2 フリーワークの男達【2】

2 フリーワークの男達【2】


大和が『サイクル』へ向かった後、時計を確認した邦宏は

同じ『フリーワーク』のメンバーになっている、幼なじみの靖史のところへ出かけた。


「いらっしゃい……なんだよ、邦宏か」

「うわぁ、ずいぶんな挨拶だな、おじさん」

「お前なんか、これくらいで十分だ。全く、靖史を悪の道へ誘いやがって」

「悪? 冗談でしょう。来たのはアイツですからね」


邦宏はカウンターの隅に置かれている急須に自らお茶を入れ、湯飲みに入れ始める。

ランチタイムを過ぎた店内は、客も2人しかいない。混雑時を避けて来ることは、

幼なじみで付き合いの長い邦宏からすれば、当然のことだった。


「邦、何食べる? カツサンド作ろうか?」

「お! おばちゃん、さすがだね。俺の好みがピッタリわかるなんて」

「何言ってるのよ、何年つきあっていると思ってるの」


靖史の母、和子は勢いよく邦宏の背中を叩き、豪快に笑い出す。

邦宏の母は看護師として働いていたため、学校から戻ると、

この家で過ごしている時間の方が多かった。靖史の母、和子は、

邦宏にとって第2の母と言ってもいいくらいの存在だ


「おい、ダメだぞ、邦宏に食わせたら。うちの店が赤字になる」

「何言ってるんだって。この間も打ち合わせに使ったでしょ、ここを」

「バカ言え! 飢えた大学生をゴチャゴチャ連れてきやがって。
飲んで騒いで、大騒ぎじゃないか」


靖史の父、清太郎はそう言うとカウンターから顔を出し、

菜箸で邦宏を威嚇するようにしながらそう言った。

確かに先日、『半期会』と銘打った飲み会では、大学の後輩達が大騒ぎだったのだ。


「……あ、邦宏! どうしたんだよ、仕事の帰り?」


出前の皿を下げに行き、戻った靖史が、その時ちょうどのれんをくぐり、

邦宏の顔を見て笑顔になる。同級生でありながら、靖史は邦宏の存在を、

どこか兄のように感じていた。


「おぉ、靖史。お前の予定表持ってきたんだ。来月のも急いで出してくれないか?
ギリギリになると、また大和が怒るから」

「あ……そうか、うん。すぐに出すよ。基本的には変わらないんだけどね」


『とんかつ吉田』の跡取り息子でありながら、靖史は『フリーワーク』に登録し、

仕事の合間に協力していた。親とばかり過ごしていると、

出会いも何もないからと賛成してくれたのは母親の和子だが、

いまだに素敵な女性と出会ったことはない。


「大和はどうした? 仕事忙しいのか。ここのところ店に来ないけど」

「あいつは仕事先で、美しいシェフに捕まりましたから。
今夜は色々とオイシイ思いをするはずですけどね」


その意味がわかった清太郎は豪快に笑い出したが、和子はおしぼりで邦宏の頭を叩く。


「何だよおばちゃん」

「もう、うちの靖史にもお嫁さん見つけてよ、邦」

「……おばちゃん、うちは花嫁斡旋業じゃないんだけど。
あのね、ガツガツしちゃダメなの。そういう時こそ余裕を見せないと」

「余裕?」

「そうそう、大和には余裕があるんだよ」


邦宏は、カウンターの裏に付け合わせ用に置いてあるプチトマトをつかみ、

そのまま口へ放り込む。下げてきた皿を流しに入れながら、靖史は笑った。


「確かにな、大和には余裕があるよ。女の方が勝手に惚れちゃうんだから。
前もさぁ、ほら、独身女性の家に網戸の張り替えに言ったら、
なぜかネグリジェを着て、依頼人が出てきたって笑ってただろ」

