5 広報とは何か 【5-5】



『インザスカイ』


隣の三ツ矢さんが頑張って描いた漫画。

病の男性と、支える女性というパターンは、よくありそうだし。

ドキドキするような台詞も、確かにちりばめられているけれど、



最後のヨット……



見上げた場所にヨット……って、どうだろう。



「はぁ……」



『今でも君を愛している』



そうだよね、こんな台詞。

漫画とかならしっくりくるけれど、現実の世界ではあまり……



『治らない病』



そうか、もし、平野さんが何か病気を持っているとしたら、

命がどうのこうのじゃなくても、それがバレー選手としては致命傷のものだとしたら、

『今年1年』だと決めているのも、わかる気がする。

一流の選手だからこそ、気を遣わせたくないだろうし、

最高のプレーが出来ないとわかれば、身を引く選択肢を取るだろう。

苛立って周りに怒ったりするのも……



まさか……



あの手紙、それだけの覚悟を持って書いたもの……なのかな。



そこからは、三ツ矢さんの漫画は私の頭からすっかり抜けてしまい、

どこに返したらいいのかわからない、封筒のことばかり考えていた。





次の日、三ツ矢さんの部屋のドアノブに、約束通り原稿の入った袋を引っかける。

『楽しく読みました。最後はなぜ、ヨットなのですか?』という感想も残した。



そして、『ジャンプアップ』の撮影。

子供たちチームの練習を実際に見た平野さんが、そこで感じ、

また、何か課題を出して教えるという企画のため、

おおよその打ち合わせをしただけで、子供達とは、今日、初めて会うことになっている。

私は今日も、助手席。


「あの……」

「何」

「今日の相手は子供達ですので」


松尾さんはわかっているだろうと言っていたが、瞬間的にスイッチが入りそうで、

つい、余計なことを言ってしまう。


「だから何」

「いえ……あの」


ガンガン好き放題に言わないでくださいよ……という言葉を、

オブラートに包むには……


「練習の時のような、キツイことを言うなと……」


その通りだけれど、その通りだとは言いにくい。

あぁ、言わなければよかった。


「うちの気の抜けた大人達のように、子供は諦めた目をしてないよ」


気の抜けた大人って……


「やる気の見えないヤツの目は諦めていて、輝きがないからさ」


『バーズ』のみんなの目に、輝きがないと言うこと?


「俺は、間違ったことを言っていない」


そうかもしれませんが……


「あの……」

「あのさ」

「はい」

「本来、あんたも別にいてもらう必要はないんだ。ただ、広報をつけていないと、
取材で何かがあった時、状況を知って間に入れる人がいない。
当人同士だけだと文句もつけられないし。一応、俺が『バーズ』と契約しているから、
管理されているようにしないと問題が多い。それで来てもらっているだけだ、
個人的な秘書でもない、勘違いするな」


勘違いというのは……


「勘違いって、どういう意味ですか」


わからないことは、きちんと聞く。

これは私の変わらぬ姿勢。


「俺は『バーズ』と契約をしている。広報のあんたに指示される覚えはない」


つまり、私が言うことに従うつもりもないし、

この間には、何も取り決めがないと言うこと。


「男も女も、どっちも面倒だ……」


別に、従わせようなんて一度も考えたことはない。

こっちだって、仕事だからここにいる。

そう、平野さんがつぶやいたように、面倒なのだから『わかりました』と言えばいい。

でも、なぜか納得出来ない。


「私も、会社に雇われています。
平野さんに、お給料をいただいているわけではありませんので……」


横にいる平野さんに向かって、どこまでも強気に言ってしまった。


「で? だから何だよ」

「だから……」


そうだ、何を言いたかったの? 私。

文句を言われたことで、ちょっと悔し紛れというか。


「命令されることもすることも、互いにありません。立場は同等です」


そう、命令されたり、命令したり、そういう間柄ではない。

私は会社側の人間として、平野さんの行動をしっかりチェックする。

個人的に好きだとか嫌いだとか、そういうものを含まないのが大人の対応。


「同等ね……。あ、そうか、この間、コンビニに買い物へ行かせたことの文句か」

「エ……」


いや、そういうつもりは。


「わかりました、二度と頼みませんのでお許しください」

「いや、そういう意味ではありません。仕事が円滑に流れるようにするのは、
私の役目だと……」

「それなら、何が言いたい」


さらに『面倒』という雰囲気でそう言われて、何も言えなくなった。

広報という仕事もまともに知らないくせに、『何がどうだ』 と言われて、

的確に答えが戻せない。

結局、そこから会話もないまま、

子供達と練習する予定の、小学校の体育館に到着した。


【6-1】



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