10 手紙の持ち主 【10-4】



「頭ではわかっているの。でも、身体がこう……」

「ほぉ……」

「ほぉ……じゃないわよ、みち。もう少し答え方ないの?」


最高記録を出した次の日、妹たちと食事をすることになり、

都内のレストランに向かった。


朋花とみち君。

ケンカをしては仲直りを繰り返しているらしいが、今日はまた少し険悪なムード。


「朋花、みち君にいちいち強く言い過ぎ」

「ですよね、結花さん」


みち君は、ワインを少し飲む。


「こいつ、浮気しているから」


浮気?


「いい加減にしろよ、してないって言っているだろう」


今度のケンカ原因は、どうも浮気らしい。

なんだ、こんな状態なら食事の予定キャンセルしてくれたらいいのに。

出来たら二人で解決して欲しい。


「ラインで連絡取っているでしょう。大学の後輩だかなんだか知らないけれど……。
『またぜひ一緒に』って」

「就職活動をしている後輩だからだよ。
教授の関係で話を聞いてやってくれって言われて、それで食事をしただけ」

「聞くよ、そういう話。『うちに入れるようにしようか……』って。色眼鏡でさ」


朋花は両手でメガネを作り、自分の目の前につけてみせる。


「それは人事担当とかの、親父がどうのこうのってニュースだろ。
俺にはうちの人事権、ないし……」

「そうだよ朋花、それは発想が飛びすぎ」


ニュースから入った情報を、自分よりに代えている朋花の妄想。


「ですよね」


朋花は『元カノの妹だから優しいのよね』と、みち君を見る。


「元カノ?」

「あ……まぁ、それは、いや、元彼女の妹というのは確かですけど。でもさぁ……」


みち君が朋花と付き合う前に、彼女だった人の妹か。

点ではない間柄のイメージが、朋花の気持ちを乱すわけで。


「他にもさ、大学の先輩いるでしょう、みちの入った会社に。
同期だけで4人いるって言っていたじゃない。
それなのに、みちに連絡をしてくるあたり意味があるような……」


私たちがグチグチと言い合っている間に、頼んだ料理が並べられる。

とりあえず食べられるように、小皿をそれぞれの前に置く。


「なんかさ……」

「あぁ、もう、どうぞ色々と頭を悩ませて下さいって。
俺にはやましいところはないですから」


みち君は食べましょうと、ナイフやフォークを持つ。


「そうだよ朋花。みち君を信用しないと」


いつも朋花に言いたいことを言われているみち君だけれど、

『人間性』は私から見ても、いいと思える。


「『お姉ちゃんは、別れたことをすごく後悔しているんですよ』って言われて、
ヘラヘラしたんだよね、みち」

「だから……話の中で出た挨拶だろうが」

「それを自慢げに言ったのはあんたでしょう」


朋花は不機嫌なまま、八つ当たりするように肉を切っていく。


「俺は思ってないよって、言っただろう」


みち君は不機嫌な朋花の扱いに困りながら、お肉を口に運んだ。

朋花の膨らんだ頬、今にも文句を言いそうな口。

みち君が大好きで、焼き餅を焼いている状況。

感情が思い切り素直に、本人へぶつかっていく。



我慢なんてしない。言いたいことは言う。

その代わり、言われたことも受け止める。

『これから』を考える人だからこそ、不満はためたくない。



「朋花、うまくないだろう、そんな顔していたら……」

「別に関係ないもん。美味しいですからご心配なく」


そう、私にはこれがなかった。

付き合っていた和成に対しても、何か線を引くことがあって。

言いたいことも言い切れず、だからなのか言われたことを素直に受け取れず。

話を聞いたとか聞かないとか、その体裁にこだわってしまった。


いや、私はずっとそうだったかもしれない。

大学時代に付き合った人にも、『好きです』と言われて、その積極的な行動に、

引っ張られることに、ただ慣れてしまって……


「みち君」

「はい」

「姉として、一応謝っておくね。こんなわがままな妹で」

「お姉ちゃん」


不満そうな朋花の顔。


「いえ……」


本当は全てわかっている、

『そんなところもかわいいのです』と言いたげなみち君の顔。


「でも、朋花は裏表ないし、心にもためないから。
こうしてグダグダ言うのも、本当にみち君を失いたくないから、だからだよ」

「はい」

「何が『はい』……よ。バカじゃないの」


朋花はそう言いながらも、『グチグチ言えた』ことが嬉しかったのか、

少しずつ表情が和らいできた。



朋花のように、不満や不安を、こうして口に出せたら、

私ももう少し上手に恋愛が出来ただろうか。

口に出したときには、もう、どこかで結論を出してしまっていて。



『和成に、ついていくことは出来ない』

『今すぐにとは言わないよ……』



和成の本社への転勤。

大阪へ行くこと、将来は海外勤務を目指していること。

自分が思っていなかった『将来』が浮き上がってしまい、ただ怖くなって。

親がいるから、長女だから、仕事があるから……


「ふぅ……」


ハッキリとした理由なんて、結局わからないままだ。

それほど強くなんてないくせに、『決められていたこと』がどこか許せなくて。



最初は朋花の愚痴から始まった食事会だったが、最後にはそれぞれの近況報告まで進み、

二人で『バーズ』の試合を見に来ると、約束してもらった。





部屋に戻り、玄関のポストに入っていた数枚の広告を手に取ると、

それを持ちながら中に入る。



『今でも君を……』



そういえば、あの封筒。

どうしたらいいのか考えていたのに、

仕事や『ラッコーズ』で慌ただしくなってきたので、すっかり忘れていた。

置いた場所からあらためて手に取り、封筒の裏を見る。



『平野旬』



平野さんの名前。

そういえば、別れたことを後悔しているような話を、みち君の元カノが言ったと、

さっきもそんな言葉、出ていたな。



平野さんも、後悔したのだろうか。

『三井優華』さんとの別れに。


【10-5】



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