3 気持ちを乱す男 【3-5】



そんなにおかしいのなら、笑ってくれていいですけれど。


「車は俺が運転するからいいよ。人にされるのは好きじゃないし、
向こうでもそうしてきた。遠征の時にはまぁ、バスも使うけれど、
都内の試合は俺は別行動させてもらうから」


平野さんはそう言うと立ち上がる。


「ただ、広報の担当が誰になるのかは、そっちの都合だから。
松尾さん、きちんと決めてください」


私を見ながらそう言うと、そのまま出て言ってしまう。

私はこのまま明日になってしまったら、わからないことだらけだと思い、

そのまま後ろを追いかけた。


「平野さん」

「何……」

「明日って言われましたけれど、私は何をするために……」


何をするために『スタジオ』に行くのだろう。

平野さんから、何も言葉が戻らない。


「何をしたら……」

「はい」

「あんた、本当に広報、素人だな」

「そうです」


だから言ったでしょ、素人だって。

また、文句言いますか? 何か。

負けないという気持ちだけは持ち続けようと、とりあえず胸を張る。


「前は何をしていた」

「営業です」


詳しく言うと、営業事務だけれど。


「何か失敗でもして、こっちに来たのか」

「いえ、失敗はしていません」


していない……はず。

部長の機嫌は損ねましたが。


「ほぉ……」


もう、どっちだっていいでしょう。聞いたことに答えてよ。


「松尾さんに聞いて」

「エ……」

「じゃ……」


平野さんは、私の質問に答えることはなく、車に乗り込んでしまう。

あまりの展開に、これ以上声をかける気すら起きなくなった。





「はぁ……」


平野さんの車が出した排気ガスが、中に入らないように扉を閉める。

松尾さんは、書類に書き込もうとしているのかペンを握っていた。


「松尾さん」

「何?」

「すみません、先にいいですか。明日私は何をすれば?」


平野さんに言われたとおり、松尾さんに質問する。

松尾さんは先に答えてくれるつもりになったのか、こっちを向いてくれた。


「何をするかというと、とにかく現場に向かって、
平野が取材を受けたりしているのを、見てくれていたらいいよ」

「見る……」

「今回の取材は、『ブルーサンダー』が実際、受けたものだから、
チームが変わるからと最初は断ったらしい。でも、相手にしてみたら、
今の時期だから逆に聞きたいことがあるとそう言われたらしくて。
取材をする記者と平野とは、仕事の回数も多いし、信頼関係もあるだろうから、
無理に突っ込まなくてもあいつがきちんとやるよ」


松尾さんは、そういうと、何やら仕事を始めてしまう。


「平野さんって、いつもあのような感じですか」


何度か姿はテレビのCMで見たことがあったけれど、もちろん会話はしたことがない。

人としての部分は、初めて見た。


「まぁ、あんな感じかな。口は悪いし、態度も悪い」

「……はい」


それほどでもなどと言えないくら、態度、悪いと思います、私も。


「でも、バレーに関してのことは、とにかく真剣だ。
取材を受けるのか受けないのかも、あいつが自分で選んでいる。
だから、相手を怒らせるとか、チームや協会に迷惑をかけるようなことは絶対にしない」


松尾さんと平野さん。

なんだろう、今の言葉を聞くと、ものすごく深くわかりあっているというような……


「松尾さん、野球部ですよね、選手として活動されたのは」

「ん? あぁ、うん」


競技は違っても、アスリートとしてわかりあえているということだろうか。

何か共通点……


「石橋さん」

「はい」

「実はさ、本社側に広報の素人で、しかも運動部の活動に、
今まであまり興味が無いような女性を寄こして欲しいと頼んだのは、俺なんだよね」

「エ……」


平野さんが『広報の素人で男性』と言ったことはわかっていたが、

あえてそれを曲げて報告したと言う。


「どうしてですか」

「俺の直感」


松尾さん、真面目に話そうとしてくれているのか、そうではないのか、わからない。


「直感って……」

「変わらないとならないのは、チームだけじゃない。
あいつのこれからを考えると、あいつも変わらないとならない。
だから、平野の担当、断らずに少し頑張ってみてよ。
あいつにも、言いたいことは言っていいと話したように、
石橋さんも、今のように平野に言いたいことは言ってくれていい」

「いや……あの……」


何か言ったら、数倍にして返しますよ、あの人。


「あいつとこの『バーズ』が変わるため……そのためにこの1年があると思っている。
それに協力して欲しい」


松尾さんは、今日一番真面目な顔で私を見る。


「それでもどうしても無理だとなったら、辛くて海に走ってしまう前に、
俺が引き受けるから」

「松尾さんが……ですか」

「あぁ……。石橋さんがその後の仕事で不利になるようなことは、
絶対にしないと約束する」


『それでも嫌です』とは、松尾さんの顔を見ていたら言えなくなった。


【4-1】



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