5 広報とは何か 【5-4】



『ラッコーズ 部員募集』



駅前の金物屋さんに貼り出されている、1枚のポスター。

駅に向かうとき、必ず目に入る。

『ラッコーズ』は、『中華二番』の田辺さん……

そう、澄枝さんがリーダーを勤めるバレーチームだ。

そういえば、松尾さんにこちらの大会にも、

『バーズ』が関わって欲しいと言われていることは話したけれど、返事、もらってないな。

改札を抜け、電車を待っていると、カラスが電線の上で一鳴きした。





『今でも君を愛している』



どうすることも出来ないこの封筒。

朋花には、捨てちゃえばいいと言われたけれど、『平野旬』という名前もあるし、

あの顔がちらついて、捨てられない。

だからといって、いつまでも持っているのも、もやもやするし。

そうだ、思い切って明日、聞いてみようか。



『これ、平野さんが入れましたか』



って。



いや、でもな、もしそうだとしたらどうする。

『今でも君を……』なんてプライベートな手紙を知った私とは、

さらに気まずくなる気がするし。

違うよと言われたとしても、結局、持ち主はわからないままだから、

『そうですか、なら捨てます』と、気分的にはならない気がする。



『今でも君を……』



そう、この言葉が、戻らない時を悔やむような、

すがるような台詞が生きている気がして、『捨てる』という選択肢がとれない。

なんとか届けられないのかと、考えてしまう。


『今でも……』と訴えている思い。

離れた人に対して、どうしても切り捨てられない気持ち。

そんな感情になれる人に対して、どこか羨ましささえある気がして。


ぐだぐだしながら、どうするのかと先を決められないまま、今日も棚の上に乗せる。

すると、インターフォンが鳴った。


「はい……」


なんだろう、こんな時間に。


「あの、すみません、202の三ツ矢です」


隣の三ツ矢さん。

確か、売れていない漫画家さんだと……


「はい。何か」

「お願いがあります。ここ、開けていただいてもいいですか」


お願い?


私はゆっくりと扉を開ける。


「はい」

「すみません、仕事から戻ってきたなと部屋の灯りでわかったので」


三ツ矢さんは、少し申し訳なさそうに茶色の封筒を私に向けて出してきた。


「お仕事から戻ってきて、ゆっくりする貴重なお時間だとわかっていますが、
やっぱり女性の目が欲しくて」


封筒に入っているのは、この後、出版社に提出する作品だと教えてもらう。


「作品? 漫画ですか」

「そうです。この後、編集部に持ち込む予定のものです」


三ツ矢さんは、一度目を通して、感想をもらえないかと頭を下げてきた。

『お願いします』となんだか必死な声。


「いや、私は……」


漫画を読んだことがないわけではないが、

何か言えるほど、知っているとも思えないし。


「いいんです。素直に女性の感想が欲しいので。
自分では描きたいものが描けたと思っていますが、実際にこれを見るのは女性ですから」


三ツ矢さんが持ち込もうとしているのは、女性雑誌らしく、

特に、自分が描いた男性像がどう見えるか判断して欲しいとお願いされる。


「僕はあの……この見た目にはそぐわないような、目がキラキラしているような、
そういう作品が描きたくて。つまり、男も……どちらかというと、こう……」



こう?



「王子様のようなキャラが……」

「はぁ……」


読み切りのため、それほどページ数は多くないらしく、

結局、私は読むだけならと引き受けてしまう。



『明日、ドアノブに袋ごとひっかけて戻してください』



封筒と一緒に渡されたビニール袋は、駅前のスーパーのものだった。





『インザスカイ』

三ツ矢さんから渡された漫画のタイトル。

食事を済ませ、テーブルの上に汚れがないかをしっかり確かめて、

封筒から中身を出した。

初めて見る、漫画の原稿。

こうして1枚ずつ描いているのか。

台詞の部分は、キーボードで打ち込んだ文字。

まだ細かい部分は決めかねているのか、吹き出しからはみ出たようなものもあって……

でも、三ツ矢さんが言っていた通り、主人公の女の子、目がキラキラしている。

すごいな、これだけのものをどれくらいの時間で描くのだろう。


どうしても治せない病を抱えた男性と、それを知りながら支える彼女……

やがてくる別れの時間。

哀しさの中にも、幸せだと感じるところがあり、彼は笑みを浮かべて亡くなってしまう。



『これからもずっと、君を愛している……』



『今でも君を愛している』



また思い出した、あの……

思わず視線が棚の上に向かう。


いや、こっちに集中しないと。

彼を亡くし、彼女が見上げた空。

そこには彼を乗せているような、ヨットの形をした雲が……



ヨット?



エ……ヨット?



「ふぅ……」


どうしよう。

何が悪いのかと言われたら、具体的にはわからないけれど、

素晴らしいのかと言われたら、それもわからなかった。


【5-5】



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