30 僕のママ ② 【30-1】

次の日の火曜日。

心はいつものように仕事を始め、データの整理をし始めた。

壮太郎からは朝ラインが入り、栃木のご両親が朝一番に帰って行ったこと、

温が元気に保育園へ向かったことなどが書かれてあった。



『新しいママ』



その言葉に、温の感情が複雑になるのではと心配した心だったが、

『今日は3人で食事をしよう』という壮太郎の誘いに、何を作ろうかと考え出す。

目の前の電話が鳴り出したため、心はすぐに受話器をあげた。


「はい、『有森不動産』です」


電話の相手は、駐車場を借りている男性で、自分の隣に入っている車が、

バックして駐車するときに、不注意でバンパー部分をこすってきたと主張した。


「隣?」

「はい。電話をしてきたのは3丁目の駐車場、11番を借りている佐藤さんで、
隣の10番の車だと……」

「その10番もうち?」

「いえ、隣は安西さんの契約です」

「そうか」

「ちょうど佐藤さんも車に乗ろうとしていたらしくて。で、そのときにぶつかったから、
もちろん向こうも認めているようなのですが」

「うん……」


安西不動産から駐車場を借りていた10番の男性は、実際には自分の車を止めずに、

知りあいや友達の車を止めていたことがわかる。


「又貸し?」

「そうらしいです。車から降りてすぐに免許証出してと話をしている中で、
それがわかったらしくて」

「勝手に又貸しはダメだろう」


有森はとりあえず安西さんに連絡をしてと、心に指示を出す。


「桜沢さん、電話」


長谷川は受話器を保留にし、心に声をかけた。


「あ、はい」


心は、今の男性がまたかけてきたのかと考えたが、とりあえず受話器をあげる。


「はい、桜沢ですが……」

『お忙しい時間に申し訳ありません。お世話になっております。
私、桜沢先生のマネージメントを請け負っております、『ラッセ』の加藤と申します』

「はい」


心は返事をしながらも、『母に関わる電話』だとわかり、何を言われるのかと身構える。


『実は、桜沢先生が収録を終えて体調を崩されまして。今、病院に……』

「エ……」


心は、弘美がテレビ番組の収録終了後、体調を崩し病院に運ばれたこと、

そのまま入院という状態になったことを聞かされた。

自分の母がテレビ番組にコーナーを持ち、そういった仕事を助けてくれる事務所と、

何かしらの契約をしていることも知ってはいたが、

会ったことも聞いたこともない名前が続き、頭が混乱する。


「……はい」


そばで様子を見ている有森も、心の不安そうな表情がわかり、

『どうした』と声をかける。心は受話器に向かって何度か『わかりました』と言うと、

静かに戻した。


「何があった」

「あ……はい。あの……母が体調を少し崩したようで」

「お母さんが?」


有森は、『それならばすぐにでも行ってあげなさい』と声に出す。


「いえ、もう病院に入れたそうですし……」


心はいつも元気に動き、自由な生活を送っていた弘美が、

青白いような顔をして病院のベッドに寝ている姿など、見たくないとそう思った。

『言い合う相手』だった人が、急に弱くなるような想像は、

今まで一度もしたことがない。


「桜沢さん、そんなことを言わずに、行ってあげた方がいい」


いつもなら意見を言わない長谷川が、心に話す。


「元気かどうか、顔だけでも見てあげたら安心するよ。僕はいつも、
一人暮らしの高齢者を案内したりすることが多いから。『一人でいい』なんて言っても、
みなさんやっぱり、家族に会いたいんだ。トラブルがあって来てくれたりしても、
変な話、嬉しそうでさ」


長谷川はそういうと、以前、部屋で倒れていた男性も、

仙台に住む娘さんが来てくれた時には、嬉しそうだったと口にする。


「そうだよ、駐車場の話はこっちでやるから、様子を見てきてあげなさい」


有森の言葉に、千紘は『そうだ』と立ち上がる。


「桜沢さん、今日は俺が温を迎えるからさ。
保育園とそれから西森さんに連絡してくれる?」


千紘はそういうと、『任せて』と胸を張る。


「いや、でも……」

「大丈夫。俺にはちょっとした策があるから」

「策?」


有森は『なんの策だ』と千紘を見た。

千紘は、『家族大作戦』と言い、心を見る。


「マジでさ、ばあちゃんが温に会いたがっているし、うちは全然OKだから」


千紘や長谷川に背中を押され、心は『ありがとうございます』と頭を下げた。






『京英大学付属病院』



心は壮太郎にすぐ、連絡を取った。

壮太郎は、それなら自分が温を迎えに行くと言ったが、千紘が名乗り出てくれたこと、

『新しいママ』の発言を知り、温と話をしたがっていたことなどを話す。


『千紘君が……』


壮太郎はそれならばと千紘の気持ちを認め、

今日は『有森不動産』へ迎えに行くことを了承し、保育園への連絡も引き受けてくれた。

心は『有森不動産』を出て電車に乗り、弘美が運ばれた病院に着くと、

言われた番号に電話をかける。

受付などが並ぶ場所の椅子に座っていると、電話で話した通り、

『A4サイズのファイル』を持った女性が現れた。


【30-2】



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