13 夏の出来事③ 【13-4】



どういった理由があり、こうなったのかそれなりに納得出来たし、

山倉さん自身も、私に会いたいとは思わないだろう。


『息子は1年前まで、東京の大学でバレーボールをしていまして』

『去年の冬に、靱帯を切る大けがをしまして……』


行きはエレベーターを利用したが、帰りはゆっくり階段を降りてみる。



『平野選手のファンで……』



私自身、山倉さんがサングラスをかけて、数名で体育館に来たため、

絶対に冷やかしだと、決めつけたところがあったかもしれない。

憧れの選手に対して、照れが嬉しさよりも勝ってしまい、

友達がいるという環境の後押しもあり、こんなことになった。



車を運転し、ホテルに戻ると、選手達はすでに食事を終えて、

ミーティングになっていた。



「おかえりなさい、どうでしたか」

「うん。お母さんにお会いできて話してきた。本人には会わなかったけれど、
怪我も大丈夫みたい」

「そうですか、それなら……」


本田さんは『とりあえずよかったですね』と言ってくれる。


「うん……」

「あ、食事は部屋にありますよ。ホテルの方が残してくれています」

「そうなんだ、色々とごめんね」


自分勝手な行動なのに、申し訳ないなと思いつつ、部屋に戻る。

一緒に残っていたメモは、今日、運転をしてくれた従業員さんからのもの。



『どうだったのか、あとで教えてくださいね』



私は『はい』と言葉に出し、『いただきます』と両手を合わせた後、

カバーを外して、遅めの夕食を取った。





「平野さん……少しいいですか」


ミーティングが終了した平野さんを、廊下で捕まえる。


「あの……」

「何」

「サイン……いただけませんか」


山倉さんのお母さんと話をして、

彼が本当は平野さんを応援するために来ていたことを知った。

確かに、バイクで車をあおったりしたのは悪いことだけれど、

その分のバツは、入院という出来事で受けている。


「お前に?」

「あ……えっと……いえ」


どうしよう。サインに山倉さんの名前、『友暁君へ』とか書いてもらえばいいのかな。

でも、なんとなく、そういうことをすると、素直に受け取らなくなるような。


「あの、名前はない状態で……書いて欲しくて」

「名前を書かないサインはしない」

「……そうですが」


そう、そうだった。ルールだもの。

私、何をしているのだろう。


「誰かに頼まれたのか」

「いえ……えっと……」


どうしよう。どういうふうに持って行けば、不自然ではなくなるだろう。


「『TAKIZEN』の彼に、頼まれたとかか……」

「は?」



『TAKIZEN』の彼?



「何ですか、それ」

「選手がミーティングだっていうのに、自由時間だからって、
一人で車を運転して出かけたってな。お前、何しているんだよ、広報だろう」

「それは……」

「まぁ、そうだな、自由時間だから、俺があれこれ言うのもご迷惑でしょうが……」

「ちょっと待ってください。話が全然違っています。誰がそんなこと……」

「明石達が言ってたぞ。石橋さんの彼は『TAKIZEN』に勤めているから、
会いにでも行くのかなって……」

「は?」



冷静になろう。

何がなんだか……



「明石さんが……」



明石さんがどうしてそんなことをと思ったが、

『ラッコーズ』の望月さんに、小林さん。広報の本田さん、いや、澄枝さんもだ。

和成が私のところに来たことを知っている人は、確かにいて。

間違いに間違いが重なっているけれど、でも、どこから説明して、

ウソをほぐせばいいのかもわからない。


「人の恋愛には厳しいこと言ってたくせになぁ……ほら、色紙貸せよ、
お世話になっている広報さんの頼みですからね、グダグダ言わずに書きますから」


目の前に出てくる、平野さんの大きな手。


「違います。全部、全て、情報が何もかも違います」


もう、なんでこうなるの。

『TAKIZEN』に勤めている人が、もし本当に彼だとしても、

こんな仕事中に訪ねてくるなんて、普通あり得ないでしょう。

しかも選手がミーティング中にお出かけ? あり得ない。


「『TAKIZEN』にくっついた情報は、全て間違いです。
今、サインが欲しいのは、今日、体育館に来ていた山倉さんにと思ったからです」

「……山倉?」

「あの……サングラスをかけて、名前を書かないでと言った、あの人です」


私は両方の指で丸を作り、目の前に出した。

サングラスのイメージを作ったつもりだけれど。


「色紙を5枚だそうとした……」


ルールではダメなことくらいわかっている。

でも、山倉さんが平野さんと会う機会は、もう、ないかもしれない。

明日の練習試合も、入院していて見ることが出来ないし。


「どうして急にそうなるんだよ。お前、自分で止めていただろう」

「はい、そうです。で、今、病院に行ってきまして」

「病院? そいつが入院した病院か」

「はい」

「どうしてお前が行くんだよ。あおられたのはこっちだろう」

「そうですけど……」


あぁ、もう、めんどうくさい。


「気になったのでいきました。確かにあおってきたのは向こうですし、
何か悪いことを自分がしたのかと言われたら、していないと思います。
でも……サインのお断りが100%の対応だったかと言われたら、自信も無いですし、
わかっていて、知らんふりが出来なくて……」


私には、本田さんのように余裕がない。

だから言葉も態度も、どこか堅苦しくなってしまう。


「お母さんにお会いしました。息子が申し訳ないと、頭を下げてくれました。
山倉さんは平野さんのファンだそうです。中学からずっとバレーをしてきたけれど、
大学で靱帯を切ってしまって、諦めて……それで……」


山倉さんがサングラスをかけて、わざとからかうようなことを言ってきたのは、

憧れと照れの裏返しなのだと、平野さんに説明をした。


【13-5】



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