「そうそう、3回目だったんだよな、毎度、毎度、大和をご指名だから
おかしいなと思っていたら、そういう魂胆だったわけで」

「あらら……そりゃ困るじゃないの。どうしたわけ?」


客がいなくなったテーブルを丁寧に拭いていた和子は、

手を止め邦宏と靖史の話に割って入る。


「ありがとうございます! っていただいてきたのかって聞いたら、
そういう女に限ってしつこいから、無視し続けて、
最後に汚れた雑巾を両手に乗せてやったってさ」

「あはは……そりゃ大和らしいな」


夜の準備をしている清太郎も、話の中身についつい笑い出す。

そんな会話のうちに、最後の客がいなくなり、和子はのれんを入り口から外す。


「まぁ、確かにあの子はいい男だけど、ちょっと冷たい感じがするよね」

「おばちゃん、それが女心をくすぐるんだよ。愛想のいいやつはだいたい、
いい人よね……って、終わっちゃうの。でもね、あいつの余裕は顔じゃない」

「ん?」

「あいつ……がむしゃらに何かをやったりしないからな。だから冷たく見えるのかも。
人をなかなか信用しないし」


邦宏のその言葉に、靖史と和子の手が止まり、清太郎は大盛りのご飯を目の前に置いた。


「よし、邦宏! 飯だけ食ってけ!」


邦宏は割り箸を手に持ち、首を大きく振った。





ソファーに座りTVをつけていると、

具材がソースにからまる匂いが、大和の鼻に届く。


「城所社長って優しいな、ここのところ何軒か会社に行くことがあるけど、
態度とか見ていると、どんな社長なのかっていうのが、すぐにわかるよ」

「うーん……優しいには優しいけど、ちょっとセクハラみたいなところもあるわよ」

「セクハラ?」


貴恵はそう言うと少し笑いながら、オーブンの時間をセットする。

ピッピッという音が聞こえ、手からミトンを外す。


「セクハラってどんなことされるの?」


大和はソファーから立ち上がり、貴恵の後ろに立つと、準備が終了したことを確認し、

背中から手を回しそっと首筋に口づける。


「ん……」

「山根さんおはよう! って、こんなふうに挨拶されるわけ?」


大和は髪をアップさせた貴恵の後れ毛に鼻先を寄せたまま、甘い香りを吸い込んだ。


「されるはずないでしょ、そうじゃなくて……」


大和は貴恵のボタンをそっと外し、自分の左手を胸の膨らみへとそっと伸ばした。

貴恵がその手を振り払うと、大和は体を正面に向け顔を寄せたが、スッと逃げられる。


「ダメ……先に食事をしないと、大和帰りたくなっちゃうでしょ」

「ん……」

「帰っちゃうもの……、お願い、困らせないで」


少し寂しげにそう言った後、貴恵は唇を噛みしめた。そんな顔を見た大和は、

もう一度伸ばそうとした手を頬にあて、軽くおでこに口づける。

貴恵はため息をつくと、大和のシャツを両手でつかみ、胸の鼓動を聞く。


「いい匂いがしてきたよ、貴恵」


そんな大和の言葉に、顔をうずめている貴恵は無言のまま頷いた。





そして、次の日。いつもの朝を迎えるはずだった『フリーワーク』は、

とんでもない出来事で1日のスタートを切ることになった。

電子音とともに流れてきた1枚の紙を、邦宏は呆然とした顔で、大和に渡す。


「どういうことだよ」

「それはこっちが聞きたいよ」



『ごめん、金は借りた。必ず返す。しばらく探さないでくれ』



レンタル代金などを支払うための30万円を、メンバーの一人沖田康哉が持ち逃げした。

携帯に連絡を入れるが、すでに使われていないというインフォメーションが流れる。


「あいつのアパート、どこだっけ」

「4丁目だ。すぐに行ってくる」


邦宏は上着を手に取り、急いで玄関へ向かう。

するとインターフォンが鳴り、外から聞き慣れない声がした。


「康哉……朝早くごめんね、比菜だけど……」


邦宏と大和は、その女の声に、思わず顔を見合わせた。





3 勘違い女登場


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コメント

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ちょっと冷たい男(〃▽〃)

ももんたさん、おはようございます~^^

今回は早く来られました(笑)

ちょっと冷たい男 大和くんにどきどきしてます~♪
だめだ。。また、だれかを勝手に重ねてます(笑)

持ち逃げですか?!
早速自由なお仕事を羨ましく思ってる私に
現実をつきつけていただいたようで。。

それでも、がんばれ!
君たちの武器は若さです!
って、自分がとっても年をとったような気がします。
こういう裏切りって辛いよな~
これから辛い展開かな~
でも、待ってます~

No title

こんんにちは!!e-451

大和はクールで女あしらいがうまいのね
(女だけじゃないのかしら。。。)
貴恵さん、そんなとこさみしいのかな
大和の心がつかみきれなくて・・・。

靖史のとこは温かそうな家だけどやっぱなんかあるのかなぁ。

しかし、持ち逃げに、来訪者はその彼女?

30万は零細企業(?)には痛手だよね。

意外とヘビーな展開!?

