20 隠された秘密② 【20-4】



リーグ戦の終盤。

平野さんはまだ戻らず欠けていたが、『バーズ』の勢いはそのままで、

フルセットまでもつれた試合もあったが、最終的には勝利を収め勝ち星を伸ばす。

いよいよ2位以上で『チャレンジマッチ』、つまり入れ替え戦という夢のような話が、

現実味を帯びてきた。


「さて、みなさんお揃いかな」


今朝は広報4人が、事務所に揃った。

松尾さんは『話が2つある』と指を2本前に出す。


「いい話と、いいか悪いかわからない話があるが、どっちから聞きたい?」


本田さんは首を傾げ、

小松さんは『どっちかわからない話しってなんですか』と声に出す。


「あ、それならそっちから話すか」

「ちょっと待ってください。みんなはどうなのかな」


小松さんの目が、私と本田さんを見る。


「どっちからだっていいですよ、結局聞くわけでしょう」


本田さんの意見に、私も同感なので頷く。


「はい、そうです。それならそちらから。来週から広報が1人増えます」

「エ……うちにですか?」

「そうだ。他のチームの話をここでしてどうなる」


松尾さんは、2本出していた指を1にする。


「平野の担当を本社が引き受けることになったから、
シーズンが終了するまで今の人数でと俺は話したのに、サッカー部がな」


松尾さんは『これは一種の押しつけだ』と不満そうな顔をする。


「押しつけ?」

「竹内が、来るそうだ」

「は?」

「エ……ウソ!」


本田さんと小松さんは顔を見合わせて、すぐに納得出来ないという表情になる。

『竹内』って誰だろう。二人はすぐにわかったみたいだけれど、また、知識不足な私。


「あの……竹内って」

「あ、えっと、うちの元キーパーです。
いや、去年あたりからどうするのかって、揉めていたことは聞いていましたけれど」

「竹内には、『ジュニア』の方を任せるのではって……」


元サッカー部広報の小松さんと本田さん。

ここは知っていることや、聞きかじったことなど、話に出て。


「そう思っていたのは本人だけのようだ。今回、広報にならないのなら、
一般社員として働いて欲しいと、上層部が詰め寄ったと聞いたからね」


『竹内淳岐』

本田さんと小松さんのぼやきを聞きながら、私は携帯を取り出し

『バーズ 竹内』と検索した。

竹内さんは『バーズ』の正キーパーとして、一時期は全日本にも選ばれていたが、

この数年は控えに回っていて、年齢は平野さんと同じ32歳。


32歳か……。


本人はまだやれると思っていたようだが、3年前に怪我をしてしまい、

レギュラーから離れたことが影響した。

大学から入る若いキーパーに経験を積ませたいと言われ、戦力外通告を受けたという。


「本人にはこの先を考える『身の降り時間』と伝えてあるらしい」

「どういう意味ですか」

「格下の2部チームからはオファーもまだあるらしくて。本人がどうするのか、
このまま社員として残るのか、考えるための時間」


同じ『バーズ』でも、サッカー部は全日本が出るような1部。

つまり、バレー部『バーズ』のような2部リーグなら、

まだ選手として出来るということだろうか。


「いやいやいや、やるのかやらないのかわからないような、
そんな中途半端状態の人、寄こされても」

「俺もそう言ったよ。でも、サッカー部に残すのでは本人が嫌だろうし、
野球部は忙しすぎる……と」

「それってバレー部は暇だと言うことですか」


同じことを思ったが、本田さんの方が私より数倍反応が早い。


「というより……」


松尾さんは『俺がここにいるからさ』と渋い顔をする。


「俺も同じように、選手を上がって広報だろ。そういう経験や話が、
竹内にいい影響を……って、まぁ、いい口実に使われたわけだ」


松尾さんは『全くなぁ……』と明るい声を出すと、私たちの顔を見る。

本田さんも小松さんも当然私も、松尾さんの台詞にどう反応をしていいのか迷ってしまい、

リアクションが薄くなった。


「……悪い話だったみたいだな、みんなの表情からすると」

「いや、だって……」


本田さんは、『前向きではない人が来るのは、嫌な予感しかしない』とうなだれる。

私はわからないことだらけで、プラスマイナス反応、どちらも出来ずにいて。


「よし、本田さん。ここからはいい話をしよう。
昨日、若松監督に奥寺さんから電話があったそうだ」

「奥寺さん?」

「全日本の監督、奥寺だよ、奥寺」


松尾さんは市川君について、話をしたと言う。


「エ……本当ですか?」

「あぁ、今朝、若松監督からメールが来た。
リーグ戦が終了した後、今年の全日本が選ばれるのだけれど、
その正式メンバーを決めるための選手招集が、色々とかかることになって、
うちからは市川に声がかかった」


市川君が全日本に選ばれるかもしれない。


「それがな、一つだけ問題がある」

「またですか」


本田さんは『いい話だと言いましたよね』と、渋めの表情で松尾さんを見た。


「いや、本田さん、そんな顔はしない。いいか、話としては十分にいい話だ。
ただ、1部リーグを中心に決めている日程だから、
もし、うちが2位に入れて『チャレンジマッチ』となった時、招集期間と日が重なる」


全日本は、やはり1部リーグの選手がほとんどのため、

予定もそのスケジュールで組まれてしまう。

全日本は合宿を組み、場所は『神戸』とすでに発表されている。


「だとしたら、市川は出られなくなりますか」


小松さんの質問。


「あぁ、おそらく出られない」


市川君が『チャレンジマッチ』に出られないとなると、

やはり戦力ダウンにはなるだろう。しかし、市川君にしてみたら、

このチャンスを逃せば、『次』があるのかどうかはわからない。



平野さんなら……

市川君にどう言うだろう。



その日の仕事終了後、松尾さんが事務所に市川君を呼びだした。


【20-5】



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