16 広報失格② 【16-5】



『バレーボール』の魅力を話して、チームに影響を受けたことを話した。

あと、何を言えば……


「結花、俺に遠慮しながら答えを導き出す必要はないと思うよ。
バレーボールが理由だと言うのなら、諦めるのは難しいだろう」



和成の気持ちに、応えられない理由。



「好きな人がいる……違う?」


和成の言葉に対して、私は否定が出来なかった。


私の一方的な感情の揺れで、叶うはずもない思いを引きずっているだけなのに、

それをどう表せばいいのかわからず、中途半端な話になっていたのかしれない。


「私の気持ちは、和成ではない人のところに向かっている。
そう、ハッキリ言えばいい。傷つけないようにしようと遠回しに話す方が、
逆に諦めがつきにくくなる」

「和成……ごめん」

「広報担当か……この異動が予想外だったな」


和成は、『冷めるから食べよう』と言ってくれた。私も『そうだね』と頷き箸を持つ。



大阪に来た理由、『バレーボール』を理由にする意味。

何もかも、この人はお見通しで……



「優しすぎるよ、和成は」

「ん? 今度は文句か」

「そうじゃないけれど……」


和成の、言うとおりだと思った。

いい人だから、優しい人だからと、変な遠慮を前面に出してしまうから、

私たちはうまく行かなくなった。もっと、心の中をさらけ出して、

思ったことを言える間柄だったら……



『どうして……』

『そっちこそ……』



「美味しい……」

「だろ」


和成と食事を済ませ、『TAKIZEN』本社前に向かう。

東京のオフィスも大きいとは思ったが、さすがに歴史を持つ本社。

建物の古さが、逆に貫禄を持っている。


「大きいね、『TAKIZEN』って。私、本社は初めて見た」

「あぁ……建物は文化財になるくらいだからね」


和成がやりたい仕事が、ここなら出来る。

その形を、あらためて見て、感じることが出来た。


「頑張ってね」

「そっちこそ、ここまで来てくれて申し訳なかった」


私は軽く首を振る。

私も『もう一度会いたかった』という気持ちが、確かにあったのだから。


「俺は、自分のやりたい仕事を追求しようとこっちに帰ってきた。
そのために、結花を失ったのだから、こうなったらどんどん出世するよ」


和成はそういうと、最後まで笑顔を見せてくれる。


「結花も、頑張れよ」

「……うん」


私はあらためて和成に頭を下げて、本社の前から駅に向かって歩き始める。

振り返ることはしないまま、まっすぐに前を見た。





「はい、お土産」

「ありがとう」


金曜日の夜、仕事を終えた朋花が、遊びに来てくれた。

出されたのはみち君と旅行した『長崎みやげ』。


「どうだった。長崎」

「ん? 1日目は少し雨が降ったから、傘を差しながら回った。
でもね、長崎って雨が合うのよ、逆にいい雰囲気だった。
お姉ちゃんは行ったことない?」

「ないな。九州は福岡と沖縄だけしか」

「ふーん……」

「雨か……確かにわかる気がする」


確かに、長崎という街は、そういう雰囲気を持っている。


「みちがね、ほら、元彼女の妹から連絡があったって話をしたでしょ」

「うん」


そうだった、大学の後輩で就職の話をするとか言って、

その人が元彼女の妹だから、朋花が焼き餅を焼いたっけ。


「またお姉さんの話になったらしいの。でも、俺にはもう過去のことだよって、
きちんと言ったって」

「過去……」

「そう。今、自分はとても幸せだから、お姉さんにも幸せになって欲しいと伝えてって」

「ふーん……」


朋花はみち君の話に、満足そうな笑みを浮かべた。

『選んでもらえた』という優越感というのか、とにかく嬉しそう。

ケンカをしながらも、心にある言葉を互いにぶつけあって、

そこからまた、わかり合っている。


「朋花は、最初からみち君とあんな感じだった?」

「エ?」


二人が付き合いだしたのは、大学生の頃。

紹介された時から、朋花はいつもみち君に言いたいことを言っていた気がする。


「あんな感じって?」


朋花は『どういう意味?』と私に問いかける。


「朋花とみち君の関係。いつも朋花がどんどん意見をぶつけているような……
まぁ、みち君も負けずに返すけれど。お互い言いたいこと言い合っているでしょう」


私の一般的な考えかもしれないが、男性の方がイニシアチブを取るほうが、

普通の関係というように思えて……


「バイトで知り合ったからかな、年齢も一緒だし。なんだろう。
うん、最初からこうだった。私の方が半年先輩で、
みちが後から入ってきたから教えてあげたでしょう。その頃からずっと、こんな感じ」


朋花は、インスタントのコーヒー自分でを入れ始める。


「何しているの? しっかりやらないとって。
この人なら、私の言いたいことを理解してくれるって、そう思えたのかも。
仕事の指摘とかすると、険悪になってしまうタイプもいるでしょう、
そういう人には、防衛本能というのか、最初から壁を作って話すじゃない。
でも、出会った瞬間からあったのだと思う、そういう勘」


朋花は、話をしながら、棚の上や引き出しなどを開けだした。


「何をしているの、砂糖なら……」

「いや、さすがに捨てた? ほら、あの手紙」

「……手紙?」

「『今でも君を……』ってやつよ、ねぇ、あれ結局平野だったの?」


朋花はコーヒーを入れたカップを持ち、戻ってくる。


「あぁ……あれは違った」

「違った」

「隣に住んでいる三ツ矢さんが、平野さんの写真を見て、
よく来ていた男性とは違いますって……」

「そうか……そうだよね、そりゃそうだよ」


朋花は、平野がそんなことはしないよねと言いながら、カップに口をつけた。


【17-1】



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