     では、また・・・e-463

やっぱり惚れちゃう^m^

ももちゃん こんばんは^^

クールで余裕の感じられる大和くん…
友達からも「がむしゃらにやったりしない」…なんて
見られてるのねー
貴恵さんも、彼の心をつかみきれないのが切ないね…
でも、そんな大和くん、やっぱり素敵なのよね~~(〃▽〃)

人を信用しない彼も…、持ち逃げの友人を…どう扱うのかな~^^;
また、ももちゃんの筆さばきを楽しみに待ってます♪

仲間なのに・・

あらー大変v-12

気をつけるようにしていたのにね。何が有ったのかしらね。訪ねてきた女比菜、何か知ってる様ね。

クールな大和、心に寂しさを抱えているのかしら?
フフフ・・壷ですわ。

誰変換でもOK!

れいもんさん、こんばんは!

>ちょっと冷たい男 大和くんにどきどきしてます~♪
 だめだ。。また、だれかを勝手に重ねてます(笑)

まだ、ほんのさわりくらいしか明らかになってませんからね。
大和の心の中は、これから少しずつわかってきます。
誰を重ねてもOK! れいもんさんなりに楽しんでね。

>こういう裏切りって辛いよな~
 これから辛い展開かな~

うーん……そんなに重く考えなくて大丈夫だと……。
はい、待っていて下さい!

それぞれの家族

mamanさん、こんばんは!

>貴恵さん、そんなとこさみしいのかな
 大和の心がつかみきれなくて・・・。
 靖史のとこは温かそうな家だけどやっぱなんかあるのかなぁ。

大和には大和の、靖史には靖史の……
理由があるんですよ(って、当たり前ですけど)
これから、じっくりゆっくり知っていってくださいませ。

>意外とヘビーな展開!?

ん? いや、そんなヘビーじゃないと思うよ
あんまり構えないで(笑)

よろしくお願いします。

eikoちゃん、こんばんは!

>貴恵さんも、彼の心をつかみきれないのが切ないね…
 でも、そんな大和くん、やっぱり素敵なのよね~~(〃▽〃)

付き合いを初めて欲しいと願ったのは、貴恵の方ですからね。
その辺も、なんとなく落ち着けないところなのかも

大和の理由は、これからじっくりと知って下さい。

持ち逃げしてしまった康哉のことも、突然たずねてきた比菜のことも、
これから色々とわかりますよ。

うーん……、筆さばき……。
読み手のみなさん、よろしくお願いします!

この女は?

yonyonさん、こんばんは!

>気をつけるようにしていたのにね。何が有ったのかしらね。
 訪ねてきた女比菜、何か知ってる様ね。

さて、急に起きた『持ち逃げ事件』。
比菜は何かを知っているのかは、次回にわかります。

クールな大和の理由も、後々……

これから、これから

yokanさん、こんばんは!

>今回は、あっちにもこっちにも種をまいてる状態なのかな。
 伏線だらけじゃないの^^

まだ、始まったばかりですからね。
色々なことが起こりますが、読み進めて下さい。

あと、何回か進めていくうちに、なんとなく全体像が見えてくる……と思いますよ。

いよいよ…ですね!

登場人物が増えれば増えるほど、複雑に話が絡み合っていきますね。

みんな若さゆえなのか、いろいろ心に思っていることがありますね。
それがこれからどのように展開していくか。

あぁ~~、ますます目が話せない。

でも、若いっていいなぁ~~っと感じる。
そんなお話です。(…って、親の世代の感想です)

若さゆえ……

アルバトロスさん、こんばんは!

>登場人物が増えれば増えるほど、
 複雑に話が絡み合っていきますね。

はい、でもね、まだまだ序の口なんです。
登場人物はこれからもう少し、増えていきます。

>みんな若さゆえなのか、
 いろいろ心に思っていることがありますね。

はい、それぞれの悩みが、これから明らかになりますよ。

事件発生ね!

靖史の家族とのやりとりで、大和の姿が見えてきましたね。
そして邦宏はいいヤツだわ^^(と、まだ2話だけど、そう思った)
長い付き合いなんだ、みんな・・・

貴恵ちゃんと過ごす大和、積極的にみえてそうじゃない。
彼女はちゃんと知ってるんだね、なんか切ないなぁ。

邦宏の存在

なでしこちゃん、2話目でございます。

>靖史の家族とのやりとりで、大和の姿が見えてきましたね。
 そして邦宏はいいヤツだわ^^
 (と、まだ2話だけど、そう思った)

そうそう、この1、2話は、紹介だからね。
邦宏は、このメンバーの中心人物になるのよ。
靖史の親も、なかなかいい味を出す人達です。