12 夏の出来事② 【12-1】

12 夏の出来事②



『高野杏理』



気になって、ネットで調べて見ると、『恋多き女性』という台詞にぴったりとはまる。

野球選手、そしてIT企業の社長とも、過去に噂があった。



『今でも君を愛している』



この誕生日カード。

平手打ちの時には確実に違うと思ったが、松尾さんの話を聞いてからは、

また迷うようになった。

高野さんとのお付き合いは、互いにドライにいられたのかもしれない。

『ブルーサンダー』というブランドを、捨てようと決意していた平野さんには、

別れが来ることも、予想が出来ていただろうし。

だとすると、結婚できなくても、一緒に過ごすことが出来なくても、

気持ちだけはまだ……と言える相手。

それが『三井優華』さんなのだろうか。


ここに引っ越してきてから2ヶ月以上が経った。

どう考えてみても、相手からの反応がないわけだから、

無効だったことに気づいているはず。


平野さんだろうが、違う人だろうが。




でも、平野さんだとしたら……

手紙が意味をなさなかったことに対して、今、何を思っているだろう。

今……何を……





「本当に、申し訳ありませんでした」


他の選手達がいる場所だと、私も平野さんも話がしづらいだろうということで、

松尾さんが間に入り、食事をすることになった。

お店は、松尾さんが選手の頃からよく利用しているという『とんかつ専門店』。


「今回は、申し訳ないと思っているわけ?」


今回? あ……そうか、以前、役員の部屋がある8階で待ったときがあった。

あの時は『組織の一員だと……』


「はい、暴力はよくないです」


そう、叩くのはだめ。


「暴力は……か。あぁ、もういいよ。これ以上思い出したくないし」

「すみません」


そう、本来なら顔も見たくないだろうけれど、

松尾さんがいるから、言うから、頑張って出てきてくれた、そんなところ。


「平野、お前もな、少し言い方に気をつけろ。同じ女性として石橋さんは、
結婚なんて……と、女性を軽く見たような言い方が、気になったわけだからさ」

「別に……」


平野さんの視線。


「こいつに言ったわけじゃないし」



あんたからこいつに格下げとなった私。



「……で、その手は」


その手。


「あ……練習で」

「またポールか」

「いえ、違います。ボールを拾おうとして、つまづいて……手を……」


そう。今度は手。ボールを拾おうとしたのに、足が着いていかずに、

気づいたら、妙な左手の付き方をしたらしく。


「筋を痛めたみたいです」


全治2週間。

その間は、完全なる球拾い。



もちろん、壁当て10回に対してのチャレンジも出来ない。



「そんなふうに怪我すると、もう楽しくない、バレーなんて辞めてやるってならない?」


私の手を見た松尾さんから、こんな指摘が飛んできた。


「いえ、それがそう思ったことが一度もなくて……」

「一度も?」

「はい」


そう、辞めたいと思うことが、一度もない。


「ダメなのは、全て自分の運動神経のなさだとわかっていますし。
少しだけでもコートに入って、ボールがとれた時は、すごく嬉しいですし。
10回連続の課題はなかなか前に進まないですけれど、バレーの楽しさだけは、
どんどん膨らんでいきます」


そう、楽しい……

みなさんと声を出して、助け合って、ボールを点につなげていく。


「今は、球拾いで声を出すのも本当に楽しくて。
あ……澄枝さんたちがみなさん、本当にいい人だからですけれど……」


早く治して、またみなさんと頑張りたいと思う。


「前に聞いた気がするな、10回の話」


思わず『課題』と言ってしまったが、平手打ち事件があるのだから、

どうだろう、もう無効だと言われても、仕方が無い気もするけれど。


「平野のトスが見たいとか……そんなことだったよね」

「あ……はい」


そうです、『雲に乗るトス』です。


「俺がトスをあげたところを見て、こいつが『雲に乗るトス』だとか言いはじめて。
で、バレーボールを知ろうと『ラッコーズ』に入ったそうです。
もう一度見せてくれと言うから、だったら、それくらいやってみろと……
まぁ、正式に言ったというより……」

「やってみろと……お前が」

「はい」

「やれたら、見せてやると……」

「いや……あの……」

「うわぁ……すごいな、平野お前。俺のプレーをただで見るとはけしからん、
そういうことか。ケチだなぁ……お前」


松尾さんはそういうと、ウーロン茶に口をつける。


「ケチ?」

「ケチだろうが。トスだろ。もう一回見せて欲しいと言うのなら、
わかりましたって見せてやればいいだろうが。というかさ、回数がどうのじゃなくて、
石橋さんがバレーを頑張ろうとしただけで十分だと思わない? お前、プロだし。
これだけお世話になって……って」


松尾さんは『なぁ……』と私に向かって言ってくれる。

そんなふうに言われると思わなかったのだろう。

平野さんの表情が、少し困ったように見えて……



とても楽しくなった。


【12-2】



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