7 プライドの塊 【7-5】



「申し訳ありません」


冷たい視線を向ける人達が、ここにもいた。

協会が寄こしてくれた取材陣。


「申し訳ないって言われてもねぇ」

「これじゃ『バーズ』の動画はあげられないかもしれませんよ。
悪いけど、平野がいない練習風景撮っても、意味があると思えないし……」

「いや、あの……」

「僕たちも協会から委託されているだけなので、ここではなんとも言えません。
今日は、とりあえず辞めておきます」


取材の人達は、選手達の生き生きとした顔が撮影できるとは思えないのでと、

不機嫌なまま、また出直してきますと帰ってしまった。

駐車場から、取材の方達の車が出て行くのを頭を下げて見送る。

重たい足を懸命に上げながら、もう一度体育館に戻った。



「若松監督……すみませんでした」


コーチは、他の選手達と練習を再開させていて、

平野さんのいなくなった『バーズ』は、それなりに動き出す。


「石橋さん、何を言ったの、あいつに」

「平野さんが、今日の撮影は辞めてもらえと言って」

「辞める? あぁ……状況が悪いと言うことか」

「目標まで届いていないようなことを話していました。
私、平野さんが選手達に強く言うので、つい、萎縮させているって……
言ってしまって」

「萎縮ね」


若松監督は、軽く頷きながら私の顔を見る。


「石橋さん」

「はい」

「学生時代どんなスポーツをしていましたか?」


私は運動神経が悪いので、スポーツを部活にしたことはないと正直に話す。


「そう……」

「はい」


運動経験もないのに……と、怒られるのだろうか。


「あいつの口調は確かに荒いかもしれないけれど、食いついてくる相手には、
とことんわかるまで説明をしてやる。何かを言った以上、聞かせた以上、
突き放すようなことは絶対にしないんだ」


若松監督は、平野さんと他の選手は、

『だいたいどこでも最初はぶつかる』と笑みを浮かべた。


「どこでも……ですか」

「あぁ、『ブルーサンダー』でも全日本でもそうだった。
ストレートだからね、あいつの言い方。
でも、内容が理解出来るようになってからは、誰よりも信頼されるよ」


『誰よりも信頼』される……か。


「『ブルーサンダー』という国内のトップチームにいて、
さらに大学生の頃から全日本の経験もある。それもエースだ。
そのポジションに立ってきた平野は、自分にも厳しい。誰よりも練習に対して真剣だし、
ボール1つを必死に追っていく。そうでなければ、周りが認めないからね」


トップチームにいる選手たちは、誰もが幼い頃からバレーボールをしていて、

『自分が優れている』と思っているはず。

その中で、日本の頂点に立ってきた人……

頂点に立つというのは、ただ年数を重ねるだけではない。

20年も漫画を描いている三ツ矢さんは、まだスタートに立てずにもがいている。

つまり、『立っている人』というのは、こちらの想像出来ないような努力を、

今までにしてきて、さらに特別なものがある人。



私なんかが『同等』だと、口にしてはならない人のこと。



「『バーズ』に足りないところが何か、誰よりもわかっているから、
仲良しこよしの状態を、あいつは一人で崩そうとしているんだ。
もっと競え、もっとぶつかれ、ここで戦わなければ、何も無くなるぞって」



仲良しこよし……



確かに、『バーズ』のメンバーは仲がいいと思う。

練習の前も後も一緒に食事に行ったり、強豪チームではないので、

全日本などにも呼ばれず、ライバルとして張り合うような雰囲気もあまりない。


「ただ……古いよな」

「エ……」

「頭から押さえるなんてやり方は、今、流行じゃないよ」


若松監督はそう言って笑うと、『あんまり思い込まずに』と私の肩を叩いてくれる。


「あいつも模索中、私たちも模索中」

「本当にすみませんでした」


若松監督の優しい言葉を受け、私はあらためて頭を下げた。





「はぁ……」


家に戻っても、出るのはためいきばかりだった。

今日の騒動を、明日、松尾さんにどう説明したらいいだろう。

平野さんのプレーに感動して、自分から広報を続けるような宣言をしたくせに、

ただ邪魔をしているだけ。

平野さんが本当に怒って、もう練習に来ないなんて言ったら、

責任は私にあるわけで。

強気な台詞を送り出したわりには、その後を何も準備もしていなかった私は、

その日、全然眠れないまま、朝を迎えることになった。





「申し訳ありませんでした」


松尾さんに、事情を話してとにかく頭を下げる。

小松さんは『まずいことになりましたね』と眉間にしわを寄せた。

本田さんは、『板挟みになったら、石橋さんだって困りますよね』と

フォローに回ってくれる。


「平野が帰ったか。笑えるな」


松尾さんはなんだか楽しそうに笑うと、いつものように新聞を広げ、

『放っておけばいい』と予想外の答えを返してくれる。


「エ……放っておくって、でも松尾さん。協会の撮影を頼まないと……」


慌てる小松さん。


「別にいいよ、載せないと言うのなら載せてくれなくたって」

「いやいや、まずいです、協会のホームページですよ」

「みんな見やしないよ。好きなチームがあれば、
そっちのホームページをチェックするのがファンだろう。
協会もさ、自分たちの存在感を出したいだけ。業界を盛り上げたいという割には、
情報だって薄っぺらいし……」

「いや、あの……」


『そうですよね』と松尾さんに同調する本田さんの横で、

小松さんだけが、『いや、それは……』と困った顔をした。


【8-1】



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