29 僕のママ ① 【29-3】

「保育園児の理解力は、どれくらいだろう」

「事実が目の前に来るだけだものね……」

「ん?」

「私が小学校になってすぐだったかな、確か、父と母が離婚をしたの。
だから、父と遊んでいた記憶はないの。でも、出ていってしまった記憶もない。
事実がいつも目の前にあって、それを受け入れてきた」


心は、明日で保育園を去る花音ちゃんのことを考える。


「明日、私行かない方がいいかな」

「どうして」

「だって……」


心は、『まだ正式には変わっていない』段階で出ていくことは、

周りの目がどう捉えてくれるのかわからないと考える。


「そんなことは気にしなくていいよ。うちにはうちの事情がある」

「壮太郎さん」

「温だって心に見て欲しいと思っているんだ。それを周りがどうのこうのって気にして、
避けてしまったら、あいつが悲しむし」


心は『保育園での最後の大きなイベント』だと思い、頷く。


「なるようにしかならないよ」

「エ……」

「いや、温が受け入れられる形で、受け入れてもらえばいい」

「壮太郎さん」

「それでいい」


壮太郎はそういうと、『結構自信はある』と笑顔を見せる。

心は、壮太郎の言い切る態度に、

自分を不安にしたくないからだろうということがわかり頷いた。





「温! 頑張れ」

「温君……」


次の日、快晴の中、『くれよん保育園』の運動会が行われた。

温と花音の二人三脚も、転ぶことなくリズムを刻み、前へ進む。

学年演技や跳び箱など、最上級生らしい演目が並び、

それぞれの成長ぶりが見えるプログラムは順調にこなされていった。


「見て、僕のメダル」

「すごいね、よかったね、温」

「うん、花音ちゃんと1等賞だった」


お昼の時間になり、温は嬉しそうにもらった紙の『1等賞メダル』を見せてくれた。

卓はカメラを構え、温の得意そうな顔をしっかりと納めていく。


「ほら、温、おにぎり食べなさい」

「うん……」


温は壮太郎の横にいる心のそばにいくと、その間に座り込もうとする。

心は少し横にずれた。


「心さん、これ、持っていて」

「エ……」

「僕のメダル」


温はそういうと、心にメダルを手渡した。

心は『いいの?』と問いかける。


「うん、お昼を食べたら『コロコロマーチ』を踊るから、
置いてきなさいってユキ先生が言った」


温の言葉を聞きながら、心は手拭きを広げて渡していく。


「あ、花音ちゃんのは?」

「ちゃんと持ってきたよ」

「うん……」


温と心の会話に、藍子と卓は壮太郎を見る。

壮太郎は二人の視線に気づき、小さく頷く。


「いただきます」


藍子が作ったおかずと、心が作ったおかずが並び、温は箸を使って食べ進めた。

集合時間にはまだ時間があるのに、友達と遊びたいからという理由で、

すぐにござの上から離れていく。


「まぁ……ひかり号みたいに速いこと」

「男の子はあんなものだ」


卓はそういうと、心に『食べなさい』と勧めていく。


「はい、ありがとうございます」


心はおにぎりを一つ手に取ると、口に入れた。

藍子は『そういえば……』と手を叩く。


「心さん、桜沢弘美さんの娘さんなんですってね」

「あ……はい」


心は頷く。


「心さんはお料理がとっても上手だって、栃木に来た時に温が話してくれて。
ハンバーグの時にもね、色が悪いって怒られたのよ」

「エ……」

「あぁ、そうだったな」


卓はそういえばそういうことがあったと、笑い出す。


「心さんはこうだって、まぁ、色々と……」


藍子はそういうと渋い顔をする。


「すみません……あの……」

「いいの、いいの、変な意味ではないから。離婚歴のある子持ちの男と、
お付き合いをしようだなんて、本当にありがたいです」


藍子はそういうと、心に頭を下げる。


「あ、いえ、そんな……」

「お袋、そういうことをしない。変に気を遣うだろうが」

「堅苦しく話すのは嫌だなと思っただけよ。壮太郎も心さんも大人だし、
温を含めて頑張ってくれたら、私たちは……ねぇ」

「あぁ……落ち着いたら、栃木にもいらっしゃい」


卓の言葉に、心は『ありがとうございます』と頭を下げる。


「お母さんには、お会いしたの?」

「いや、まだ……この間温が遊びに行かせてもらって、
すごく美味しい料理を食べさせてもらった」


壮太郎はそういうと、

『もう少し落ち着いてから……』と弘美への挨拶について話す。


「うちの母も、堅苦しいことは好きではないので。
自由に生きてきた人ですし、私にもそう思ってくれています」


心の言葉に、『いやいや』と卓は首を振る。


「一人娘さんだ。壮太郎……きちんと来るべき時が来たら、挨拶をしなさい」


壮太郎はわかっているという意味で頷いていく。


「昨日は、温が少し複雑な顔をしたって聞いたから、どうなのかしらと思ったけれど、
今のを見ていたら、大丈夫だって思えたわよ」


藍子は、心さんと壮太郎の間に入って、ご飯を食べていったと笑う。


「はい……」


心もそれは嬉しかったため、自然と笑みが浮かんだ。

言葉ではなく、気持ちは確実につながっている。

壮太郎は箸でおかずをつまむと、それを口に入れた。


【29-4】



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