17 広報失格③ 【17-4】



違う、この人の勢いに押されたらダメ。

そう、これでおしまい、それでいい。車なんて見送ってしまえばいい。



私に出来ることは、平野さんが最後のシーズンを文句なく終えるために、

黙っていることだから。



でも……



何が報告がないよ、そんなこと言えるわけないでしょう。

担当を変えて欲しいと、いきなり本人を通過して人のことをダメだししておいて。

それなのに、どんな顔をして『出来ました』と言えばいいのよ。

人の複雑な感情など、どうしようもないくらい空しい気持ちも、

少しも理解しようとしていない。



本当は……



エンジン音が聞こえ始める。

いい、ここは我慢。

もう、勝手に好きなところに行ってもらおう。



私は……



私の足はそこから方向を変えた。

頭は辞めろと命令しているのに、体が勝手に動いていた。

言われっぱなしは苦しい、どうせ嫌われている、嫌がられている。

だったら、こっちだって言わせてもらおう。

このまま逃がすものかと、運転席の窓を思い切り叩いていた。

こんなことをしてどうするのという思いも、どこかにあるはずなのに、

理性は完全に吹っ飛んでしまう。


「私、広報としてはダメだったかもしれませんが、これでも、一生懸命にやりました!」


窓を叩きながら、叫んでいた。

明日のことなど、考えられないくらい……


「直さないといけないところがあるのなら、言ってくれたらいいでしょう。
いきなりダメ出しって、何様なのよ!」


数回窓を叩くと、ガラスにたくさんの手垢がつく。


「嫌がられている、嫌われている、それが痛いくらいわかるのに、
それなのに10回出来ましたって、あなたにのんきに言えるほど……」


頭から勝手に言葉が出て行ってしまう。

『バレーボール界の宝』だかなんだか知らないけれど、

こんな人、こんなに人の気持ちを理解出来ない人なんて……


「私は……」


私は……


「バカ!」


違う、『バカ』なのは平野さんじゃない。

こんなとんでもない人を、好きになる私が『バカ』。

扉が開いて、平野さんが外に出てくる。

叩くのなら叩けばいい。文句があるのなら言えばいい。

そういう気持ちで前に立った。


「バカ……って言ったよな」

「はい。そう思ったので言いました」

「お前に、バカと言われる筋合いはない」

「わかっています。私がどうしようもなくて、役に立たないし、
こうしてストレスばかり与えるから、だから担当を外して欲しいとお願いしたこと……」


そう、わかっている。

でも……


「でも、せめて……直して欲しいところがあるとか、これは違っているとか、
言えばいいでしょう。実力不足でも、一生懸命に取り組んだつもりです。私は……」


これで全ておしまい。

いくら謝ろうが、何しようが修繕の可能性はゼロ。



でも……目の前にいる平野さんが、車に乗ってこのままどこかに行ってしまう。

なぜなのかわからないけれど、そんな気がしたから……



「私は……最後まで担当をやり遂げたかったです」


ずっと思っていたことを口に出していた。



担当を変えて欲しいと言う平野さんの本音を聞いてから、

ずっともやもやしていた気持ちが、今の怒りで吹き飛んだのはいいけれど、

もうきっと……


「失礼します」


明日のことなど考えても仕方がない。どうだっていい。

今、ここで黙っていることが出来なかった。

一方的に『広報失格』を出されて、どうしようもなかったから。


「おい」


平野さんの声と、手が伸びてきて。叩かれるかと思って目を閉じたのに。

私は体ごと平野さんの腕の中にいて……



「言いたいことばかり、好き勝手に言いやがって……」



どういうこと……



「お前に……何がわかる」



平野さん……



「ここからは連れて行けない……だから……」



連れて行けない……どこに行くのだろう。平野さんは、どこかに……



どこかに行ってしまうの?



顔を上げて、『どういうことなのか』聞こうとしたはずなのに、

言葉としてきちんと伝えるはずだったのに、

私は背伸びをして、両手をあげ、平野さんの首に手を懸命に回して……



自分が届く距離に……



あなたを……





『今日は総理官邸に、この秋、収穫を終えた農家の方々が招待されました』


部屋の灯りはつけず、テレビだけをつけた部屋で、

私はブランケットを体に巻き付けた。


【17-5】



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