31 支え合う手 【31-5】

「『ファミリーリング』?」

「はい。家族3人の今を残しておくことになりました」


昼食を食べた後に出かけたのは、心と壮太郎の結婚指輪を買うためだった。

お店に入り一緒に選ぼうと思った時、『ファミリーリング』というものがあることを知り、

それならば温の指も採寸し、今の形を残してもらうことにしたのだ。

『有森不動産』が休みの水曜日、心は直美の職場近くの店まで出向き、

一緒に昼食を取ることになる。


「へぇ……かわいいね、それ」

「はい。私たちの出会いは、温君がいてこそだったので。『今』を残すことに」


心は、最初、温が男の子だから指輪は作らないと言ったこと、

それでも、キラキラ輝くものを見ているうちに、

急に指を出し作ることを納得したのだと、日曜日のことを話す。


「入学式の前に入籍は済ませようと思って。一緒に式にも出てあげたいですし」

「あ、そうか、そうだよね。で、心たちの式はしないの?」

「人をたくさん呼ぶような式は、しないつもりです。
壮太郎さんは私が一人娘だし、遠慮しなくていいとは言ってくれましたけど、
そこにお金をかけるのなら、3人でゆっくり旅行をしたいなと思って。
旅行しながら、チャペルに立てるようなものがあればと探したら、
あるんですね、今、そういう色々な変化があるもの」


心は、天丼のエビを箸で切る。


「ホテルの中に教会があって、そこに宿泊しながらお願いできるんです。
温君が楽しめそうなテーマパークも近くにあったので、
それならば家族旅行をしながら……と」

「ほぉ……」


直美は、『そりゃ、温君が嬉しいだろうね』と、

以前、心の部屋で見かけた姿を思い出し、そう話す。


「はい。パンフレットをもらって、毎日のように見ています。
4月に小学校に入学で、入学早々お休みになるのもどうかと思いましたけれど、
壮太郎さんの仕事の都合で考えると、平日しかなくて」


心は、壮太郎は『高倉再開発』の仕事が一段落したため、別の企画のチームに入り、

ゴールデンウイークが終わる頃には、また忙しくなるのだと説明する。


「いいよ、いいよ、学校なんていくらでも取り返せる。今一番大切なのは、
新しい家族を作った3人が、しっかりとした絆を作る時だもの」


直美はお吸い物を飲むと、『そうそう』と頷いていく。


「想像もしていなかったよね、心がさ、変な上司のせいでうちを急に辞めて、
新しい仕事を見つけた、引っ越したってなってさ。ほら、会いに行ったとき」

「あぁ、おととしの6月……くらいですか?」

「そうそう。私はこれを生きがいに生きていきます……なんて宣言されて」


直美は、隣に置いたメニューを持ち、心がいつも買う『パズル雑誌』の代わりにする。


「ものすごく誇張してませんか? あのとき、私、
生きがいなんて言っていないと思いますけど」

「いやいや、そういう雰囲気だった。結婚なんて面倒、彼氏を作るのも面倒って。
不動産屋に人が少ないことを指摘したら、何でも結びつけなくていいって、
ちょっと怒って」


直美は両方の指を立て、鬼の角のようにする。


「怒ってましたか?」


直美は鬼のポーズのまま、数回頷く。


「壮太郎さんが来るとは、想像してませんでしたから、仕方がないです」


心は、壮太郎が温を連れ、『有森不動産』の前に立っていた日のことを思い出す。

あのときには、物件を探している親子としか思わなかった。


「よかったね……心」

「はい」

「結婚して主婦になってもさ、たまにはこうして、おしゃべりしようね」

「もちろんです」


心は直美さんとの友情は、これからも変わりませんからと笑顔になる。

直美は、幸せそうな心を見ながら、『そうだね』とつぶやいた。





「……ということに決定しました」

「賛成」


西森家では、旅行会社と相談し、オプションなどをプラスした、

『西森家家族旅行』の正式な計画案が壮太郎から発表された。

壮太郎は、心の隣に座る温にも、この旅行には3日泊まる日があって、

2日はホテル、最後の1日は栃木のおじいちゃんの家だと説明する。


「うん……『カーズランド』に行けるでしょう。僕、パンフレット見た」

「うん、行くよ。行けるチケットもちゃんとつけてもらった」

「やった!」


温は嬉しそうに笑うと、心に『これ、一緒に乗ろうよ』とゴーカートを指で示す。


「これに?」

「うん」

「わかった、晴れるといいね」

「てるてる坊主、作る」

「……まだ早いだろう」


壮太郎は、まだ2月だからと忠告するが、温はすぐにティッシュの箱を見つけ、

『てるてる坊主』を作り始める。


「心……」

「何?」

「本当にこれでいいの?」


壮太郎は、心は初めての式になるため、

母親の弘美にも相談しなくていいのだろうかと心配する。


「壮太郎さんも会ったでしょう、あの人に」

「まぁ、うん」

「決まり切ったことが嫌いなのよ昔から。別に私の結婚式に出て、
お決まりの手紙? あんなもの欲しいとは思わない人だから」

「いや、でもさ」

「わかったの」


心はテーブルの端で温が作業し始めたため、空になった湯飲みを自分の前にまとめる。


「お母さんが一番嬉しいのは、『ありがとう』って感謝してあげること。
離れていても、『家族だ』って認めてあげること、それだけでいいのよ」


心は、自分一人だとつい斜に構えてしまう弘美との時間も、

そこに温がいると、なめらかに流れていくと話す。


「ありがとう、嬉しい……これでいいの」


心はそういうと、温が手で丸めたティッシュを、別のティッシュで包むようにする。


「ねぇ、顔書こうよ」

「そうだね。ニコニコしている顔がいいね」

「うん」


温はマジックペンを持ってきて、ティッシュのてるてる坊主に顔を書き込んでいく。

壮太郎は旅行の資料用紙をまとめながら、二人の様子を見続けた。


【32-1】



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