28 ジャンプの先に 【28-1】

『水曜日ならいいわよ、万全の準備で待っているからね』


自分の一番得意な家事になる、料理の腕前を披露できると思った母からは、

自信満々なスタンプが文章と一緒に送られてきた。

心はそれを部屋で開きながら、思わず笑みがこぼれてくる。



『心さんなら……』



一緒に暮らすことも構わないと言ってくれた温の言葉に、

心は、幸せな気持ちを味わっていた。

切り出すのにもっと苦労すると思っていた台詞だったが、

壮太郎の思いがけない出張に乗っかった形で、飛び越えることが出来た。

これで、温と二人、留守番が出来れば、また3人での生活も近づくことになる。

心は以前、温がくれた粘土細工を見ながら、『いつかくるその日』に思いを巡らせた。





「心さん、ここ、ここに来て」

「わかったから、温君」


壮太郎が兵庫に出張する前日、心が初めて西森家に泊まることになった。

温は自分の布団のそばに、もう一つ布団を敷き、心はここに寝て欲しいと要求する。


「温……パパは」

「パパはあっち」


温は和室を指さした。

壮太郎は温を捕まえると、『温の布団に入れてよ』と提案する。


「なんで?」

「寂しいだろう、パパ一人は」

「いつもそうだよ」


温はそういうと、壮太郎を見る。


「ウソだよ……パパも来ていいよ」


温はそう言うと、壮太郎の腕を引き、自分の布団に入るようにと話す。


「なら、僕、真ん中ね」


温は嬉しそうに心と壮太郎の真ん中に入り、両方の布団を体にかけた。

右と左を交互に見ながら、ケラケラと楽しそうに笑う。

壮太郎と心は、温を挟んだままで視線を合わせていく。


「よし、もっとくっつくぞ」

「あ……ダメだよ、パパ押したら!」


温は嬉しそうに笑いながら、壮太郎を跳ね返す。

心は二人を見つめながら、自然と笑みが浮かんだ。





「あ……ここ、合っている?」

「ん? うん、それはその答えでいいと思う」

「だよね、でも合わないな」


温が眠った後、壮太郎と心はリビングでパズル雑誌に取り組み始めた。

『国内旅行』のチケットが当たる問題は、一番の難問で、

まず最初にロジックをこなし、その絵柄がクロスワードの1番を埋める。


「さすがに難しい」

「それはそうだよ、一番いいプレゼントが当たるわけだし」

「うーん……」


心は、それでも少しずつ答えを埋めていく。

目の前に座る壮太郎の視線を感じ、顔を上げる。


「いいね……こういう時間」

「ん?」

「心がいて、温がいて……。気持ちを満たしてくれるものが、
自分の手の届くところにあるっていうのは、幸せだなと……」


壮太郎の言葉は、そこで止まる。


「そうだね」


心も壮太郎の言葉に納得する。

仕事があって、好きなことが出来たらそれでいいと思っていた頃の気持ちは、

完全に切り替わっている。

大切な人を持ち、その人と一緒に時を刻めることが幸せだと、

今は自信を持って言えると考えた。

心は途中まで出来たパズル雑誌に、ペンを挟んで閉じる。


「壮太郎さん……うまいな」

「何?」

「その気にさせるの……」


心はそういうと、少し恥ずかしそうに上目遣いで壮太郎を見る。

互いの視線が重なり、何も言わないまま立ち上がった。

そばに向かう心を、壮太郎はその場で抱きしめる。


「パズルに負けたらどうしようかと思ったけどね」


壮太郎の言葉に、心は微笑んでみせる。

二人は揃って和室へ入り、リビングとのふすまを閉めた。





「行ってらっしゃい」

「うん……」


次の日、壮太郎は一番最初に家を出ることになった。

玄関で見送る温の頭に触れた後、壮太郎は心を見る。


「頼みます」

「はい……」


心は頷くと、『気をつけて』と壮太郎を送り出した。

温はすぐにベランダの方に動き、出ていく壮太郎の姿を見る。


「よし、温君、保育園の準備、お願いします」

「うん」


心は洗濯ものを干す準備を始め、温は保育園のタオルや着替えをバッグに入れる。


「今日は心さんとお出かけするって話したよね、少しお迎え早いよ、温君」

「うん……パパが教えてくれた」


温は『お料理の先生』と話す。


「そう、心さんのお母さんは料理の先生だから、美味しいものを作ってくれるって」

「うん」


心はタオルのしわを伸ばすようにすると、洗濯ばさみを使い干し始めた。


【28-2】



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