4 冷たい台詞 【4-2】



『オレンジスタジオ』


次の日、都内にあるスタジオに、私は、人生で初めて向かう。

こんな場所に出入りすることになるなんて、考えてもみなかったけれど……

名刺を見せて、平野さんが取材を受ける雑誌名を告げると、中に通してもらえた。

控え室の一覧が貼り付けてあるため、そこで平野さんの名前を確認する。

5階だとわかり、番号をしっかりと覚えてエレベーターに乗った。


「おはようございます」


ノックをして、挨拶をしながら開けてみると、誰もいなかった。

よかった、平野さんよりも先につけた。

これがもし遅かったりしたら、あの人のことだ、

最大限、最大級に嫌みをつけてくるはず。


「ふぅ……」


さて、控え室の中に入ったはいいけれど、何をしていたらいいのか。

テーブルの上に、お茶やお菓子はあるから……

なんとなく目をキョロキョロさせていると、扉が開いた。


「おはようございます」

「うん……」


平野さんはそのまま畳のある場所に腰を下ろし、こっちを見た。


「何か……」


何か……


「今すぐ、買ってきてほしいものがある」

「買い物ですか」


なんだろう、私は携帯のメモを開く。


「グリンのアーモンドチョコ小袋と、プレーンヨーグルト。
メーカーは別に何でもいいです。以上」


アーモンドチョコにヨーグルト。


「グリンの……ですね」

「そう……」


この後、メイクさんやスタイリストが入ってきて撮影の準備が始まるからと言われ、

私はすぐに部屋を出た。



そうか、買い物ね。



そういえば、歩いてくる途中にコンビニがあったなと思いながら外に出ると、

誰かタレントでも待っているのだろうか、女子学生らしき女性が3人立っていた。

その横を通り抜け、コンビニを探す。

それにしても、このあたり、結構素敵な家が多い。

スタジオって、住宅街といえるようなこんな場所にあるものなのか。



『スコッチーズ』



かわいらしいひよこがマークのコンビニ。

『スコチキ』とか『スコッチカルボ』が私は好きだけれど、今日は別の用事。

中に入りカゴを持ち、売り場を1週回ると、

平野さんに言われたものは全て揃えることが出来た。


会計を済ませてレシートをもらい、お店を出る。

それにしても『グリンのアーモンドチョコ小袋』と、『ヨーグルト』か。

スポーツ選手は『プロテイン』とか、

もっとこう、それらしきものを好むのかと思っていたけれど、

なんだか、女子学生が買うものみたい。


あの、横柄な態度を取る人と、結びつかない。


少し駆け足で戻っていくと、さっきと同じ場所に立っていた女の子が、

『すみません』と声をかけてきた。


「はい……」

「あの……もしかしたら、平野選手の関係者さんですか?」


あれ? どうしてわかるのだろう。


「えっと……」


そうですと言うべきか、言わないべきか。


「ですよね、ですよね。だってこれ、平野さんが好きな『グリンのアーモンドチョコ』に、
ほら、こっちが『プレーンのヨーグルト』だし」


ビニールの中にあるチョコレートとヨーグルト。

エ……それでわかるの?


「これ、渡してください。ファンレターです」


かわいらしいピンクの封筒。


「あ……はい。渡すだけでいいなら」

「いいです、平野さんに……あのスパイクを打つ手に持ってもらえるだけで」


女子学生は、うっとりとした顔でそう言ってくる。

私は思わず、選手としては一流かもしれませんが、

すごく嫌みな人間として色々と問題があるタイプですよと言いたくなった。

しかし、そこは我慢。

顔を少し赤くした女子学生は、『応援に行きますと伝えてください』と、

私の手を握ってくる。


「あぁ……もう、『ブルーサンダー』どうして辞めちゃったんですか」

「それだけじゃないよ、全日本もでしょう」

「そうそう。まだ誰よりも出来るのに」


一緒に立っていた女の子達も言葉を加え、私は完全に巻き込まれている。


「平野さん、それについて何か話しています?」

「エ……あ、いや……」


困った、今度は質問攻撃。


「ブルーサンダーの監督と、意見が合わなくなったっていう噂もあるんです」


監督と?

そうかもしれない。平野さん、昨日の雰囲気からすると確かに何か言いそうな……


「あ、そうだ、あと……」

「ごめんなさい、もういいですか」


買い物に出た立場として、このまま流されているわけにはいかないと思い、

なんとか彼女たちを振り切ると、平野さんの待つ控え室へ向かった。

予定よりかかっている気がする時間。

『何をしているんだ』とか、結構、言われそうな気が……


「あれ……」


いない。

どこに行ったのだろう。

時計を確認すると、買い物とファンとの予期せぬ交流で、30分近くが経っていた。

控え室に残る、何かをしたという作業のあと。


「お仕事中、すみません」


廊下を見ると、スタジオ関係者らしい男性が通ったので、平野さんの行方を尋ねてみた。


「えっと……」


ポケットから何やら取り出すと、表を見始める。


「Gスタジオです」

「G……ありがとうございます」


私は男性に感謝の気持ちで頭を下げたが、『なんでわかんねぇの』という、

ちょっとした嫌みの声も聞こえてしまう。

『Gスタジオ』というのはどこですかと、さらに聞く気持ちにはなれず、

とにかくまた別の人に聞こうと動き出したが、

『ちょっと待て』と数歩で足が止まった。


【4-3】



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