14 夏の出来事④ 【14-4】



人の厚意を受ける気持ちが全くない、

ひねくれたバレーボール選手を見ながら私も外に出る。


「またそういう屁理屈を言う。歩いていたらまた撮影会になりますよ、
囲まれて、時間取られて、いいのですか」

「ならないよ」


サービスエリアには、病院以上に色々な人達がいる。

もちろん、平野さんを知らない人もいるだろうが、誰かが言い出せば、

あっという間に……


「あ……」


病院の時ほど大胆ではないが、薄々気づきましたという人達が、

数名、平野さんを指さしている。

ほら、これは、時間の問題だと思うけれど……

誰かが口火をきれば……


「すみません、平野さんですよね……バレーの……」


と、一人が勇気を持って聞いてきたことで、

『そうだよね』という人達が、数名、周りを囲み始める。

ソフトクリームの列に並ぶと、当然、止まっているだけに話しかけられてしまい……


「……彼女さんですか?」

「エ? あ……いえ……」


そうか、そんなふうに思われるとは……


「そうです」


平野さんの発言に、周りのファンたちより驚く私。


「あ……いえ、違います。『バーズの広報』です」


『広報担当石橋です』と、列の中でなぜか自己紹介をし、

そしてソフトクリームを持ち車に戻った。

まだ向こうから見ている数人の姿が、確認できるけれど……

なんだろう『彼女発言』に驚かれたのか、撮影会というようにはならなくて。


「平野さん、どうしてあんなふざけたことを……」

「お前、バカだなぁ……いちいち否定して」


責めようとしたら、責め返された。

溶けてしまうと困るので、ソフトクリームを食べながらの会話。


「彼女ですか、そうですよと言っておけば、『あぁ、違うな』となるんだよ。
堂々と言うやつなんていないだろう。
でも、もしかしたらと考えれば、なんとなくもやっとして、
写真を撮ってくださいと言いにくくなる」

「ん?」


そうなのかな……

でも、そういう結果になっているけれど。


「お前が逆に一生懸命否定するから、あの人なんだろう、
慌てていたからもしかして……と、妙な注目を浴びた。
まぁ、結果的には写真が回避出来ているけれど」


平野さんは、『うん、うまい』と言いながら、私より圧倒的に速いペースで、

ソフトクリームを食べてしまう。


「でも否定されると人というのはこっそり撮りたくなるからな、
今頃、色んなやつの携帯に乗ってるぞ、お前」

「エ……」

「オロオロして、怪しい広報担当さんって」


平野さんは笑いながら、エンジンをかけまた走り出す。

私はソフトクリームを食べながら、そんなことはないだろうと言い返した。

それでも少しは気になるので、本田さんと連絡を取った後、

何気なく携帯をチェックした。



順調だった高速道路も、海老名のサービスエリア少し前あたりで、渋滞が始まった。

それでも、全く動かないわけではないから、

たいしたことにはならないのかもしれないが。

流れている音楽、これ誰の曲だっけ。


「つまらなくないのか」

「エ……」


平野さんの声に反応したけれど、気持ちが音楽の方に向かっていたから、

質問の意味がよくわからない。


「何が……ですか」


わからないことはそのままにせず、聞いてみる。


「バレーボールだよ。練習して、それなりに出来るようになると、
コートに入って、試合に出たくなるだろう。あいつも……ほらバイクの青年。
靱帯怪我して、試合に出られなくなったからと」


『靱帯だぞ、2、3日寝ていたら治るものとは違う。試合も出られないし意味ない』


そういえば、確かにそう言っていた。


「これからは、チームの練習試合が増えるから、
今までよりもっと週末忙しくなるし……」


確かに、週末はこれからずっと練習試合が入り、さらにリーグ戦がスタートする。

言われてみると、『ラッコーズ』に入ってから、練習試合にも全く参加していない。


「つまらない……いえ、一度も思ったことはないです。
元々、そんな欲もなく入りましたから」


そう、平野さんの『雲に乗るトス』が見たくて、そのために課題をクリアしたくて、

バレーボールを知ることで、広報の仕事に何かをプラスしたくて、

飛び込んだ場所だった。


「欲?」

「はい。今まで生きてきて、運動に楽しさを感じたことがない私が、楽しいと思える、
それだけで……練習だけで十分です。その前の週には出来なかったことが出来たり、
みなさんと話しをしたり……『バーズ』もたくさん話題に出ますよ」


私にとっての『バレーボール』は、色々な人との縁をつなげてくれるものだ。

コートの中だけではなく、外にもたくさん学ぶことがある。


「『ラッコーズ』に入ったことで、少なくともバレーを知ることで、
チームのみんなとも、話しやすくなりました。
本当にバレーボールのおかげです。それで十分です」


そう、本当に……


「ふーん……」


平野さんのくれたきっかけ。

あの『雲に乗るトス』。

あの出来事がなかったら、私は今よりも広報として、

薄っぺらい仕事しか出来ていないだろう。


「平野さんに言われましたよね、『広報って何か』と」


広報の仕事を何もわからない時、突然振られた質問。


「今は私なりに、考えを持つことが出来ました。
そういう意味でも、『バレーボール』の経験は大きいです」


平野さんは自分で質問をしたくせに、そこから何も返事をくれなかった。

しばらく渋滞で車の動きが鈍かったが、

少し経つと、何か絡んでいた糸がうまく取れたかのように、車は順調に動き出した。


【14-5】



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