12 夏の出来事② 【12-4】



『僕の気持ちは……変わらない』


1年……そう、ほぼ1年の月日が経った。

何かあるたび、ふと和成のことを考え、

気持ちが戻されることがなかったのかと言われると、ないとは言えない。

でも、広報の仕事が色々と忙しくなる中で、

さらに『ラッコーズ』の活動がそこに加わったことで、

正直、忘れていく記憶の方が、多くなった気がする。

平野さんが見せてくれたあの『雲に乗るトス』から、気持ちがどんどん前に向かい、

バレーボールという競技を、もっと知ってみたいと……



色々なことを知ってみたいと……



「よし、休憩しよう」


今日は木曜日、『ラッコーズ』の練習。

いつものようにランニングなどはしたものの、手の怪我があるため、ボールには触らず、

ひたすら球拾い。そこから、いつものように休憩をするのだけれど、

いつもと違う視線が、私に向かっている気がした。


「あぁ、もう、なんかさぁ……」

「そうそう」

「だから、聞いちゃえばいいじゃないの」


澄枝さんの叫び。


「いや、でも、ねぇ……ほら」

「仕方がないのよ。だんだん人生に刺激が無くなってくるのだもの。
たまに訪れた刺激を、ついこう……ね」


振り向いた澄枝さんから、『昨日……』と切り出される。


「昨日?」

「そう。駅前に男の人が迎えに来たって? 石橋さんの彼?」

「エ……」


昨日……ウソ、誰かに見られていたの?

いや、だって……


「うち、駅前でケーキの美味しい小さな喫茶店をしていますの。おほほ……」


チームで一番背の高いアタッカー、望月さん。

口の前に手を置き、『おほほ……』と笑っている。

そんなこと、いつもしないのに。


「あの駐車場、駅前だけれど、そんなに利用する人いないのよ。
それが、昨日は見慣れない車がスーッと現れて、運転席から男性が降りたでしょう。
店の前を掃いていて、あら……って」

「ねぇ、石橋さん。デートでしょ、迎えに来てもらったのでしょう」

「いやぁん、ドライブデート? もう、そういう時期、懐かしい」


望月さんの言葉に、チーム1、『韓流ドラマ』が好きな小林さんが反応した。


「あら、懐かしがるくらいの記憶? もうサビつくくらい古いでしょうが」

「あ、失礼ね」


『ラッコーズ』メンバーたちの、楽しい会話。

話題が自分でなければ……だけど。


「あの、そういう素敵なお話ではないので」


とりあえずしっかりと否定。

和成との関係を聞かれたら、今は『知りあい』なのだから。


「あら……違うの? でも、石橋さん躊躇無くスーッと車に乗ったもの。
しかも助手席、助手席」


確かに躊躇無く乗っただろう。

早くその場から、立ち去りたかったので。


「やだ、望月さん、そんなにジロジロ見たらダメよ」


ダメと言いながら、嬉しそうな小林さん。


「そういうふうに言うから、石橋さんが困るでしょう。
お付き合いしている人くらい、いて当然じゃないの。ねぇ……」


澄枝さんのフォロー。

だから、彼氏という表現は、あの……


「なんだかね、ジンクスというか、思い出しちゃって」

「ジンクス?」

「そうなの。前に『バーズ』の広報を担当していた人も、結婚して辞めていったのよ。
確か……その前も……だっけ?」

「そうそう。松尾さんが入る前の担当の人も、『バーズ』を見ることになりましたって、
挨拶に来て1年後? 結婚しますってね」

「チームは沈みっぱなしなのに、広報担当者になると、やたらに寿なのよ。
こういった縁はあるものなのねと、笑ったからさ」


澄枝さんは『都会が懐かしくなるのかしら』と首を傾げる。


「懐かしく?」

「田舎でしょう、ここ。華やかな街が懐かしくなって、抜け出そうとすると、
結婚になるのかしらと……」

「あら、住めばいいところよ」


望月さんの台詞に、私も頷く。


「私もそう思います。この路線にアパート借りましたけれど、
のどかで、すごくいいところだと思いますよ」

「あ、ありがとう……うれしいじゃないの、ねぇ」


お茶を飲みながら、チームのみんなと笑い合う。


「で……結局、迎えに来たのは彼なのでしょう」


どさくさ紛れに質問をしてきた小林さんに、私は『違いますから』と、

あらためて否定をした。


【12-5】



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