32 新たな火種 【32-3】



「次、サーブ行くよ」

「レシーブ、入ります」


『ラッコーズ』の練習日、サーブ練習の時間に、レシーブに入る。

今までならボール拾いをすぐに選択したけれど、

近頃は、コートに入って、拾ってみたいと思えるようになる。


「石橋さん、ナイスレシーブ」

「次、行くよ」

「はい」


『バレーボール』が益々、楽しくなってきた。

ただいま『バーズ』がリーグ戦のため、練習試合には参加できないが、

それでも、大満足。


「はい、休憩10分」


澄枝さんの声がかかり、私はすぐに荷物の場所に向かうと携帯を出した。

平野さんからのライン。

『行ってきます』の言葉が、きちんと記されている。

何気ない一言も、『私に向かっている』と思うだけで、

特別な意味を持つ気がするのはなぜだろう。


『気をつけて』


私もすぐにそう打ち込み、送信した。

スウェーデンか、あの有名な家具店って確かここから来ているはず。

日本から、飛行機でどれくらいかかるのだろう。



互いの気持ちを確認してからまだ数日なのに、これから2ヶ月会えない。

でも、『待っていていい』という約束は、大きくて安心できて……



帰ってきたら、ゆっくり過ごせるかな。



「石橋さんどうしたの、携帯見ながらニヤニヤして、何かいいことあった?」

「エ……いえ、特に」


いいことはありましたが、ここで披露する話ではなくて。

私はすぐに携帯をバッグにしまう。


「デートの予定でも決まったの?」

「いえ、違いますよ」


『ラッコーズ』のみなさん、他人の話は大好きだから、気をつけないと。


「『バーズ』今3位だものね、今年も行けるかしら」

「そうそう、次の試合に勝てたら、またチャレンジマッチの可能性があるでしょう」

「そうですね」


そうなのだけれど、相手は昨年も勝てなかったチーム。

相性が悪いのか、同じ攻撃をしてもうまく回らなくなる。


「とにかく頑張ります」


私はそう宣言して、ガッツポーズもおまけして見せた。





「あぁ、寒い」


カレンダーは12月に入った。

竹内さんが神戸に向かい、本社の広報から鏑木君が来てくれて、

また新しい体制が作られていく。鏑木君は聞いてみると私と同じ31歳。

元々、本社勤務で広報経験者のため、仕事は文句なく出来た。

担当2年目であっても、やはり私が一番新人っぽい。


「『MAZINO』に連絡を取りまして、納品についてはOKをもらっています。
来年が創部30周年ということもあるので、
グッズなども全てリニューアルの予定ですが……」

「OK、了解」


松尾さんは鏑木君の説明を途中で止めると、『大丈夫』と指でグッドマークを作る。


「……そうですか」


もっと細かく説明しようとした鏑木君は、話の腰を折られてしまったのが寂しいのか、

少し不満そうな顔をした。



「あぁ……理論派は面倒だな」


松尾さんが本社へ向かう仕事を鏑木君に頼んだため、事務所には私と2人。


「そうですか? 本社からと言われて、思わず見城さんを思い浮かべましたけれど、
鏑木君は嫌みもないし、仕事も速いですし、
それに聞いたことにはしっかりと答えてくれますよ」

「いやいや、見城さんのような珍しい人間が、複数いたらやる気が無くなるでしょう。
普通、あそこまで癖のある人間はいないよ」


松尾さんは新聞を広げて、何やら記事を読み始める。

お茶、入れようかな。


「で、付き合いを始めたらしいじゃないの」

「……エ」

「エ……じゃないよ、平野から連絡があったよ。スウェーデンに行く前に、
そういう話になりました。石橋さんをよろしくお願いしますって」


平野さんが報告? いや、そういう話って……


「いや、松尾さん。あの……すみません、私……」


プライベートなことだし、実際はまだ何も始まっていないから、

松尾さんに言う必要があるとも思っていなくて。

でも、平野さんの事情を私にだけ語ってくれた人だから、確かに報告すべきだったかも。


「いやいや、そんなものいいんですよ」


松尾さんはそう言いながらも笑っている。


「すぐにスウェーデンに行ってしまったので、お付き合いを決めてから、
二人で会ったこともないんです。まぁ、仕方が無いと言えば、ないですけど……」

「だろうね、報告受けて驚いている間に、あいつ、行っちゃったし」


松尾さんは指で空を差す。


「あの……」

「何?」


ちょっとした疑問が浮かんでしまって。


「平野さんって、松尾さんにはいつもそんなふうに報告を入れているのですか?」

「ん?」

「いや、あの……誰とお付き合いをするとか……」


高野さんのことも、松尾さんは知っていたし、

二人の関係性がいまいちわからない私からすると、どこか不思議と言うか……


「初めてだよ、そんなことをあいつが言ってきたのは」


松尾さんは『昔から会っても自分のことはあまり言わない男だから』と、

平野さんを語ってくれた。


【32-4】



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