5 広報とは何か 【5-1】

5 広報とは何か



『和成との別れ』

親が一人暮らしを勧めてきた理由。

おそらくそうだろうなとは思っていたけれど、

こうして言われてしまうと、さらに申し訳ない気がする。


「うまくいくと思っていたのに、うまくいかなくなったのは、
私たちが気になるからなのかなって」


朋花は割り箸を割ると、醤油を小皿に入れる。


「佐久間さん大阪に戻ろうとしていたでしょう。だから、結花が、
生活の変化が怖くて、思い切れなかったのかなって、そう言っていた。
で、一人暮らしよ。こうして家を出ておけば、そうすれば色々な条件も、
受けやすくなるだろうって……」



思い切り……



「お姉ちゃんこそ、佐久間さんと結婚すればよかったって今思わない?
いい人だったしさ、そもそも、こんなところに来なくたってよかったでしょう」


朋花は、結構かかったと来るまでの時間を話す。


「お姉ちゃんってさ、昔から恋愛に関しては煮え切らないからな。
頭で行動しちゃうと言うか、思い切り悪いし」


朋花は大好きな『イカ』を箸で取った。

ちゆきといい朋花といい、同じようなことを口にする。

言い返してやりたいけれど、やれない自分。

なぜなら、その通りだから。


「あ、そうだ、ねぇ、『バーズ』の選手はどうよ」

「何?」

「何って、新しい相手だよ、相手。私、好きだよ、アスリートのがっちり系。
うわ、そうだった、そうそう、平野来た?」


私と違ってスポーツを見るのが好きな朋花。平野さんのことも知っていた。


「来たけれど……」

「いやぁ……どうなの? 迫ってみたら?」

「何を言っているの」

「何って……」


朋花の箸が、『サーモン』に伸びる。

軽く醤油をつけると、大きな口を開け、一口でパクりと食べてしまう。

その分、しばらく噛む状態が続く。


「ねぇ、なんで? 平野、バレーは今年1年とかって何かに書いてあったよ」


朋花の疑問。


「私も思ったの、どうしてなのかなって。で、今日車で聞いたら……」

「エ! 車? やだ、もうそんな間柄」

「何言っているの。広報だから取材に付き添っただけ、変な方に話を飛ばさないで」


朋花の妄想超特急。


「あ、そうか、うん」

「聞いたら、答える義務があるのかって冷たく言い返された。
だから理由はわかりません」


そう、あまりにも冷たく言い返された。


「ほぉ……冷たくか、平野らしいね」

「らしいの?」

「らしいよ。昔から、あんまり愛想ふりまく方じゃないし。
でも、そういう媚びないところがいいって、ファンの人は言っていたけどね。
態度に嘘がない、あぁいう人って、好きな人にはとことん優しいんじゃないかって、
ギャップ? 女の子のハートをくすぐるわけよ」



『今でも君を……』



あ、そうだ、思い出した。

あのカード、どこに置いたっけ……


「ねぇ、これ、何?」

「あ……いや、あの……」


なんというタイミングと配置の悪さ。

朋花の手にあるのは、まさしく……あのカード入りの封筒。


「エ……ちょっとこれ、平野旬って書いてあるじゃないの。
やだ、こんなものお姉ちゃんもらったの?」

「いや、ダメ……違うって。見てよほら、前の名前」

「名前?」

「そう、この部屋に前にいた人になの……誕生日のカードで……」



えっと……



「なんで知っているの、そんなこと」

「だから……」


あぁ、失敗。こんなふうに話をしてしまったら、さらに知りたくなるのに。


「見たってことでしょう、ちゃっかり」

「違うって、玄関のポストに入れられて、で、落ちたときに開いていて。
慌てて中に入れたの」


間違っていない説明だけれど、全然説得力を感じない。


「ん? 落ちたときに開いて? なんだかよくわからないけれどいいや。
ねぇ、中にはどう書いてあったの?」



どうって……



「知らない、それは」


そう、知っているけれど、知らない。


「知らない? あ、そう、なら見ちゃおうかな」

「やめなさい、朋花」

「だって、もういない人のでしょう。渡せないし……捨てちゃうでしょう」

「捨てないわよ。その人の誕生日に贈るものだったの。今でもって……」

「今でも?」



どんどん掘ってしまう、大きな穴。

戻そうにも戻しようがないくらい、深くなってしまった。



「今でもって何?」

「……いや、あの……」

「教えてくれたら開けないから」


人質ならぬ紙質は、朋花の手の中。

朋花は、少し笑みを浮かべた状態で、封筒を軽く左右に振り始める。

そんなふうにしたら、また、糊付けが剥がれてしまうかもしれないのに……


「『今でも君を愛している』って」

「愛している?」

「うん」

「キャー! 本当に? エ……本当に、これにそう書いてあるの?」


朋花は両手で封筒を持つと、部屋の灯りにかざすようなことをする。


「そんなことしても見えないから、ねぇ、朋花、本当に開けたらダメ、返して」

「ねぇ、ここの前の住人誰? えっと三井優華? あれ?」


動きを止める朋花の手。


「三井優華って誰よ」

「知らないわよ」

「おかしいな、平野ってモデルの『高野杏理』と付き合っているって聞いたことある。
あれ? 何よ、どういうこと? いや、こっちが本命?」

「同姓同名なだけで、平野さんのかどうかもわからないの。
朋花、もういいでしょう、とにかく返して」


疑問符で頭があふれかえりそうな朋花が、隙を見せたので、

やっと手元に封筒が戻ってきた。


【5-2】



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