31 再びの夏⑤ 【31-1】

31 再びの夏⑤



「とにかく、一番落ち込んでいた時期は終わったから、大丈夫だ。
俺は今まで通り、バレーボールに関わることは辞めないから」

「本当ですね」

「お前にわざわざウソをつく必要ないだろう」


私は『そうですね』という意味で、一度だけ頷いたが、

そこからとにかくおかしくて、顔がにやけてしまう。


「今度は何がおかしい」

「いえ……気持ちが今、スッキリしているなと」

「は?」


平野さんの『どういう意味だ』という表情。

そう、私の発言にいつもこんな顔をしているところ、納得していないという顔、

何度も何度も見た。


「私、『ふつふつ』で受け身だと、友達に言われていて、
最初は意味がわからなかったんです。でも、『バーズ』の広報になって、
チームのみんなと関わっているうちに、受け身だけではだめだと、そう思うようになって」


バレーを知るようになったら、チームのみんなと距離が近づいた。


「平野さんには、言いたいことが言えました。自分では正しいと思ったことが、
そうではないと気づかされたり、逆に、自分が正しいと自信が持てたり……」


そう、ぶつかることを気にして、

嫌がられることを気にしてただいい子になって黙っている、

私たちはそんな関係ではなかった。


「今日もまた、久しぶりに気持ちが前に出せて、すごく吹っ切れました」


そう、私は吹っ切るためにここへ来た。

新しい世界に、1歩だけ進めるように。


「リーグ戦、応援に来てくださいね。市川君も、明石さん達も、新人の梶浦君も、
みんな平野さんに見て欲しいと思っていますから」

「あぁ……」


『これからもバレーと関わってくれる』

平野さんの返事を聞き、

私は残りのアイスコーヒーを、ストローで吸い上げることが出来た。





『バレーボールは辞めない』

平野さんから聞けた言葉。

自分のバレーが終わったという言葉は、松尾さんが来てくれたから思わず出たもので、

平野さんが言っていた通り、『トッププレーヤー』として生きてきた人にしか、

わからない台詞。

『いつものように勘違いした私』が、慌てたところで、

確かに、平野さんの思いなど理解できるはずもなく。

松尾さんの言う通り、平野さんは自分自身に環境の変化を納得させるため、

言葉にしたのだろう。



でも……



平野さんとの会話が、『振り出し』に戻せたことは、私にとって何よりも大きい。

その週末、『リーグ戦』がスタートした。





「そうか、いよいよなのね」

「はい」


『ラッコーズ』は週末、『しらゆり杯』で対戦したチームと、練習試合を組んだが、

私は朋花の結婚式があるため、欠席となる。


「昔はさ、妹が姉より先に嫁ぐのはおかしいからって、色々言われたりしたけれど、
今はそんなことも言わないわよね」

「さすがに言わないわよ」


小林さんは、自分も弟の方が先に結婚したと話し出す。


「親は一人暮らしをさせたら、そういう刺激もあるのかと思ったようですが、
なかなか……」

「あれ? 前に聞いたあの人は? ほら……」


ケーキ屋の望月さんは、駐車場で見た人と、和成のことを言いはじめる。


「あれは本当に違います。望月さんの勘違いです。
今はバレーボールと広報の仕事が楽しくて、そういった恋の話は……」


私はペットボトルの蓋を回し、お茶を飲む。


「あら、石橋さんなら大丈夫よ。諦めたようなこと言わないで。
『バーズ』の選手は? 明石君なんかどう? お調子者だけれど、人は悪くないよ」


『中華二番』の澄枝さん。

明石君のことを、本当に息子のように思っているのか、真剣な表情で推してくる。


「明石君? いやいや、だったら……」

「あの……チームのみんなとは同士のような感覚なので。互いにそういう感情には……」


同じものを目指す仲間、そんな感情。


「あら、そうなの?」


私は『そうです』という意味を込めて、頷く。


「あ、まずいまずい、ほら時間過ぎてるよ。休憩終了、練習、練習」


澄枝さんの声に『ラッコーズ』メンバーが立ち上がり、

私もペットボトルの蓋をすると、自分の袋に入れた。





『それでは、新郎、新婦の入場です。皆様、大きな拍手でお迎えください』


そして、11月の大安。

妹の朋花と、みち君の結婚式が都内のホテルで行われた。



披露宴も問題なく進んでいき、新郎の挨拶で感極まり涙声のみち君を、

朋花は横で励まし、時々ハンカチで涙を拭いている。

学生時代、バイトで知り合って、朋花が指導する立場だったらしい二人。

以前、朋花と話しをした時、みち君との関係は、どんなに言い合っても、

元に戻せる自信があるとそう話していた。


「みち君、あんなに涙もろかった?」

「結構感激屋だって、前に朋花が言ってたよ。
ほら、子供がおつかいするような番組あるでしょう。
あれ見ると、いつも泣くって言っていたし」

「あぁ……」


母は、納得出来たのか頷いてくれる。


「結花」

「はい」

「あんたはどうなのかね、結婚」


親戚も一緒に入る、丸いテーブル。

金沢に住む父の姉、初子叔母さんからの指摘。


「あんたもう30過ぎたでしょう。朋花より結花の方が上でしょうが」


初子叔母さんは、少し天井を指で差すような真似をする。

つまり、年齢が上ということ。


「姉さん、今時、どっちが先だとか後だとかは気にしないんだよ」


父がそう返すと、初子叔母さんの隣に座る、叔父さんも『余計なことを言うな』と、

膝を叩く。


「余計なこと? いや、そんなことはないわよね。年頃の娘のことだもの、
真由子さんだって気になっているわよ」


真由子さんとはうちの母。

義姉になる初子叔母さんに発言されて、愛想笑い。


「結花、『Assemble』に勤めているのでしょう。大手なんだから、
上司とか紹介するぞって言わない?」

「言わないよ、こっちでは」

「言わないの?」

「そうだよ姉さん、そんなこと俺だって部下に言って見ろ。
すぐにパワハラ、セクハラだって、大騒ぎになる」

「パワハラ? エ……それが?」


初子叔母さんは、『そうかしらね』と首を傾げる。


「まぁ、ほら、もし、そういう話があったらさ、いつ頃ってわかるようなら、
スケジュール空けないとと思ったのよ」

「あぁ、ごめんね初子おばちゃん、まだ予定が本当にないの」

「あら……結花が結婚するからって東京に来るときには、
ミッキーマウスに会いに行こうとしたのに、残念」


そういうと、嬉しそうに笑い出した。

初子叔母さんは、今回はこの結婚式に合わせて叔父さんと上京し、

明日からは都内観光と決めている。

久しぶりの親戚交流もあった朋花の結婚式は、無事に終了し、

『和田朋花』になった妹は、新しい生活に旅立っていった。


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