11 夏の出来事① 【11-5】



電話が鳴ろうが、休みが取れなくなろうが、私の仕事は『広報』。

チームの選手達が、競技に専念できるようにするのがやるべきことだった。

めんどうくさいことを押しつけられたというような台詞をぶつけ、

気に入らないから、叩くなんて……



『広報とは何だ』



そういえばこんなふうに聞かれたことがある。

選手でもないし、監督やコーチとして練習に役立つわけでもない。

当然すべき仕事をしていただけで、叩くなんてもってのほかだ。


「自分でも正直、どうしてそこまでしたのか、わからないところもあります」

「うん」

「ただ……あの日は、合宿の連絡が入ることもわかっていましたし、
平野さんの写真が載ったことで、朝から電話が鳴り続けて……」

「あぁ……」


マスコミも、ファンからもどちらもあった。


「協会からの電話も入る予定がありましたから、正直、バタバタしていました。
なんとか……本当になんとかやることを終えて練習の場所に行くと、
本人である平野さんは、そんなこと全然気にしていなくて。
高野さんの話になった時、結婚を一度も考えたことがないって、
だからなんだと言われて。つい、女性として、相手の気持ちに……
というか、女性一般論として……」


うまく説明しようとしたが、どうもまとまらない。


「松尾さん、すみません。私、やはり向いていないと思います」

「なんだよ、急に」

「だって……」


理由を言ってみたものの、だからといって叩いたことが正当化されないことも、

自分自身が一番わかっている。


「そうか、結婚なんて考えたことがない……か。あいつらしいな」


松尾さんは少し笑うと、両手を前で組んだ。


「石橋さん」

「はい」

「あの日、ほら、『さざなみ杯』の前。明石の予定が急に変わっただろ」


そう、明石さんが急に出られなくなり、急遽平野さんが来てくれた。


「俺は聞いてたんだ、あいつから。高野の方が、別れたいと言ってきたって……」


別れ話は、高野さんから……


「そう、平野が『ブルーサンダー』から『バーズ』に移ると決めたことに、
高野が腹を立てた」


『ブルーサンダー』から『バーズ』に入ったこと。


「高野杏理を知っている?」

「名前は……」

「そう……。平野と付き合ったのは、この1年くらいじゃないのかな」


松尾さんは、その前に付き合っていたのは、野球選手だと名前も言ってしまう。


「エ……」


昨年、優勝にもう少しだったチームの、抑え投手。


「ブランドが好きなんだろうな、高野は。俺は前のことも知っていたからさ、
高野が平野にモーションかけてきたのを知った時は、どうなのかと言ったけれど。
あいつは、そういうタイプの女性なら、けじめをつけやすいしと……
まぁ、どっちもどっちだな」


有名な選手が好きだという『高野杏理』。

つまり、平野さんの前に付き合っていたのが野球選手で、

その後、平野さんに気持ちを移してきたということ。


「『ブルーサンダー』のタオルを、わざと自分のインスタグラムに出したり、
アピールはよくしていたようだから。ほら、よく言うだろ、『匂わせ』ってやつ」


『匂わせ』かぁ……。

違いますからと否定しておいて、なんとなくわかるような物や空気を、

SNSにわざと出してくるやり方。


「『一流選手の彼女』というブランド好き。
当然、あいつが『ブルーサンダー』を辞めたことは、気に入らないだろう」


1部のトップから、2部の……しかも弱いチームへ。

確かに、『ブランド』はなくなる。


「雑誌に追いかけられていることはわかっているから、いずれ何かしら出るだろうと、
そのときはって……話をしてさ」


松尾さんは、平野さんとのやりとりの中で、

明石さんが『さざなみ杯』に、急に出られなくなった話が出たと言う。


「そうしたら、それなら俺が出ますって、あいつが言ったんだ。
石橋さんが意見を出して、新しいことをしようとしていただろう。
最初の取り組みで盛り上がりにかけてしまったら、
きっと、自信がなくなるだろうからって」


松尾さんの言葉に、声が出せなくなった。


『最初の取り組みで盛り上がりにかけてしまったら、
きっと、自信がなくなるだろうからって』


平野さんがそんなことを考えるなんて。

思い切り驚いたのに、声が出ていかない。


「自分が参加して、少しでも盛り上がるのならと。
別れを決めていた高野との約束を、あえて夜に変えた」


松尾さんは『盛り上がったのだろう』とイベントのことを聞いてくれる。


「はい。参加人数も去年よりすごく増えて」


澄枝さんたちのように、平野さんが参加することを知り、

急いで駆けつけた人達も、あの中にはたくさんいたに違いない。

もし、平野さんがいなければ、来なかった人達もいるだろう。

私が提案して、ボールを選べるようにした、『初めてのイベント』。


「あいつは口も悪いし、態度も悪いところがたくさんある。
でも、意外にチームのことを考えているヤツなんだわ。
バレーがからむと、真剣に取り組まないとならなくなる」


松尾さんの言葉に、私は『そうですね』と言うしかなかった。

確かに、平野さんは練習も途中で抜けることもあるし、

練習試合も参加しないこともあるけれど、練習中の平野さんは、誰よりも真剣で……



『今でも君を……』



偶然、見つけたカードの言葉から、平野さんのイメージを勝手に膨らませたり、

またしぼませたり。

出てくる台詞だけを受け取って、その裏の意味など知ろうともしなかった。


「でもまぁ、適当に遊んでいますという言い方は、よくないよな、
同じ女性の立場もあるし、真面目な石橋さんに対して」

「いえ……」


高野さんを知らないくせに、高野さんに勝手になりきった。

平野さんのことを知らないくせに、平野さんが悪いと決めつけた。

何一つ、1ミリも関係がない私が、ただしゃしゃり出て。


「きちんと謝ります」

「うん」

「それに松尾さん」

「何?」

「出来たら……」


平野さんの担当を外してもらいたい。

最後の1年と決めている平野さんに、私の身勝手な行動で、迷惑ばかりかけている。


「練習中に余計なことを言って怒らせたり、今回のように、
話もよく知らないのに、頬を叩いたり……」

「俺はおもしろいけどね」

「松尾さん……」

「いやいや、まぁ、平野がどう思うかわからないけれど、
担当がダメだと言われても、あくまでも広報として頑張ってくれたら……」

「……はい」


とりあえずそう答えたものの、何を考えたらいいのかわからないまま、

合宿所になる部屋を見続けた。


【12-1】



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