27 ホップステップ 【27-5】

「兵庫?」

「うん、加古川。『高倉再開発』と同じような流れで出来たものを見て、
当時の話し合いの方法について、聞くことになった。
説明の仕方一つで、印象も変わるしね」

「うん……」

「計画案の流れで、僕と一つ先輩の柳井さんにと言われているけれど、
温のことがあるから、どうなのかと聞かれて」


壮太郎は仕事を終えてから、心に『出張のこと』を話した。

温はテレビを見ながら、おもちゃで遊んでいる。


「私は温君とここで過ごすことは平気だけれど、温君が……」

「うん」


壮太郎は温を見る。


「温……」

「何?」

「ちょっとおいで」


壮太郎に声をかけられた温は、ミニカーを持ったまま、

二人がいるリビングの椅子に座る。


「何?」

「あのさ、温。パパ、お仕事で1日だけお泊まりしないといけなくなった」

「お泊まり? どこに?」

「兵庫ってところ。新幹線で行く」

「おばあちゃんちの近く?」


温にとっての『新幹線』は栃木を通る『東北新幹線』だけのため、

『新幹線』という言葉の響きに、そう尋ねていく。


「ううん、おばあちゃんちとは方向が違う。えっと……ほら、
甲子園球場がある方」


夏になるとテレビで放送する甲子園は、温も知っているのではと思い例に出す。


「あ、知ってるよ、おじいちゃん見てた」

「うん」


心は、隣に座る温を見た。

栃木の祖父母や従兄弟との宿泊とは違い、この場所とはいえ、

自分と二人になることを、どう考えるのだろうと心配になる。


「温、その日はさ、心さんにお泊まりしてもらったら、ダメかな」


温の目が、隣に座る心を見る。

心は、できるだけ優しい顔をして温を見たつもりだったが、

温の目は、じっと動かない。


「あのね……温君」

「いいよ! 心さん、お泊まりして」


温はそういうと『やったぁ……』と声を出す。


「温、あのな」


壮太郎は、本当に温がわかっているのだろうかと思い、自分がいないこと、

栃木の祖父母も来ないことを説明した。温は何度も頷く。


「心さんがお泊まりに来るでしょ」


心は温を見る。


「ねぇ、温君……」


あまりにもあっさりと話が進むことに、心にも焦りがあったため、

やはり同じように説明しようとするが、温は心の腕をつかみ、嬉しそうに笑う。


「心さん、いつもご飯が終わったら帰っちゃうからさ、
僕、お泊まりしてくれないかなと思っていたんだ。やったぁ……」


温はそういうと、『ずっとお泊まりしたらいいよ』と心を見る。

壮太郎は温と心の顔を交互に見た。


「温……それならさ、今度のお仕事の日だけじゃなくて、
このおうちにパパと温と心さんの、3人で暮らしてもいいのか?」


壮太郎は、思いがけない展開に、心との新しい生活を意識させるつもりで切り出した。

心は、踏み込んだ質問をされた温が、どんな顔を見せるのかと心配になる。


「いいよ、僕とパパと……それから心さんがここに住むので……」


温は心の腕をしっかりとつかみ、ニコニコと笑う。


「お風呂もここで入って、お布団もここに敷いて寝るんだぞ」

「うん、お泊まりでしょう、いいよ」


心が壮太郎を見ると、『本当に大丈夫だろうか』と少し不安そうな顔をする。


「温君、本当に心さん、毎日ここにいてもいい?」


心は『お泊まり』という旅行のような言い方ではなく、『毎日』という言葉を使い、

もう一度問いかけた。温は頷きながら心を見る。


「心さんなら……いいよ」


温はそういうと、嬉しそうに笑いながら心を見た。





「エ……」

「壮太郎さんの出張、水曜日でしょう。
私、お店がお休みだから、少し早めに温君を迎えに行って、
母のところに連れて行ってみようかなと思って」


温が自分の部屋で眠りについた後、心は、この間、弘美に交際のことを話し、

そのときに、温を連れて遊びにおいでと言われたことを話す。


「いや、でもさ、まだ挨拶もしていないのに……」

「そんなことはいいの。大人の事情は別に。ただね、母は料理教室をしているから、
珍しい場所でしょう。ちょっと楽しいかなと思って」


心は、何かイベントのようなものがあった方が、乗り切れるのではないかと、

壮太郎に提案した。壮太郎は『いいのかな』と問い返す。


「何かダメな要素、ある?」

「いや、だから、それなら僕が明日にでも挨拶に……」


壮太郎の言葉に、心は不機嫌な顔をする。


「そういうところが、息苦しくなるのかも」

「ん?」

「私は、そんなところに、じっと我慢しませんし、思ったことはハッキリ言いますけど」


心はそういうと、笑い出す。


「我慢ってなんだよ、こっちはさ……」

「はい……わかってます」


心は笑いながら、両手を前に出し、壮太郎の発言を止めようとする。


「心……」

「何?」

「笑い過ぎ」


壮太郎は『人が真面目に考えているのに……』と声に出した。


「私も真面目に考えています」


心はそういうと、『壮太郎さんが行くって言ったら、母も構えるでしょう』と話す。


「あ……そうか」

「そうよ」


心は、『母に、温君のために何か作ってもらう』とラインを呼びだそうとする。


「心……」

「何?」

「今日も泊まれば?」


壮太郎の何かを期待するような目を見た心は、『ダメ』と一言返事をする。


「どうして」

「壮太郎さんに、襲われちゃうから」

「……なんだそれ」


心は楽しそうに笑うと、壮太郎を見る。

また一つだけ階段を上がれた気がして、二人ともしばらくの間、話し続けた。


【28-1】



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