15 広報失格① 【15-4】



コンビニか……

何買おう。



『俺の担当から外して欲しい』



聞き間違いなど起こらないくらい、ハッキリとした声。

時間がないという言葉には、すぐにという願いが入っていた。



最初に会った日に、担当を断りますと言ったこと。

取材の日、聞かなくてもいいことを聞こうとして、怒らせたこと。

選ばれた平野さんに向かって、自分と『同等』などと言い、呆れさせたこと。

みんなが思い切ったプレーが出来ないのは、平野さんが萎縮させていると言ったこと。

常務に会いに来た平野さんを捕まえて、悪いと思っていないと言ったこと。

タレントとの交際報道が出たことに、余計なことを言い、さらに平手打ちしたこと。

合宿終了後に、私の一存で、山倉さんの病室まで行ってもらったこと。



そうか、そうだった。

冷静になって思い返したら、どれが一番失礼なのかわからないくらい、失礼ばかりだ。

それも、いつも原因を作り出すのは私で。


「はぁ……」


私は、何を勘違いしていたのだろう。

一緒にソフトクリームを買うために並んだくらいで、

レシーブのフォームを教えてくれたくらいで、

『雲に乗るトス』に、おまけをつけてくれようとしたくらいで、

これまでの失礼さが、全て水に流れたと思っていた私が……



バカだった。



風邪をひいた3日間。

合宿が終わり、練習試合に突入していく大事な時期。

こんな時に体調なんて崩すやつが担当では、この先困ると思われたのかもしれない。

最後の1年だから、取材も増えるかもしれないと、今、言っていたし。



そう、そうに違いない。



コンビニに行くはずだった足は、知らないうちに店の前を通り過ぎ、

結局、駅まで戻ってきてしまう。私はしばらく線路を見ながら、

どうしたらいいのかと考えた。





「おはようございます」

「おぉ……大丈夫か、体調」

「はい。すみませんでした。忙しい時期に。練習試合の担当もあったのに……」

「気にするな。次の小松と変われば済むことだ」


結局、1時間後、事務所に戻る。

平野さんの姿は、無くなっていた。

松尾さんは、いつもと同じように仕事をしている。

あの後、どんな話になったのだろう。



『松尾さん、平野さんはどうして私を外せと……』



そんなふうに聞いて、これが理由だ、あれも理由だと言われたら、

もっと落ち込みそうな気がするな。

いつもだったら、色々と楽しい話をしてくれる松尾さんも、

平野さんが来ていたことすら、私に話してくれることはないまま、

午後3時過ぎに、本社へ行ってしまった。





「石橋さん、風邪引いたんだって、もう大丈夫か?」

「はい。すみません、思ったよりも熱が出てしまって。みなさんが大変な時に」

「いやいや……。季節的に体調を崩しやすいんだろう。気をつけなね」

「はい」


練習に参加し、広報用の写真を撮るのは久しぶり。

若松監督やコーチに会うのは、合宿の日以来になる。


「もっと高くていいぞ、市川」

「はい……」


練習に参加している平野さんには、何も言われることはない。

まぁ、ここでいきなり辞めて欲しいとは言わないよね、普通。

打ち込まれて、コートの外に行くボール。

私の方に来たので、拾いに向かう。


「あ……」


ウソ……どうして拾おうとしたボール、蹴るのよ私。

もう、またみんなに笑われるのに……

近寄っていた人影が見えたので、なんとかボールを持って振り返る。


「すみません、ボール蹴って……」

「うん……」


ボールを取りに来てくれたのは、平野さんだった。

私はボールを渡し、平野さんはすぐにコートへ戻る。



『お前、何してんだ、ここで蹴るか、ボールを普通』

『運動神経、本当にないな……』

『まだ、体が目覚めてないんだろう、そこら辺、走って来いよ』



いつもならついてくるような余計な一言は、何も無かった。


「次、連続行くぞ」

「おい、スタメン入れ」


密かに認めてもらえていると、思っていた。

至らなくて、失敗ばかりだけれど、それでもこのまま最後まで頑張れると、

思っていたのに。



『担当を外して欲しい』



なぜなのか、どうしてなのかなんて議論は出来ないし、

正しいのか、間違っているのかではないこともわかっているけれど、

それでも、やはり悔しさだけはあって……



こぼれたボールを拾うことは誰でも出来る。

でも……


「ナイスコース!」


市川君に自信をつけさせ、『バーズ』を奮い立たせられる実力を持つ人は……

あの人しかいないのだから。

そんなことはわかりきっている。



『担当を外して欲しい』



どんな理由であれ、その希望は叶えられるべきだ。





「ただいま……」

「エ……あれ? 結花?」


練習担当でもない日、神奈川の実家に戻ってみる。

私が帰ると話していなかったので、母は驚きどうしたのと顔をのぞき込んできた。


【15-5】



コメント、拍手、ランクポチなど、みなさんの参加をお待ちしてます。 (。-_-)ノ☆・゚::゚ヨロシク♪

コメント

非公開コメント