31 支え合う手 【31-4】

『展覧会』が終了し、カレンダーは2月に入った。

心は就職を決め、地元に戻る学生の部屋に向かい、最後のチェックをする。

水回りも確認し、鍵がきちんと使えるか、本数が揃っているかもチェックした。

今日は日曜だが、午前中のみで早退させてもらうことになっている。


「はい、確かに」

「お世話になりました」

「いえ、こちらこそありがとうございました」


荷物を取りに来た両親に頭を下げられ、心もしっかりと返礼する。

最後のショルダーバッグを肩に下げた学生と、両親は揃って駅に向かった。



『日曜日、3人で出かけよう』



壮太郎の提案があったため、心も休みを合わせることになった。

それならば1日休みをもらうと言ったのに、午後からで十分だと言われてしまう。

しかも、家で待っているので、一度戻ってきて欲しいと言われていて、

心は壮太郎が何を考えているのかわからないまま、

親子を見送った後、自転車に乗り『有森不動産』へ戻った。



午後1時。

心は『有森不動産』を出るために、片付けを済ませた。

カウンターには千紘が座る。


「ごめんね、千紘君」

「いえいえ……あとはお任せください」


千紘はそういうと、『西森さん、手品でもするつもりですかね』と笑い出す。


「わからない……何をするつもりなのか」


心は『お先に失礼します』と頭を下げ、お店を出た。

そのまま横断歩道を渡り、駅の前を通る。

『くれよん保育園』は静かな状態で、心の足は少しずつ歩みを速くする。

これから出かけるとなると、遊園地などではないなと思いながら103の扉を開けた。


「ただいま……」


心を迎えてくれたのは、ソースと青のりの香りだった。

バタバタと音がして、温が姿を見せる。


「お帰り……お昼、作ったよ」

「エ……」

「パパと僕が作ったの。焼きそば。僕、きのこをこうやった」


温は両手を動かし、『しめじの塊をほぐした』ことを表現する。


「お帰り、食べよう」

「うん」


心は、すぐにどこかに出かけるつもりなのだろうと思っていたので、

お昼ご飯を作っていたとは思わず、なんとなく拍子抜けしてしまう。


「どこかに行くのでしょう」

「食べてからね」

「……そう」


心は洗面所に向かい、手を洗いうがいをする。

それから3人で食卓についた。


「僕ね、もやしも入れたよ」

「そう……ありがとう」


温は自分がお手伝いをしたことを得意げに話す。

心は、温がいつもと逆の位置に座ったことに気付き、空いている自分の横を見た。


「温君、今日はパパの隣なの?」

「うん……今日は隣」


温は『ねっ……』と言うと、壮太郎を見る。

3人は『いただきます』と両手を合わせ、焼きそばを食べ始めた。


「久しぶりにフライパンを持ったよ。近頃は全部心任せだったから」

「美味しい?」


温の問いかけに、心は『うん』と頷く。


「よかったね、パパ」

「よかったな……」


心には、何が起こるのかわからないまま、普通に食事は終了した。

壮太郎は『これから3人で出かけようと思います』と話す。


「ただ、その前に話しておかないとならないことがあったので、戻ってきてもらった」

「話?」

「うん」


壮太郎は隣に座る温の頭にポンと触れた。

温は壮太郎を見て頷く。

いつもと違う雰囲気に、心の鼓動だけが速まっていく。


「桜沢心さん、あなたのおかげで、僕も温も新しい人生を進むことが出来ます。
どうか、これからも一緒に、色々なことを乗り越え、
その『雲の上にある太陽』を見ていきましょう。私の……お嫁さんになってください」


壮太郎が話しと言っていたのは、『プロポーズ』だった。

心が驚いていると、壮太郎の横にいる温が『僕の……』と声を出す。


「僕の……大好きな心さん……僕の……」


温の言葉が止まる。

壮太郎は黙ったまま、温の言葉を待つ。


「僕の……『おかあさん』になってください」


温の言葉と同時に、壮太郎と温の右手が心の前に出された。

壮太郎の『プロポーズ』よりも、さらに驚く温の言葉が出たことで、

心の目は潤みだし、そして抱えきれなくなった涙が頬をつたっていく。


「あ……」


温は心が泣いていると思い、心配そうな顔をした。

心は自分の両手を出し、二人の手をつかむ。


「ありがとう」


おしゃれな場所でもなく、特別なものが用意されているわけでもないけれど、

こうして二人が『いつものようにそばにいる』ことを感じられる瞬間は、

心にとって、何よりも嬉しいハプニングだった。


「すごく嬉しい……嬉しくて、嬉しくて、涙が出ちゃう」


壮太郎は自分の左手をさらに添えて、3人の手をまとめるようにする。


「お嫁さんとお母さんと……どちらも頑張るから」


心の言葉に、温は『泣かないで』と声に出した。

心は何度も頷きながら、なんとか涙を止めようとするが、

気持ちの方が前に向かい、なかなか止まらなくなる。


「お母さん……」


温は自然にそう言うと、椅子から離れティッシュの箱を持って心の前に立った。

心は箱からティッシュを取ると、涙を拭き、そして目の前に立つ温を抱きしめる。


「温君……ありがとう」


温は気持ちの壁を乗り越えられたのか、抱きしめられたまま、

『お母さん』とさらに口にした。

壮太郎の目にも涙が溜まっていくが、大きく息を吐きそれを抑えようとする。


「よし、出かけるぞ」

「うん」


温は心のほっぺたに指をあてる。


「お出かけだよ」


心は『うん』と頷き、同じように温のほっぺたに指をあてた。


【31-5】



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