で敷き布団を整えた。

心は掛け布団はもっと軽くなるので大丈夫だろうと思い、リビングに戻る。


「すごい、すごい、温君、急に大人になった」

「大人にはならないけど、まぁ、成長しているよ」


壮太郎はそういうと、枕を運びそれなりに整えた温の布団を見る。

温は二人の視線を感じ、さらに余裕がある態度を見せながら、

洋室から出て、和室にあるテレビの前に座った。





「西森」

「はい……」


次の日、壮太郎が出社すると、声をかけてきたのは一つ先輩の柳井だった。

柳井は、延岡が休みだということを話し、一緒に来て欲しいと頼み出す。


「役所にですか」

「あぁ……現場で言ってすぐに修正は無理だ。こちらの計画案の意味を、
もう一度説明することになった。近隣住人との説明会にも顔を出して欲しいと、
向こうが言っている」

「説明会に? でも、それは役所がやりますからと、言いませんでしたか」

「そうだけれど、結局、どうして必要なのかを説明仕切れないのだろう。
役所は、公園は予定通りの広さと遊具でと考えているけれど、
何しろ説明不足だから『反対運動』なんてことになったら、入居にも響く」


柳井は、自分たちで向こうと話をして、これから先の工事がスムーズに流れるよう、

道筋をつけてこないとならないと説明する。


「建築から、募集までの流れをしっかり理解してもらうには、
お前に細かい部分を説明してもらった方がいいと思ってさ」


壮太郎はこういった仕事に慣れている柳井が一緒なら、問題はないだろうと考え、

『わかりました』とすぐに返事をする。

さらに柳井は、兵庫の物件でも、同じようなことが起こったから、

来週、向こうの流れを参考にさせてもらうために、行くことになったことも話す。


「来週? 兵庫に……ですか」

「あぁ……。延岡さんは、俺とお前を考えていると言っていたけれど、
西森、子供のことがあるだろう、どうなのかと思ってさ」


柳井は、大変なら別のヤツに頼むけどと壮太郎を見る。


「あ……」


兵庫まで行き、同じような公営住宅建設に関わった人達の話を聞くために、

1泊の予定で、出張の話が入った。

延岡に言われたのなら、参加した方がいいとは思うが、

心と温のことを考え、すぐには返事が出来なくなる。


「柳井さん、出張の方は、明日まで待っていただいてもいいですか」

「あ、うん、俺はいいけど」

「すみません」


壮太郎はとりあえず役所の方へと思い、そこから柳井と一緒に出発した。


【27-5】



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