9 バレーボールの心 【9-4】



『明日、平野のラジオ番組録音、スタジオ入り頼みます』


部屋に帰る途中、松尾さんからのラインが来た。

そういえばと思い出し予定を見ると、確かに入っている。

あの騒動があって、平野さんが私のことを許してくれないと思っていたので、

仕事の続きがあるとは考えていなかったが、こういう連絡が来るというのは、

まだ、平野さんのダメ出しが出ていないと言うことなのか。

それにしても練習、いつから参加してくれるのだろう。

平野さんが、急に考えを変えてしまうようなことがあったら……



いや、そこまで考えるのは、どうかな。



『MAZINO』から渡された用具のこともあるので、

とりあえず明日はラジオ局に行って、お礼を言おう。

その後練習もある。

『今日は出ますよね』と、軽く導くように言えばいいかも。

出ると言った平野さんが、知らんふりして帰ってしまわないように……



「うわぁ……どうしよう」


目覚めて知る、現実。

私が昨日、練習で打った鼻の頭は、まだその痛みを主張していた。

触ると少し痛い。

でも、折れているわけではないと思う。

その痛さよりも問題は、赤くすれたようになってしまった鼻の頭。

ファンデーションを濃く塗ってみるが、不自然なくらいまで塗らないと隠せない。

でも、ガーゼで覆ったりすると、『なんだろう』と思われるし。

いや、ガーゼはおかしいよね、場所が場所だし。


「うん……なんとか大丈夫だろう」


結局、マスクで逃げることにした。

赤くなっているのは、本当に鼻のてっぺんだから、しっかり鼻で支えておけば、

見えることもないはず。

本来、風邪をひく時期でもないし、花粉が飛ぶ時期でもない。

でも、日本人はマスクの文化があるから、まぁ、おかしくはないはず。

鼻の上の支えをしっかりと押して傷を隠し、

以前、打ち合わせだけをしたスタジオへあらためて向かう。



『ヨーグルトにグリンのアーモンドチョコ』



例のセットは、あらかじめ買っていく。



「おはようございます」

「うん」


平野さんが到着。

袋に気づいたのか、早速チョコを出している。

時計は言われた時間の10分前。


「あの……」


まずは道具のこと。


「『MAZINO』の池田さんから、シューズやサポーターを受け取りました。
平野さんのスポンサー契約があるから、代金はいいよと言われましたけれど、
私は平野さんではないし、そのままいただくのは申し訳ないので、
金額を教えていただけたら……」

「金額?」

「はい……お支払いを……」

「運動音痴のくせに、『ラッコーズ』に入ってバレーするんだろ」



運動音痴って……

自分で言うのは当然ですが、平野さんに言われるとなんだか、言い返したくなる……



……のはなぜだろう。



「はい」


『運動音痴』に、スポーツをさせてはいけない法律など、ありませんので。


「『雲に乗るトス』だかなんだか知らないけれど、俺が見せたプレーで、
その気にさせたようだから、まぁ、これくらいはと思っただけだ」


平野さんはそういうと、チョコを口に入れる。


「ただでもらっているものだから、金はもらえない」


平野さんは『それでも気になるのなら』と私の方を見る。


「使い心地でも報告すればいい。運動音痴が怪我なくバレー出来るのは、
間違いなくサポーターのおかげということになるだろうから」


平野さんはそういうと、また私を見た。


「風邪か?」


風邪? あ、マスクが。


「あ……まぁ……はい」


そう、風邪だと言うのが、一番無難。


「熱は?」

「エ……いえ……たいしたことでは」


一応、軽く咳だけしてみせる。

『あ、そう』とか『だらしがない』とか言われるかと思っていたのに、

なんだろう、急に心配してくれるなんて。

そうか、今までの色々で、平野さんにも少し私に言いすぎたとか、

そういう気持ちがあるのかな。

平野さんはまたチョコを口に入れる。


「ご心配、ありがとうございます」


朝から、少しだけ気分がいい。


「別に、お前の心配をしているわけじゃないよ」


あれ?


「ただ、体調が悪いのなら、無理をしないでくれということ。
これから練習試合とか増えていくだろ。レギュラー争いしているやつがうつされて、
体調崩したりしたら、ここまでの努力が水の泡だ」

「あ……」


控え室がノックされ、スタッフさんが迎えに来る。

ラジオ番組は、あらかじめの収録をするため、平野さんはスタジオへ向かった。


【9-5】



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