17 広報失格③ 【17-2】



「そうだ、『バーズ』調子いいみたいだね。結花が広報になったからさ、
一応気にしてホームページ見ているわけ、協会の。そうしたら練習試合、
結構いい結果出ているし、そうそう、平野のインタビューあったよね、あれも見たよ」


協会のホームページ、数名の選手がリーグ戦を前に、意気込みを語る企画。


「あれって何、どこかに集まって撮ったのでしょう、写真」


ちゆきの質問。

各チームから注目選手が集められ、並んで撮られた写真。

私も見た。


「あ、うん。どこかのスタジオだって聞いたけど」


小松さんが道路が渋滞して遅刻しそうだったと、確か言っていたはず。


「どこかって……結花、広報でしょう、平野の……」

「ううん、今は違うの」


私はちゆきに『担当は失格になった』と正直に話した。


「失格? 何それ」

「いや、うん、そもそも平野さんの希望が男性だったからね、
それがうまく伝わっていなくて、私がとりあえずやっていたと……」



違う……そうではない。



「いや、違うな。私が平野さんにストレスばかり与えたから、ダメだしされた」


そう、この方がおそらく正確だ。


「ダメ出し……」

「そう、あれだけの人に、言いたいこと言っていたらそりゃ当然だよね」


私はそう言うと『ほら、頼もう』と話題を別の方向へ向ける。


「言いたいことって何言ったの?」


言葉の選択を間違えた。

ちゆきの妙な好奇心に、火がついてしまう。

私は『色々あるから、もういいよ……』と濁すことにする。


「色々って何よ、そんなにあれこれ言ったの?
エ……そんなにこう、個人的にやりとりするような、間柄ってこと?」

「いや……だから……」


言わなければよかったと思っても、出した言葉は元に戻らない。


「珍しくない? 結花が相手に言いたいように言うなんて。
どっちかというとさ、周りを見て、合わせようとする結花がだよ。
何、どういうことよ……言いなさいよ」

「ちゆ……」

「どういうこと?」


ちゆきの表情は、さらに楽しそうなものに変わる。

私はメニューを見ると、しばらく上を向かずにいた。

それでもそこで時間は止まらないため、頭の中を整理し、

食べるものを選びながら、結局、平野さんの広報として動いていた数ヶ月間のことを、

ちゆきに少し語ることになってしまう。

平野さんの個人的な交際情報などは、さすがに話せないけれど。

その後、食事が運ばれてきたので、話は食べながらになる。


「そうか、萎縮させた……か」

「うん……」

「まぁ、平野も最後の1年だと決めているわけだしね。そりゃ、言いたいこと言って、
ストレスになる女より、従ってくれる男の方がいいと思うわ」


ちゆきは『結花にもいい刺激になったよ』と笑ってくれる。


「それでもさ、自分が出せたのならいじゃない。結花は合わせるのはうまいけれど、
自己主張が少なかったから。これからは、自分の言いたいことを言えるようになるよ、
結花も」


ちゆきは、パスタをフォークでクルクル回す。

私は『そうかもしれないね』と小さく頷いた。


「で、平野は現役終了後、どうするの? 『バーズ』の監督?」


ちゆきは、『それともブルーサンダーに戻るのか』と聞いてきた。


「さぁ……それは何も聞いていない。でも、うちの監督はないと思うよ。
今年、若松さんになったばかりだし」


若松さんの就任は、松尾さんの話だと、企業に本気度を求めた結果だと聞いている。

その人を、1年で終わりにはしないだろう。


「本人の中には、明確な目標があるようだけれど、話を聞いたことはないしね」


言う義務があるのかと冷たく言われてから、語ったことはない。

山倉君のお見舞いをした日、『決めていることがある』と話していたけれど。


「なら、キャスターとかになるのかな。野球選手とかサッカー選手とかも
結構いるでしょう。平野、ルックスもいいし……」


ちゆきは『いや、でも、あんまり愛想ないからな』と笑う。


「そうでもないよ、結構笑うけど……」


そう、平野さんは、笑うことも多かった。

プレーのことが出てくると、クールモードになるけれど、

緊張感から解かれた時には、チームのみんなとも、笑い合っていて、

そんな笑顔を、何度も見た。

サービスエリアでアイスクリームを食べたときにも……


「現場でも、マスコミ関係でもないとなると、
あの話もまんざらではないのかななんて、考えちゃうけど」

「あの話?」

「そう、あのね、この9月まで、うちの外科部長をしていた先生が、
前に言っていたことがあるの。バレーの平野の家は、結構な資産家だって……」



資産家……



「その先生、腕はいいのだけれど、口がね……」


ちゆきは、自分の口の前に手を出して、『よく話す人』というようなジェスチャーをした。

病気のことだけでなく、家庭のこと、そういう話もプライベートではないのかと、

事務局で笑ったことがあると話す。


「あ、そういう私も話してるか」


ちゆきは、軽く舌を出すと、フォークでサラダを食べ始める。


「あ、このドレッシング美味しい」

「そう?」

「うん。少しピリッとくるけれど、それがいい」

「あ……本当だ」


そういえば、『バーズ』でも、結婚していて家族のことを話す選手もいれば、

親のことを話す選手もいる。

でも、平野さんから家族のことなど、一度も話題に出たことがない。



『資産家』か……

そういう環境も、これからの目標に関わってくるのだろうか。



「あ、こっちもおいしい」


ちゆきは、テーブルの横に置いてある、紙ナプキンケースを見ながら、

『デザート』は何にするのかと聞いてきた。

私が迷っていると、そのケースに写真が入った大きなパフェを指さし、

『思い切っていこうよ』と、ウインクした。


【17-3】



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