21 ニューフェイス 【21-1】

21 ニューフェイス



「竹内です」


松尾さんが話をしていた通り、週が変わった月曜日、

ついこの間まで、サッカー部のユニフォームを着ていた竹内選手が、

この千葉へやってきた。名前だけを明らかにしてすぐに終わってしまうという、

最短の自己紹介。


「まぁ、お前の事情もあるけれど、仕事は仕事だから。周りに聞きながらでも、
少しずつ慣れていけ」


松尾さんの言葉に、『はい』と息が抜けていくような、やる気無しの声が戻る。

私の隣で本田さんは、まだ不満そうな顔を見せていて、

もう一人の小松さんも、同じような顔をするのかと思っていたが……


「本社に?」

「あぁ……慣れている広報も一人つけてくれと、急に連絡があって。
小松に行ってもらった。見城さんが小松をご指名だったからさ」


見城さん……、また新しい名前だ。誰だろう。


「小松さん、神戸時代もよく引っ張られてましたからね」


本田さんのつぶやき。

竹内さんの席は私の正面になり、その日は松尾さんが昼食に連れ出したため、

私は本田さんに疑問をぶつけてみた。


「見城さんですか」

「うん、初めて聞く名前だなと……」

「見城さんは、運動部広報の一応トップです。マネジメントの経験が豊富だとかで、
企業の立場から広報を見る人らしいですよ。でも、影ではミーハー見城と呼ばれて、
現場からの評判はあまりよくありません」

「ミーハー……」

「はい。その時に注目を浴びるような選手に近づいて、
まぁ、夜のお店ではご自慢らしいです。お姉さんがたに、『あぁ、あいつね』なんて、
選手と親しいことをアピールするらしくて。
だからほぼ、野球部かサッカー部の仕事をしています。取材を受けるような選手は、
だいたいこのどちらかだったでしょう。まさか、バレー部で活躍の場があるとは、
思っていなかったはずですよ」


元々、大手芸能事務所にいたようで、人脈は広い人らしく、

現役生活が終わった後の仕事を考える選手にすると、

親しくしておいた方がいいという意味もあるらしい。


「前に来た山波さんもそうですけれど、引退後、どう生きていくのか考える時に、
知らない場所を知っている人がいるというのは、まぁ、心強さもあるようで」


『芸能事務所』を知っている人か。

確かに、華やかな成績を納めてきた選手達にすると、参考になる人なのかも。


「見城さんに呼ばれたとなると、小松さんはこれから戦力外だな」


本田さんは連絡一覧表を広げながら、ため息をつく。


「ごめんね本田さん。外とのやりとりはほとんどお任せしていて。
私もこれからはもっと頑張るから」

「あ、違いますよ石橋さん。逆に私たちより細かい仕事が多くて、
大変だったと思いますから。気にしないでください」


本田さんは『竹内さんにやってもらいましょう』と言うと、

隣になる机を、トントンと手で叩いた。





「これが、毎年練習試合などでバスを出してもらっている『宮本観光』さんです。
一応、仮の約束はしてありますが……」

「仮?」

「はい。具体的な日程が出ていないので、あくまでも予想になります。
なので、協会の日程が出たら、まず最初に連絡」

「ふーん……」


松尾さんと竹内さんが昼食から戻り、

本田さんは、小松さんがしていた仕事を引き継いでもらおうと、

竹内さんに説明をし始める。


「で……」

「あのさ、こういうのは本田がやってよ。あれがどうのでこうなるとか……
よくわからないし、覚えるの面倒だし、俺はいいや」


竹内さんの予想外な返事に、本田さんの口がポカンと開いた。


「竹内さん、いや、いいやって……」

「だから、面倒だし、残ることも決まっていないし……」


そう、そこ。それを言われてしまうと……


「おい、竹内。今話をしただろう。お前がどういう身の振り方をするのか、
決めていい時間だと言われているだろうが、ここにいる以上、
『バレー部』のプラスになる仕事をしてもらわないと、迷惑なだけだ」


松尾さんはそういうと、本田さんが置いた書類をさらに竹内さんに近づける。

『面倒だからやりたくない』なんて、通用するはずがない。

よかった、松尾さんがそれをわかってくれていて。


「迷惑か……はい、はい」


竹内さんは渋々書類に目を向け、やる気のなさそうな態度で紙を1枚めくる。

その指が、どこか汚れているものでも触るのかという動きをするので、

正直、奪い取って、自分でやってしまいたいくらいイライラした。





『バーズ』の試合は、残り2試合となった。

このどちらかに勝てば2位が決定し、1部リーグ9位との入れ替え戦が行われる。

そして、『STEM』との話し合いをしていた平野さんが、チームに戻ってきた。

見城さんに仕事を頼まれた小松さんが、事務所に顔を出してくれる。


「いやぁ……今までとは段違いの取材陣と、ファンでした」

「そう……」


平野さんの決断は、今シーズンが終了するまで、『バーズ』のメンバーとして、

名前を残し、活動するというものになった。

『最後のシーズン』、『最後のプレー』をしっかり目に焼き付けようと、

今まで以上のファンや、次の世界へつながる時間を過ごす平野さんの姿を収めようと、

スポーツ雑誌以外のカメラマンも、総合体育館に姿を見せたという。


「どうでした? 見城さん」

「ん? 仕切ってたよ、あの人らしく」


小松さんはそういうと、

新しく広報に加わった竹内さんに『よろしくお願いします』と挨拶をした。

竹内さんは無言のまま少しだけ頭を下げる。


「そうか。なんだか遠い人になりましたね、平野さん。
選手達と言い合ったり……あ、そうだ、石橋さんが平野さんを怒らせたこととか、
なんだか懐かしいです」


本田さんのつぶやき。

そう、みんなを萎縮させていると、たいしたことも出来ないくせに、

言いたいことだけは言い切っていた日々。


「さざなみ杯もさ、平野さんが出て予想外の客だったし」

「そうだ」


小松さんは、協会に流すFAXをセットする。


「合宿でも、みんな楽しそうでしたよね」


合宿かぁ……。平野さんと『みかんのソフトクリーム』を食べたな。

からかったり、笑われたり、怒ったり、そんな時間が確かにあった。



もう、2度と戻ってこないけれど。



「そうか、バレー部に平野がいましたね」


広報3人の回想シーンに、竹内さんは急に飛び込んで来た。


【21-2】



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