7 プライドの塊 【7-3】



別に、10回壁当てが出来たら、

もう一度見せてくれると平野さんが宣言したわけではないし。

とりあえず、バレーに興味を持ったのだと言うしかなくて。


「それなら、俺たちともやりますか、体育館で」


明石さんは右手でサーブを打つ真似をする。


「とんでもないです、明石さん。私の運動神経のなさを知らないから言えるんですよ。
もう、レベルが本当に……」


そんなことは絶対に出来ない。

みなさんと一緒にボールに触るなんてと、しっかり拒絶する。


「いやいや、ご謙遜を」

「いえ、本当に運動神経がないですから」


広報担当者が、バレーに精通していないとならないという決まりはないだろうが、

私の運動神経のなさを見てしまったら、違った意味で、チームの士気を下げそうで。


「そうか……経験してみようか。なんだか楽しそうだな」


明石さんはそういうと、『そんな感情、いつ忘れたか』とつぶやいていく。

他のメンバーたちも同調しているのか、頷いていて。


「楽しくないですか? バレー」

「昔は楽しかったですよ。でも、だんだん楽しくなくなってきて、
ここのところさらにね……」


3人の選手が、顔を見合わせる。


「石橋さん、平野さん、俺たちのこと、なんか言ってますか?」


平野さんと行動することが多い私に、探りのような台詞。

そういえば、この間の市川君もこんな感じで……


「何も言ってませんよ」

「またまた……あいつらはダメだとか、言ってません?」



『諦めた目』と言われたことは、黙っていよう。



「言ってません」

「言うほどでもないということか」


明石さんはそういうと、『そろそろ仕事だ』と立ち上がる。


「あ、そうだ、何か知りたいこととかあったら、俺たちに聞いてくださいね」

「ありがとうございます」


みなさんを送り出すと、PC画面を立ち上げる。

ファンクラブの会報の数を調べるつもりが、

そこに出ていた平野さんのスパイクを打つ瞬間の写真が、目に入った。



『『バーズ』の救世主になってください』

『千葉は遠いです、全日本に戻ってください』



平野さんに当てたと思える感想が、いくつか並んでいた。

大好きだと思っていたバレーでも、仕事にするとなると、

『好きだ』だけではやれないだろう。

ましてや人の期待も背負うわけだし。

私はしばらく画面を見ていたが、電話が鳴ったため、そこからはメモを取った。





「だから、違うと言っているだろう。もっと深く入れ」

「はい」


練習も2週間後の練習試合に向けて、より実践的になっていく。

相手は同じ2部のチーム『ストーンウルフ』だが、

去年は1部リーグとの入れ替え戦になる『チャレンジマッチ』まで進み、

あと一歩だった。


「ちょっと休め、全員チェック」


休憩の時間になり、若松監督は選手を集めると、タブレットを開きデータを見せた。

相手のブロッカーの癖、セッターの得意技など、誰がどうマークするのか、

しっかりと確認しているように見える。


「こんばんは」

「あ……どうも、よろしくお願いします」


協会の寄こしたカメラマンが、ほぼ時間通りに現れ、肩から荷物を下ろすと、

タオルを取り出し汗を拭く。



チームには、それぞれのホームページが存在し、

そこでファンクラブの募集を行ったり、試合の日程、練習の日程を載せている。

さらにグッズなども取り扱っていて、選手への励ましの言葉も書き込めた。

我らが『バーズ』も、1部リーグチームほどの大きさはないが、

それなりのものを持っていた。

さらに、『バレーボール』全体を盛り上げないとならない協会側は、

チームが持つホームページとは別に、『リーグのページ』を持っている。

そのため、協会が取材陣を雇い、全体のチームを一つずつまわり、

仕上がり具合を評価し、協会のホームページにアップしているのだ。


『東洋の魔女』

『ミュンヘンの奇跡』


昭和の頃、『バレーボール』は間違いなく国民的なスポーツだった。

テレビ放送も多く、オリンピックに出ることも当然で、

男子も女子も、『金メダル』経験がある。

しかし、平成を過ぎ、令和という時代になると、

今は『オリンピック』に出られたことを喜ぶ状態で、

他の大会でも、なかなかいい成績にはなっていない。


バレー全体がレベルアップし、マスコミにも取り上げられ、

昔のように国民的スポーツとして、観客が多く入って欲しい。

注目度が上がり、以前の様に応援をして欲しい、そう思っての取材。


「ご苦労様です。今から30分くらい、作戦のチェックなので、
その後の撮影でお願いします」


松尾さんから、練習風景の後半を撮影してもらうようにと、話をされているため、

私はそれを取材陣に話した。

カメラマンはわかりましたと言うと、機材の準備をし始める。

練習からはみ出て、私の足下に転がるボール。

思わず手に取ってみる。


真っ白なバレーボール。

これを壁に当てて、戻ってきたのを打ち返して、繰り返し10回。

強く打つ必要などないし、ただ、同じ場所に戻してを繰り返すだけ、

しかも両手を使える。

自分で当てるのだから、スピードだってコントロール出来るわけだし。


「ふぅ……」


頭では描けるのに、実際は……

どうして出来ないのだろう。


「おい……」

「はい……」


私に近づいてきたのは、明らかに不機嫌そうな平野さんだった。

ボールを持っているままで腕を引っ張られ、扉から外に出る。


「今日は、何を取材させるつもりだ」

「あの……協会のページに載せる練習風景です」

「帰ってもらえ」

「エ……そんなこと出来ません」


取材を申し込まれ、今日だと決めたのはうちのはず。


「今の状態を考えろ。『はいどうぞ』と言えるわけないだろう」

「でも……もう以前から今日だと決まっていましたし」

「俺は知らない」


知らないって……また、わがままなことを。


「広報が話を伺って、それで……」

「ならお前が対応しろ、俺は嫌だ」


私が対応? そんなこと、出来るわけないのに……


「そんなこと無理です」

「なら、俺も無理だ」


私は、今日の日程を決めたのは松尾さんで、私ではないこと、

協会も時間に限りがあるため、撮り直しは難しいと説明した。


【7-4】



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