21 ニューフェイス 【21-5】



今、私、竹内さんに何を言われたのだろう。


「広報に入って、石橋さんを見て、『あ……』って思い出しました。
あの時は、平野がまたファンでも連れ込んで、
駐車場で楽しいことしているのかなと思ってましたが、いやいや、広報さんとは……」


竹内さんの話が、頭の中にとどまらない。

入っても抜けてしまうような、そんな感覚。

選手達は真剣に練習をしていて、私たちの声など届いていないだろうが、

私は竹内さんの腕をつかみ、とりあえず外に出た。


「なんですか、今度は」


なんですかと聞かれたら、どう言うべきだろうか。


「そんな緊張した怖い顔しないでくださいよ。大丈夫ですよ、誰にも話していません。
もちろん松尾さんにもです。まぁ、サッカー部でも女性問題は色々互いにあって、
目をつむることも多かったので。俺はその辺……」


竹内さんは、自分の口にチャックをするという仕草を見せた。

まさか、どうしてという思いが出てしまい、言葉として送り出せない。


「黙っていようかなと思っていたけれど、本人だからいいかなと」


あの日、竹内さんがあの場所にいたなんて……


「俺の扱いがどうなるのか、去年の秋くらいから色々とあって、
半田さんがバレーのコーチをしているので、会いに来たんです。
半田さんはうちの兄と同じ大学で、家にも遊びに来るくらい仲がよかったので」

「竹内さん、あの……」

「だから誰にも言いませんって。この間の小松や本田の話を聞いていても、
まぁ、このチームは平野に感謝感激しているようですから」


あの日のことが、今、こんなふうに巡ってくるなんて。

今更ながら、自分がしたことを後悔する。

確かに説明してくれと言われても、説明のしようがない。


「でも、石橋さん、平野には気をつけた方がいいですよ。
女と付き合っても、まともに将来なんて考えないヤツですから」


あの日のことは完全に私が悪い。

言われたことに興奮して、怒りが増していて、言い返そうと思っていた。

でも、『連れて行けない』という台詞に、何がなんだかわからなくなって……。

どうしよう、このままだと、平野さんに迷惑をかけるかもしれない。


「車の窓、バンバン叩いてましたよね。あれも石橋さんでしょう。ケンカでもした?」


いや、あの……


「将来の約束をもらうのなら、口だけはだめですよ。ほら、こういう俺みたいに、
人を信用して裏切られる見本がいるわけで……」


もういい、その話は……


「竹内さん」

「ん?」

「どうしようもない情報を先に入れるようになってしまって、すみませんでした。
説明をどうしたらいいのか、正直、自信がありませんけれど、
一つだけ言えることがあります。私と平野さんには何もありませんし、
平野さんが責められたりするような、そういう出来事もありませんから」


勘違いさせるようなシーンを見せておいて、『何もない』なんておかしいけれど、

でも本当に何もないのだから、そう言うしかない。


「何も? でも……」

「はい。すみません、忘れてください。これ以上は何も……」

「おい、広報」


私たちの会話の中、声をかけてきたのは見城さん。


「はい」

「お前達何をしているんだ。写真を撮るのか撮らないのか。練習を見に来て、
ここで話し込んでいるだけなら、さっさと帰れ」


見城さんは、文句を言いながら、私たちの前を通る。

体育館の扉が開き、練習から先に上がる平野さんが出てきた。


「平野! 車を待たせておくから」

「……はい」

「あ……お疲れ様です」


慌ててそう声をかける。平野さんは少しだけこっちを見た気がするけれど。

だんだんと小さくなる背中。


「おい、広報……か。さすがは見城さんだ。3年くらい前にはあの人、
飲みに行こうなんて誘ってくれたりしてたけどね。
落ちこぼれ引退になった俺には、態度も変わって目も合わせてくれないわ。
『バレー界の宝』と言われ、大企業をバックに持つ男がそばにいたら、
まぁ、そうなるかな」


竹内さんはそういうと、また扉を押して中に入ろうとする。



平野さん。

少し疲れているように見えたけど、大丈夫かな。



「心配なの?」

「エ……」

「そんな切なそうな顔で見て」

「いえ、別に」

「何もないって言わなかった? 今」


竹内さん……

人のこと、結構見ているんだ。


「ないです!」


私はそう言い切ると、もう一度写真を撮るために、体育館の中へ戻った。





突然、広報担当を外れろと言われて、頭にきていた。

雲に乗るトスのために頑張った、10回の壁当てが出来たことを報告しないと怒られて、

そんな感情になるわけがないと反論した時。

もう二度と、戻ってこない日々を思い、私は……



「はぁ……」



部屋に戻り、夕飯を作ることもなく、頭から被る『ブランケット』。

あの日、体育館に向かったと聞いた『MAZINO』の池田さんが、

時間がずれていて、見られていないとわかり『全て終了』くらいに思っていた。

まさか、竹内さんが来ていたなんて。



「もう、どうしよう」


ブランケットを被ったことで出来た閉ざされた空間にため息を何度も落とす。

しばらく休んでもいいのなら、無給料でもいいから休んでいたい。



ダメだ、

平野さんの最後の試合が、見られなくなる。



私はブランケットに包まれたまま、部屋の中でゴロゴロとどうしようもない時間を送る。

解決出来るヒントも出ないまま、時間だけが過ぎていった。


【22-1】



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